第2話 同じ年の同じ日に生まれたメイド!【リーザ視点】

 なぜ自分が許されたのかまるでわからない。


 絶対に自分は地下の牢獄行きか、頭をツンツルテンに剃られてしまうものと思っていたのに、結局なんの罰も与えてくださらなかった。


 あの方にならどうされたってあたしは構わないのに!


 タッカ王国のロキ村という貧しい村に生まれたあたしは、あの方、ベルベッチア・ラーグ様と同じ年の同じ日(どうやら生まれた時間も同じであるらしい)に生まれたというだけでラーグ侯爵家に高給メイドとして雇われることになったのだ。


 なんでもこのラーグ侯爵家では、同じ年の同じ日に生まれたメイドを雇うと子どもの運気が上がると信じられているらしい。


 もし、あたしがあの方と同じ年の同じ日に生まれていなかったら、あたしの父の病気は改善しなかっただろうし、あたしもきっとどこかで野垂れ死んでいたに違いない。


 だから、ある意味ではあの方はあたしの命の恩人なのだ。


 それなのにあの方が大切にしていたウサギちゃんの絵皿を割ってしまうなんて!


 そんなことをしてしまったのだからもう何をされても文句は言えない。


 たとえ殺されても・・・・・・。


 そう思っていたのに!



「すまなかったな、リーザ。すべて忘れてくれ」


 あの方はあたしの胸についている名札を見つめながら、あたしにしか聞こえないような小さな声で確かにそう言ったのだ。


 信じられなかった。


 あの方があんな優しい言葉を掛けてくださるなんて!


 まるで人が変わってしまったみたいだ。


 ひょっとして同じ年の同じ日に生まれたよしみで許してくださったのだろうか?


 いや、あたしの名前すらあの方は憶えていなかったのだ。

 

 あたしが自分と同じ年の同じ日に生まれたなんてこと知っているはずがない。


 では、どうして?


 もしかして、あたしはあの方に見初められたのだろうか?


 まさか!


 そんなことがあるはずがない。


 では、あたしの気持ちがあの方にやっと通じたのか?


 頼れる親もなく、引き取って暮れる親戚もいなかったあたしにとって、このラーグ侯爵家のメイドとして雇われたことは奇跡のような出来事だった。


 そして、その理由があの方と同じ年の同じ日に生まれたからだと知った時、あたしはあの方に生涯尽くそうと決めたのだ。


 あの方が驚くほど怠惰で、傲慢で、愚かな人間だと知っても、生涯尽すというあたしの決意が揺らぐことはなかった。


 そのあたしの気持ちがやっと通じて、あの方は心を入れ替えてくれたのかもしれない。


 だとしたら、本当にあたしは皆が言うようにあの方の運気を上げることができる唯一の存在なのではないだろうか。

  

 そうだ! 


 そうに違いない。


 あの方にはあたしがいなければいけないのだ!


 まずはあの方がこのラーグ侯爵家の当主になる日まで、あの方に誠心誠意尽くしていこう。


 そして、もしその先の将来であの方が命を差し出せと仰ることがあれば喜んでこの命を差し出そう。

 

 だって、あの方はあたしのたった1人の運命の人なのだから。


 あれ? あの方のことを考えていたら体が・・・・・・。


 なに、これ?


 これがあたしの能力スキルなの?

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