第23話 「弦」
ウリュウはチサトが去り、
広くなった古家の中を片付けていた。
父の使っていたものや、チサトが使っていた物などを分けて、
一人で手入れをしたりしまいなおしたりしていた。
その中に父が残した弓があった。
緩められた鉉を眺めまだ使えそうだと確認すると、父の姿を思い浮かべ笑みがこぼれる。
「ウリュウ、これは何に使うの?」
後ろからセナの声がした、
ウリュウは振り向かずにその弓を眺めながら答える。
「これは獣や賊を退けるのにつかう。」
「そうなんだ…。」
セナはウリュウの背中を見つめていた。
チサトがいなくなったのもあり、少し気にかけていたがウリュウは変わった様子を見せる事はない。
あれから寺院に通うのをやめ、今は黙々と二人で農作業を行なっていた。
都への商いの方はチサトが大体の事を教えてくれていたので、何不自由なくサイと続けられている。
広げたものを一つ一つ手に取りながら汚れをはらうウリュウはセナに
「これからしばらくは二人になる、
セナには寂しい思いをさせるな。」
と、それだけは心配そうに呟いた。
その言葉にセナは首を横に振る。
「チサトすごく綺麗だった…、
すごく喜んでた…。」
「ああ。」
「わたしね、あの時胸が熱くなって…。
これが幸せって事なんだって。
もちろん今までも幸せだったんだけど。
こういう事も幸せなんだって。
ウリュウとチサトがわたしに教えてくれた事だから。
寂しい事かもしれないんだけど、
嬉しい気持ちの方が大きいの。」
「セナ…
…いつかは…。」
ウリュウは目を伏せると、セナは後ろから抱きしめる。
「ウリュウ…
一緒にいてね。」
「……。
そうだな…。」
首に回されたセナの腕の中で、
ウリュウは今まで少し張り詰めていた心を緩める。
時間の流れが合わないこの少女の幸せのために、
自分に何ができるのか、どうすれば良いかと考えていた。
そして弓を握る手に力をこめながら
思いつくのはやはり、誰かの側に寄り添い
見守る父の姿だった。
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