大好きな人を慰めようとした結末

ヨル

第1話 『婚約破棄』

そこは、とある王国。


多種多様な薔薇が彩る、王宮内の庭園。


そこで、王族が招いた貴族が沢山集まり、お茶会が開催されていた。


そんな最中、その国の、女性でありながら王太子であるシーミュラは、傍らにいる男にしなだれ掛かりながら、目の前にいる男に言い放った。



「アルバート・ベルディック。貴方に王配は務まらない。」


シーミュラは鼻息荒く、手にした扇子をアルバートに向けた。


そしてシーミュラの肩を抱き寄せる男、ケネスも同様に見下した視線をアルバートに向けた。



元々、シーミュラとアルバートは政略結婚の予定だった。


王族であり、その国の次期女王候補のシーミュラ。

そして公爵家のアルバート。


幼き頃に取り交された、政略的な婚約関係。


それを、シーミュラは大勢の来客が賑わう場で破棄しようとしていた。


「シーミュラ様?…それは…」


「発言を、私は許可していないわ。」


シーミュラは目を眇め、不快感を顕にしながらアルバートに言う。


公爵のくらいであれど、王太子の方が身分は上だ。


そのシーミュラが発言を許可しないと言う。


アルバートはそのまま唇を引き締め、彼女の言葉を待つ。


「そもそも王配候補の一人である貴方が、王太子である私と対等だという態度が“重罪”なのよ」


シーミュラは持っていた扇で口元を隠すが、それでもその目を見れば分かるほどに嫌悪感を表していた。


「私が、貴方を“相応しくない”と思えば…、それが正しいのよ」


そう言い切ると、再び手にある扇をパチンッと閉じた。


「…よって…本日、ここにいらっしゃる皆様を証人として、貴方に“婚約破棄”を申し付けるわ」


時期女王であるシーミュラの発言を聞き、周囲でことの成り行きを見守っていた人々は言葉を無くす。


彼女が行った『婚約破棄』の宣言には、政略などの理由では無かった。


ただただ、利己的な感情のみで宣言された『婚約破棄』。


確かに彼女は王族であり、貴族の中でも“天上人”ともいえる身分だ。


しかし、だからと言って全ての“不条理”がまかり通る訳もなく。


彼女にとっては『小鳥程度』でしかない周りの貴族は、冷ややかな目でその様子を見つめる。


だがシーミュラに取ってみれば、小鳥が囀るさえずるようなモノ。


小鳥の囀りに対して、不快になる者など小物だ。


だからシーミュラは笑顔を見せ、アルバートを見下すように視線を向けた。


「…失礼ながら…、発言をお許し下さい。…して、シーミュラ様。…“婚約破棄”…。コレは、“決定事項”で宜しいので?」


アルバートは“婚約破棄”を叩き付けられた者とは思えない程穏やかな笑顔を周囲に、そしてシーミュラに見せた。


「えぇ。…見ていなさい。」


シーミュラはアルバートに“見ていろ”と言うと、隣りにいる男性に絡めていた腕を解き、1歩前に出た。


そして右手を前に、スッと伸ばした。


スラリとした細い腕から伸びる、嫋やかな手。

その先にある指にはゴールドの指輪だ。


この指輪は『王太子』である者のみが身に着けることを許されるモノ。


その世界の女神たる『ルアトリーレ』の意思を表す、透明度の高い七色の宝石が埋まっている。


王族はその女神の意思である神託を、宝石の輝きを持って知る。

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