第50話 運命の伝道者
リュウコと別行動をしているエリサは、依頼に書かれている集合場所に到着した。
そこは、蓋が外れたままの地下水路への入り口で、何故か何もせず待機することになってしまった。
魔物の気配も特に無く、ただ待たされているだけの状況にエリサはストレスを抱えていた。
「昨日から勇者様が4人も来て、マッドラットを倒すために地下水路で戦っているらしい。」
「この世界に来た時は素人だったのに、数ヶ月で大量発生した魔物を相手に戦えるようになったんだと。」
「すげえや、魔王やら魔女やらもそのままぶっ殺してくれねぇかな。」
待機状態をいいことに、雑談に華を咲かせている他冒険者たちの隅で、不機嫌なエリサはその話、勇者の噂に耳を立てている。
「なんでも、【神聖】属性を扱える聖女のような人に、風魔法を使う勇者と、強化魔法で戦う戦士、どんな魔法でも使える万能な魔法使いの4人パーティらしい。」
「すげぇ、しかも、他に何十人かいるんだろ?」
などと、地下水路につながっている穴すら見ず、和気藹々と談笑を続けている冒険者たち。
その中で、唯一警戒を怠っていない様子の騎士のような恰好をしている男に、エリサは目を向ける。
「ん……なに、この音。」
ふと、ガタガタと変な音が下から聞こえ、エリサは反射的に魔力の探知を地下に向ける。
とはいえ、分厚い地面の先の魔力など感じ取れるわけもなく、地下に通じている穴から、少しだけ魔力の揺らぎを感じた程度だった。
そんな違和感に小首をかしげていると、今まで静かに警戒していたはずの騎士が、大きな声を上げる。
「シオン様!?なぜここに!?」
そう言った声の方に目を向けると、そこには文字通りの聖女が立っていた。
綺麗な色素の薄い赤毛をなびかせ、妖精のような可憐さと小動物のような可愛さを併せ持った、庇護欲の化身。
その姿は天からの光でも浴びているように輝いて見えて、騎士を見つめる双眸はどんな宝石よりも黒く深い色をしていた。
「マッドラットが数匹、こっちに逃げてきたんです。」
状況を報告しているだけだと言うのに、その声は耳に張り付いて離れないほど、鈴を鳴らすという言葉の通りに美しかった。
二人がしているやり取りの内容はあまり聞き取れなかったが、ヴェルモ伯という貴族の邸宅近くにラットが逃げたのだけは理解できた。
「もしも異変があるようでしたら、こちらに戻ってきて再度作戦を立てます。」
そう言った騎士の言葉を聞ききったのか、言い終わるよりも早く飛び出し、その姿にその場の冒険者全員が目を奪われていた。
「———サムさん!?シオンちゃん来ました!?」
「ふ、ラン様!!カオミ様達のいるヴェルモ邸に走って行かれました!」
続いて来た、不思議な格好をしている身長の高い女性。
鈍い金色の髪と、不自然な小麦色の肌をしているが、シオンと呼ばれた聖女と方向性が違うが同じくらい綺麗な女性。
そんな人に言われた騎士は、シオンの行った方を指差して教える。
息切れしているその女性は、それも構わずに指差された方に走り出した。
二人の正体が、勇者であるということは察しの良い冒険者から簡単にバレて、サムと呼ばれた騎士は他の冒険者たちから囲まれてしまった。
「何か異常事態か!?」
「俺達にできることは?!」
「あの二人のお名前を教えてください!」
など、関係あることから関係ないことまで質問攻めする冒険者たちに、嫌そうな顔をして距離を取る。
そうして、冒険者たちの陣形に明確な空きができたところに、彼が跳んできた。
――ズゥン
「エリサ!なにかあった!?」
それは、別の依頼を受けたということで別行動をとっていたリュウコ。
そんなリュウコが、地面にクレーターを作るほど大急ぎで帰ってきたということに、エリサは思い至る。
「シオンって人と、ランって人がヴェルモ邸の地下に!なんかあったみたい!」
「分かった!」
そう言うと、リュウコは着地の時よりも更に大きなクレーターを作る程、力強く跳躍してその場を去っていった。
それを見ていたのは、視線がエリサの方を向いていたサムだけで、他の冒険者たちは轟音と砂埃に困惑して、当分何も反応しなかった。
◇◆◇
ヴェルモ邸の地下水路で何かが起こっているという異常事態を聞き、移動の速度を高めるリュウコ。
界力で作った足場を破壊するほどの勢いで蹴り、とにかく速くヴェルモ邸に到着しようと走る。
魔力の探知をすれば、地下水路への入り口はすぐにわかるが、そこに綺麗に着地しつつ地下に入れるかは賭け。
そして、その賭けは普通に負けることになる。
「うぉおおお!!?」
「なンだぁああああ!!?」
地下水路への蓋、『マンホール』の入り口に、人影があった。
そのため、急遽着地点を変更してその真横に墜落したリュウコは、出てきている人と目が合う。
驚いているが、力強い目をしている強面のヤンキー。
「カオミ君!」
「リュウコ!てめぇ生きてたのか!?」
死んだと思っていた友達との再会と、今はまだ会いたくなかった友達との再会。
しかし、二人の表情は同じで
「シオンがあぶねぇ!」
「シオンさんが危ない!」
同時にそう言った二人。再び穴の中に戻るカオミと、それを追いかけるリュウコ。
穴の中では、腕を組んで仁王立ちしているイッセイの姿があった。
「封じられし魔の者よ。彼の地に目覚めし邪悪が、清き魂を奪わんとしている。いざ往かん。」
「んぁ?あ、あっちに行ったぜ!」
そう言って指差したのは、先の見えない地下水路の先。
一拍遅れてカオミも指を差し、シオンがどちらに向かったのかを教えてくれる。
「話は後で!」
そう言って、全力で駆けるリュウコの後ろ姿を、二人はとにかく見つめていた。
「話すことなど何も無い。お前は自由なのだから。」
◇◆◇
水路の奥、冷気漂うその場所は、魔力の光で明るく照らされていた。
そこにいるのは気持ちの悪い見覚えのある背中と、倒れて、中ごろから無くなっている腕を天井に向けて伸ばしている、シオンの姿。
手の先は氷漬けになっていて、血は流れていないが、あれは明らかに魔物の類。
しかも、コロポの里で戦い、コロポソードとなったエンペラーコロポと同じ『進化変異』の個体。
エンペラーコロポと同等の力を持つ化物。
しかしそんなことよりも、倒れているシオンの姿からリュウコは目を離さない。
目は虚ろで、小さく何かを呟いているように見えるその姿は、見ていられないほど痛々しく、どれほどこの魔物に痛めつけられたのか分からない。
少なくとも、年端も行かない少女が両手を失うというのは、想像できないほどの絶望だ。
それを理解した瞬間、リュウコの目のまえが赤くなって、足に入る力が一段階強まった。
そして、怒りに任せてその『進化変異』を殴ろうとした時、シオンの、間違いのない声が聞こえた。
「りゅうこくん……また会えるかな。」
その言葉が聞こえたのと同じに、リュウコの拳は『進化変異』の顔面を殴り、悲鳴も上げさせないまま遠くに殴り飛ばしていた。
「待たせて悪い。こんな俺だけど、また会ってくれるのか?」
これが、リュウコとシオンの再会だった。
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