魔王にしてくれとは言ったけど……

みょ~じ★

第1話:魔王誕生

 目覚めたら何もない空間に転がっていた。本当に何もなく、真っ暗闇で、地上らしきものもなかった。かといって落下しているようなわけでもなく、ただそこに浮いていた。まあもっとも、浮いている感覚もないわけだが。

「……話が違うんだけど」

 確か、「魔王にしてくれ」と願ったはずなのだが、これでは意識だけどこかにある状態じゃないか。

「誰か、誰かいないのか」

 前と思しきところに問えど、返事はない。

「……騙された」

「だましたとは如何様な、仮にも神だぞ、私は」

「おわっ、さっきの人!?」

 騙されたと呟いたら、さっき会った人が現れた。相変わらず眉毛が濃い。

「……まさかとは思うが、何も知らんと魔王を祈念したのか?」

 その、濃く太い眉の人が、宙に浮いたまま話しかけてきた。何だか知らんが、地獄に仏だ。ありがたくすがらせてもらおう。

「ああ、ちょうどよかった。誰もいなんだけど」

 っていうか、自分の姿すら認識できないんだけど。

「当たり前じゃ、お主が祈念せんと、誰も現れんぞ」

「はぁ?」

 なんだそりゃ。呼び掛けてるじゃないか。

「……まったく、本当に何も知らんようだな。よいか、魔王というのは特定の姿などない。歴代の魔王も皆、自身の姿を祈念して維持しておるのだ。そして、部下もまた、祈念で作り出しておる。そして、それは神々も同じ。神々ともなると、自身の住む空間も祈念で作り出しておる。

 ……まあ、もっとも。おぬしとてそれは可能じゃ。魔王ともなれば、神々に匹敵する魔力を持っておる。ほれ、試しに何か作ってみんか」

「ああ、そういうことか。だったら……」

 姿をイメージしてみる。すると、何もない虚空に自身が浮かんでいる感覚が出てきた。……出てきた、はいいんだけど……。

「……あのさ」

「ん、なんじゃ? ……おお、お主中々変わった姿が好みなんじゃのう」

「姿が、見えないんだけど」

 ……おかしいな。肉体がある感覚はあるんだけど、何も見えない。

「……おぬしな、鏡もないのに見えるものなのか?」

「えっ」

 ……ああ、そういうことか。じゃあ肉体はある、と。

「で、次は……」

「これ、そう軽々しく作るでない。魔力を無駄に遣ってはいかんぞ。おぬしほどの魔力の持ち主とはいえ、有限なのじゃからな」

「えー」

 ……聞いてねえぞ、おい。

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