ディアン・ケヒト ~異世界の救急救命医~

ろくたろー

プロローグ

「おい隊長!これ以上は無理だ!魔獣の数が多すぎる!」

「まだ治療が終わってない!」

「このままだと村諸共飲み込まれるぞ!悪いが老人一人の命に払える代償じゃない!」

(・・・・・わかってる、わかってるんだ!・・・けど!―――――)


―――――――――――――――――――


『なあ、じいちゃん』


『師匠と呼べと言っておるじゃろ。なんじゃ』


『命の重さって違うのかな?』


『ほう、お前はどう思うとる。命に価値があり、そこに差はあるじゃろうか』


『僕は、無いと思う。どんな命も平等であって、優劣は無いと思う』


『では、儂と赤の他人が同時に命の危機にあり片方しか助けられない時、お前はどっちを助ける』


『え?それは・・・・・・じいちゃんだと思う・・・。でもずるいよ、どっちも助けられるかもしれないだろ?』


『命は平等である、この考えは間違いでは無い、これからも抱き続けて欲しいおもいじゃ。が、その価値観を他者に強要できるのは、命の選択を迫られた場面で総てを救う事のできる、それだけの力を持つ者だけなのじゃよ。言葉に出し、追い続けるのは勝手じゃが、万一の時に「救いたい」「救えるかも」と運や願望を持ち出す者には命の価値を説く資格は無いのじゃよ』


『・・・・・・』


『思った答えと違ったかの?』


『いや、そういうんじゃ・・・』


『まあ、平等の定義も力の大きさも変化し続ける不確かなものじゃ。お前の理念に従いながら他者の理念に触れ、都度最適な答えを導き出しなさい』


『わかった!先ずは目の前の命を救えるように頑張るよ』


『そうか。じゃあ修行も増やさんとじゃな』


『あっ!そうだ、もう夕飯作らないとだ!じゃあね!』



『なにが「じゃあね!」じゃ。ったく、親子揃って礼儀がなっとらんの。・・・・・・そういえば、もうすぐ命日じゃったの・・・あの日、レンの心からお前たちが消えてしまってからもう五年か・・・』


思い馳せる彼の向かう先には、小さな石碑が立っている。


―――――――――――――――

Lei Walter     Anna Walter


  Requiescat In Pace


    LUNIUS 9


Discipulo meo dilecto dedicatum


    Kyrios Thrylos

       

      

       

―――――――――――――――



―――――――――――――――――――


「お前の能力は認めているが、命を預ける判断は任せられない。今回の件で少しは成長して欲しいもんだ」

「ちょっと、その言い方は無いでしょ!隊長もあんたも完璧じゃ無いのよ。少しは協力しなさいよ」

「いや、いいんだ。あいつの言う通りなんだ。すまなかった」

 初めての死者。

 理想には程遠い現実。

 六人の間には少しづつ、でも確実に溝ができ始めている。



「とうとう死人が出たか」

「はい、どうやらその村の村長だそうです」

「ははっ、軍医を超えるシステムなどと豪語しておきながらなんと滑稽な。ハーバル候に使者を送れ、使えるものは手に入れておこうではないか」

「はっ」

「レピオスよ、貴様の理想如きに邪魔建てされては困るのだよ」


 ――くっくっく、はーはっはっは――





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