第7話 試験Ⅱ
通路を進むと外への通用口があり、その横に一人の男性が立っている。五十代前半の面持ちに整えられた口髭、白髪交じりの黒髪は横を刈り上げ七・三できっちり分けられている。厳格な雰囲気を持ちながら目の奥から優しさを感じられる、そんな心象である。
恐らく彼が試験管なのだろう、近づいてくるレンに声をかけてくる。
「君が今日、新部隊の入隊試験を受ける医師かね?」
「はい、レン・ウォルターと申します。よろしくお願いします」
「うむ、私は王国医療協会教育部部長、カルロス・ヘレネ・シェルノリスだ。カルロス部長と呼んでくれて構わない。本日の試験管を担当する。それと新部隊の担当顧問も務める予定だ、よろしく頼む」
試験票を確認し自己紹介を済ませると、付いてくるよう促し協会本部の裏にある訓練場へ向かう。
訓練場には既に五人の男女が集合していた。その中には入口で出会った宮廷近衛騎士二人の姿も見受けられる。五人はレンを見ると驚くと同時に、釈然としない表情を浮かべ試験管を見ている。
レン本人は受験仲間との初対面とあり、わくわくした笑顔で五人の前に立っている。
「皆、待たせたな。これから、王国医療協会直属救命部隊・通称『ディアン・ケヒト』の顔合わせを行う。まず、この者が隊長レン・ウォルターである」
「へ?え!?カルロス部長、どういうことですか?」
「すまんな、ウォルター君。実は君の入隊はすでに決まっていて、尚且つ隊長でもある。実力を鑑み、レピオス会長が既に決定されている」
「そうなんですか!?じゃあ、今日の試験とは一体・・・?」
レンの問いかけにカルロスが事の
どうやら、レイル・レピオス会長がレンの師匠キリオス・スリーロスに対して、新部隊の隊長候補となる人物の推薦をして打診していたそうだ。そこで白羽の矢が立ったのがレンだ。以前からキリオスに自慢されており、レイルもレンの実力は問題ないと判断している様だ。
今日は、顔合わせと最終意思確認とのことだ。
「そういう訳で、ウォルター君の反対が無ければこのまま続けようと思う。が、どうだろうか」
( ――――――― )
「少し驚きましたが、異論はありません」
数秒俯いたが、直ぐに顔を上げ答える。
事前説明が一切無い事には納得し兼ねるが、自身の目標に支障は無い為レンも反対はし無い。
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」
「おい!ちょっと待ってくれ!俺達側に異論がある!」
そう発言したのは先程の宮廷近衛騎士の一人だ。
「君は確か第七宮廷近衛騎士団から転属となったリヒルデルト君だね。理由を伺っても良いかね?」
「当たり前だろ。出自も分からん平民医師の下に付くなど納得できる訳がない。況してやお守り役だぞ?」
感情を露わにして意見を述べるロータスの横から落ち着いた声で、しかし憤りを乗せた言葉が耳に入る。
「私も納得できません。身分の問題ではなく、彼の実力が不明瞭過ぎます。ファントムカード所持者だとは伺っていましたが、魔力も殆ど感じられない彼にそれだけの実力があるとは到底思えません」
「君はリヒルデルト君と同じ、近衛騎士のエルヴァリア君だね。君達の言い分も理解はできる・・・」
ロータスと共に行動していたもう一人の近衛騎士、リーシャ・ヒルデ・エルヴァリア。
彼女の指摘に他も頷いている。
「そうだな、では今から模擬戦を行おう。ただ、まず初めにお互いの自己紹介をしてもらう。ウォルター君もそれで良いかね?」
「はい、大丈夫です」
カルロスの問い掛けに二つ返事で答える。最初から与り知らぬ所で話が進んでいる為、レン自身流れに身を任せることにしたみたいだ。
まあ顔合わせの場所が訓練場なのだ、カルロスも分かっていたのだろう。
近衛騎士のロータスから順に名乗ってゆく。
「ファーメルト王国第七宮廷近衛騎士団所属、ロータス・フォン・リヒルデルトだ」
「同じく、ファーメルト王国第七宮廷近衛騎士団所属、リーシャ・ヒルデ・エルヴァリアです」
「僕は王都中央病院総合医療科所属医師、アレン・ナイト・リオレシア」
王都中央病院は国内屈指の大病院で、配属されるのは優秀な医師や看護師ばかりの為、務められるだけでも周りから一目置かれる。また、その中でも総合医療科の医師は特にエリートだと言える。
「私も同じく王都中央病院総合医療科所属看護師、リオナ・ミア・ラシードと言います」
最後の女性は色白の肌に金色の長髪、空色のローブをに身を包み彼女の背丈に僅かに足りない杖を片手で支えている。恐らく魔法使いであろう。
「私はAクラウン級ソロ冒険者、ユーリ・ミスドレンです。よろしく」
◇ ◇ ◇
冒険者とは、『ギルド』と呼ばれる国営機関に登録し、魔獣討伐や護衛の依頼を引き受ける者たちの総称である。活動内容・時間、同行人数、人種に一切の縛りは無く、己の腕のみで飯を食う為、そう呼ばれるようになった。
階級はE~S級まであり、その中でも国王が選定し王国が直々に依頼を出す冒険者にはクラウンランクが授けられる。実力も人柄も王国に信頼される人物である証拠だ。因みにクラウンランクの冒険者は王国内に四組十五人のみである。
◇ ◇ ◇
「僕はレン・ウォルター。無所属の医師ですが、今回新部隊の隊長に任命されました。よろしくお願いします」
レンの自己紹介が終わり、カルロスが仕切り直す。
「では、模擬戦に移る。当たり前だが殺しは無しの対一、私が戦闘不能と判断した場合はその場で終了とする。医師、看護師の二人は別の方法でも構わない。何か質問は?」
「私は辞退します」
言い放ったのは看護師のリオナだ。
「私は看護師なので、戦闘能力ではなく医療技術で判断します。彼の治療の腕前は以前見たことがあり、技術力に不満は無いので彼の隊長に異論ありません。」
「あー!この前の広場の!・・・看護師、だったんだ」
「ほんの数日前に目を見て会話したのに気付かないなんて、失礼ね」
「それは・・・ごめん・・・」
周りは二人の身内話が終わるのを静かに待っている。
「分かった。他の者は宜しいか?」
「僕も実任務での治療を見て判断したいので、保留でお願いします」
条件を提示したのはアレン。彼は十六歳にして戦時救急医療国家資格の所持者であり、王都中央病院でも実力はある若手医師である。
カルロスは頷き、アレンの要望を呑んだ。
「では、模擬戦に移ろう。最初は誰だ?」
「俺から行く」
最初に名乗りを上げたのは近衛騎士ロータス。瑠璃紺色に淡く光る大剣をに手をかけ笑みを浮べている姿はまさに傲岸不遜である。
突如、カルロスの背後に紫に光る魔法陣が現れる。
「皆さん顔合わせは順調ですか?」
「会長!?お疲れ様です!」
畏まるカルロスに軽く微笑みながら、反応に困っている六人に視線を向ける。
続けてカルロスが状況を説明する。
「丁度今から対一で模擬戦を行うところです」
「そうですか、折角なので観戦させて貰います。あ、それとレン君とは対一ではなく対多での擬戦にしましょう」
「は!?」
不覚にも宮廷近衛騎士に有るまじき言葉が漏れる。
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