第39話 オーラド

 街までの道のりで様々な魔物を倒したリュウコは、大量の魔核を手に入れている。

 その使い道は多くなく、大まかに二つ。

 コロポソードに食わせて強化すること。売って金にすること。


 魔核とは魔物によって種類が明確に分かれており、例えば同じラット系であっても『マッドラット』と『ウィンドラット』では異なる特徴がある。

 つまり、どの魔核がどの魔物のものなのか、見て鑑定することが可能。

 ギルドなどは魔核の種類によって依頼の成功失敗を判断するほど、その鑑定は信頼されている。


『迷宮のも含めればかなりの額になル。ダルいが、金は必要だろウ?』

「金か。別にいいけど、こんなので良いのか?」


 回収した魔核は、【無】属性魔法の基本形の一つ『異界』で格納している。

その数はもう数えられないほどで、無限に近い異空間の中でぎちぎちとひしめき合っている。


『コロポソードはそれだけで十分な力を持つ魔武装ダ。テキトーな上級以下の魔核程度だとなんの足しにもならなイ。それなら魔力を込めて使った方がまだ有効ダ。』

「剣使いにくいんだよ。」


 最初はテンション上がって剣を振り回していたリュウコだが、すぐさま気づいたことがある。


「アレ、最上級くらいになるとまともに斬れなくて鈍器になるし。」


 上級で既に柔らかいかぼちゃくらいの硬さで、少し萎えていたのに、最上級でもう切れなくなって、リュウコはコロポソードのテンションじゃなくなっていた。

 なんせ、剣を使うよりも魔力を込めてチョップでもした方がするすると両断できるのだから。


「なんならコロポソードも売るか。」

『おま、マジか。あんなエモい感じで倒してたのニ。』

「だって魔武装とか進化変異とか超常級とか、カッコイイ感じだったのに、こんな百均の包丁くらいの切れ味ってどうなのよ。」


 リュウコがそんな評価を下すのは、この世界の武器事情に疎いから。

コロポソードは超常級の進化変異からドロップした魔武装にふさわしい性能をしている。特筆するべきはその『属性浸透率』と『硬度』。

属性魔法を扱わないリュウコにとっては必要の無い項目である『属性浸透率』。

 最も重要になる項目は『硬度』。リュウコの扱う宝力は身体機能を大幅に叩き上げるガソリン。現在のリュウコは、簡単に言えば握力が400キロある。そんなバケモノが力任せに振るう直刀が、一切の変形無く耐えているという異常な現象。


 それに全く気付いていないのである。


 ガイドは何も教えていない。そもそもにしてリュウコに武器の扱いを教える気はない。

 その必要が無いから。

 であれば、何故コロポソードを使うように仕向けているのか。


『それはお前にとっても良い武器ダ。使っていて損は無いだろウ』

「根拠薄弱ぅ~。ま、いいや。」


 そう言うと再びコロポソードを片手に持ち、左手に『魔星』を出現させると、走り出す。


『逆だ馬鹿。オーラド商街は反対側!』

「先に言えやボゲェ!!」


◇◆◇


 『魔星』に張り付けたコロポソードを振り回す。

自動的に魔力を循環させ、無理矢理回転させて衛星化する。

 それによってコロポソードに経験値を与えることが可能で、リュウコが剣の扱いに気を裂くことが無くて済む。

 経験値の足しにもならないと言われた上級以下の魔物を相手にぶんぶんと回る刃。

 強い魔物ももう見なくなって久しいため、今は露払いにちょうどいい。


『街が遠目に見えてきたナ。アレがオーラド商街』

「へぇ、馬車から見た街並みに近い気がするな。」


 遠くに見える街は、外壁らしきものに囲まれた大きな街。

 異世界ファンタジーものでよく見るような街並みだが、それは外敵から有効的に街を守るための知恵。

 文化的特徴と合理的特徴を兼ね備えた違和感のある構造。


「門無くね?」

『こっち側は魔物の巣窟すぎて出入りすることがなイ。脆弱な門扉を取り付けるよりも分厚い壁が必要ダ。左右に回り込めばあるサ。オススメは左。』

「理由は?」

『右なら王都側からということになル。お前が勇者だったと気づかれるかも知れなイ。コロポの里も方角はあっちだしナ。逆に左は神聖国や帝国からの来客だと思われル。実力も疑われないだろウ。』


 右をチラ見。何も見えない平原の先を見つめ、決意を固める。


『いいカ、戻ろうなんて絶対に思うなヨ?』

「わかってる。」


 リュウコは勇者として王都には戻らない。

それは一番最初の目的である『仲間と共に日本へ帰還する』ということに深く関係があって。



◇◆◇


 それはまだコロポの里にいた頃。悪魔との戦闘中。まだ始まったばかりの頃。

 

『ぐべ……』

「休憩だ」


 当然のように地面に打ち付けられて気絶しかけているリュウコに、悪魔は話しかけてきた。


「お前はもっと強くなれ」

『絶対に強くなってやる。なって、皆のところに』

「いや、勇者どもと合流はするな。」

『……は?』


 決意を新たにするリュウコに、冷や水をかけるようなことを言う。


「いいか。魔王を倒したら元の世界に戻れるなんて思うなよ。世の中そんなに甘くない。」

『えぇ……』

「帰還方法は知らないぞ。俺は世界を渡ることはできないしな。」


「問題は魔王を倒したとしても、オロクルの奴らはそこまで強くなったお前らを手放さない。子々孫々五代先まで戦闘奴隷として使われるだけだ。」


『そんなこと……そもそも、魔王軍に人類が負けそうだからって。』

「全然負けそうなんかじゃないぞ。」

『はっ!?』

「現時点での人類の領土は7割。この大陸中の南側の半分程度が魔王国の土地。地理学は全部偽造されていた情報だ。」

『突然電波みたいなことを言い出したな。』


「オロクルは人類の領土の中では二番目に小さい国だ。帝国や神聖国はそれぞれが大陸の4分の1を占めるほどの大規模でありながら、王国の規模は8分の1程度。単純に言えば半分以下の小さな国。」


「王国の目的は魔族の全滅ではない。それよりも強く他国の事を憎んで支配したいと思っている。目的は大陸統一だ。」

『根拠は?』

「客観的な証拠は無い。必要は無いだろう?お前は俺を疑わない。」


 悪魔の言葉を疑うことは無い。リュウコの中で、悪魔の言葉は親の言葉よりも深い信頼に満ちていた。


「で、どうすればいい?」


◇◆◇


『絶対に勇者だとバレるナ。お前はコロポの里で死んだことになっていル。それを維持し続けロ。もし仲間と再会してモ、極力接触するナ』


 それが最低限の制限。リュウコが今後異世界で活動していくうえでの、必要な項目。

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