第6話

アルバートは、いつも優しく微笑んでくれる。


マディーレの話す事を嬉しそうに微笑んで、全てを聞いてくれる。


例え、それが『妹』扱いだったのだとしても。


マディーレは、幼い頃からアルバートに優しくされ、とても幸せな幼少期を送った。


そしてそれは、今なお続いている。


だからこそ、アルバートの悲しみが少しでも軽減出来るなら、マディーレは何でもする。


そう思って走ったのだ。


「だから、危ない事はしないで欲しい。…君が…心配なんだ。」


「これからは…気を付けます。」


マディーレの返答に、アルバートはようやくホッと息を吐いた。


「どうしても…アルバート様が心配で…」


俯きながら呟くマディーレの頭を、アルバートはそっと撫でる。


反省しているマディーレに、これ以上怯えるような真似をしたくない。


アルバートは、マディーレを安心させようと笑顔を見せた。


「…あ、あの…アルバート様。…私、アルバート様のお隣に座ってもよろしいでしょうか?」


怒りを引っ込めたアルバートに、マディーレは少し安心して言葉を続けた。


「…ん?良いよ。…あぁ、馬車が動いているし危ないから、私が動くよ。」


マディーレのお願いに、アルバートは笑顔で答える。


そしてアルバートはマディーレの隣りに移動する。


「…どうしたの?」


いつもの優しいアルバートに戻った。


しかしアルバートはきっと、とても傷付いている。


婚約者であったシーミュラにぞんざいに扱われ、傷つかない訳が無い。


なのに、そんな傷付いた所をマディーレには見せずに微笑むアルバート。



「私…アルバート様がとても傷付いているのが…とても悲しくて…」


マディーレの言葉に、アルバートは嬉しそうに微笑む。


「…優しいね、マディーレ。でも、心配はいらないよ。私なら大丈夫だ。」


しかしマディーレには、アルバートの言葉もマディーレに心配を掛けないように強がって言っているように聞こえた。


やはり、大好きなアルバートが少しでも元気になって欲しい。


マディーレはそう考え、心の中で気合いを入れる。


「アルバート様。…手に…触れてもよろしいですか?」


「うん?良いよ。どうしたんだい?」


マディーレの突然のお願いに、アルバートは少し驚いた。


しかし快く承諾する。


手を触れ合う事など、マディーレと会った時はいつでもしている事だからだ。


するとマディーレは、そっとアルバートの手の上から自分の手を重ねた。


そしてその手を持ち上げた。


マディーレが何がしたいのかが分からないアルバートは、その成り行きを見守る。


「…こう…したら…、アルバート様の傷付いた心を…少しは慰める事が出来ますか!?」


マディーレの小さな手に導かれ、アルバートの大きな手が、ポフッとマディーレのまろみを帯びた胸を包んだ。

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