第22話 二ヶ月
ランメルと名乗ったその女性は、複数のギルドを統括するグランドマスターだという。
ギルドという組織を創り上げて拡大し続けた傑物でありながら、現役の冒険者さながらの戦闘能力も持っているという、いわゆる『教科書に載る人物』。
そんな人物が何故シオン達に近づいたのかと言うと。
「あんたら勇者だろ?オレもここでは少し偉いから、そういう情報もかなり入ってくる。で、アンタらの出した依頼が失踪した勇者の捜索ってんだから、おせっかいを焼きたくなったんだ。」
「でも」
「ああ、いい、いい、もう止めようと思ってない。あんたらの覚悟は目を見ればわかる。だからな、オレも手を貸してやる。片方無いがな。がっはっは!」
豪快に笑うランメルの隻腕ジョークに苦笑しつつ、シオン達は話の続きを望む。
手を貸すというのはどういう意味なのか。
「オレにはいくつものツテがある。そこから高位冒険者らの教育協力を要請できる。代価として、あんたら勇者にはこのギルドで依頼を受けてもらいたい。報酬も別でちゃんと出すぜ。」
「現役の冒険者に指導をつけてもらって、実力を伸ばしつつ依頼を受けて実戦経験も積める……?しかも報酬つきなんて、どういうことですか?」
五人の中でも二番目に用心深いシラベがそう問う。
それが無ければ、ミサキ先生が聞いていた。
警戒心を乗せた言葉で聞かれても、ランメルの様子は変わらない。
「良い冒険者ってのは少ない。大抵はすぐ死ぬからな。だから後進育成ってやつには力を注ぎ続ける。そうしないと何も残らないからな。」
「いえ、その理由が知りたいのですが、このギルドについてもそうですけど、なんのためにそんな活動を?」
「……」
ここで初めて、豪快な笑顔以外のランメルの表情を見る。
それは無表情。何を考えているのか見えない、何を言いたいのかも分からないような。完全な無。
シオンとミサキ先生はそれに見覚えがあった。
「さっき話したことだよ。愛してる男がそれを望んでる。」
「具体的には?」
「超・世界平和」
指を二本立て、Vサインをつくる。
ランメルの姿におどけた様子はない。その全部が本気で言っていると確信させる気迫がある。
「ま、具体的にどうなって平和になるのかもわからねー。目の前の厄介ごとを処理するだけだって言ってたけどな。」
「わかりました。その話を受けます。」
ランメルの話を承諾したのは、ミサキ先生だけではない。シラベも、ランも、シオンも、カエデも、全員がうなずいていた。
「そうか。国王らにはオレから連絡しておく。なに、悪くは扱わないぜ。」
◇◆◇
その日の夕方、王城へと帰った生徒たちは夕食の際にギルドの事についての話を聞いた。
同じようなことの続いていた二ヶ月間だったからか、新しい刺激を求めた生徒たちは冒険者の指導に前向きだった。
「ぼぼぼ、冒険者!さすが異世界ファンタジー!ロマンが分かってるでござる!」
と叫んでいるのはキミトだが、それ自体は他の生徒にもあてはまる反応で、そこまで大げさということもない。
「皆、かなり成長にばらつきが出始めた頃だ。そこで、武力組と魔法組と特殊組の枠組みを一旦取り除き、依頼を受けて実戦経験を行う組、冒険者の指導を受ける組とで大きく二班に分かれてもらおうと思う。」
シータ副団長はこれからのスケジュールについて話してくれた。
「便宜上、依頼組と指導組と呼称するが、依頼組は志願制としたい。これについては、依頼となると君たちだけではなく、それ以外の民間人の命に係わる場合も多くなってくるためだ。そのため、やる気がある者だけを募ってそこから実力に見合った依頼に振り分けることになる。」
夕食後、志願者とそうでない者を分ける作業が始まり、志願者には簡単な面談のようなものも設けられ、そこで意志の確認を取られた。
もちろん、シオンやミサキ先生なんかを筆頭とした志願者は半数を超えていた。
「あなたたちは志願しないと思っていたのだけど。」
シオンやカエデなどの顔を見たシータ副団長の困ったような顔は珍しく感じた。
いや、ここ最近は見ていないだけで、シータ副団長の困り顔なんて見飽きるほど見ている。
最終的に14名が正式に依頼組として集まり、その日の集会は終わった。
◇◆◇
集会を終えたシオンは、いつものように中庭に来てある人物とおしゃべりをしていた。
その夜中の会は、この二ヶ月間毎日のように行われており、その相手も同じように現れる。
「こんばんは、今日はいつもより疲れているように見えるが」
「はい、外に出てたからか、いつもより少し眠いですね」
「そうか。あまり無理せず、休んでも良かったのだよ?」
以前と比べると幾分かまともに戻ったアレクがシオンを迎える。
毎夜毎夜行われる秘密の会合は、端から見るとイケメン系騎士と美少女勇者の逢瀬にしか見えない。
しかし、そんな傍観者も就寝中の深夜。
しんと静まり返る中庭の真ん中で、同じ方向を見て立ち尽くす二人。
「綺麗ですね。」
「ああ、また綺麗に咲いてくれてよかったよ。」
再び綺麗に咲いた花々を視つつ、簡単な言葉だけをやり取りしていく。
そこに会話内容の意味や意図は一切なく、ただ互いに相槌だけが繰り返される。
二ヶ月間、ずっとそんな感じで深夜を過ごしてきた。
しかし、今日は互いに話すべきことがある。
だから
「「あの……あ、そっちから」」
付き合ったばかりの恋人のようなやり取りを踏まえて、シオンの方から話を切り出すことになった。
「私、これから依頼組として遠出することになったんです。だから当分会えないってことを言いに来ました。」
「———そっか。それは少し寂しいけど、私の我儘に付き合わせるわけにもいかないからね。気を付けて。」
いつも以上に目線を合わせないようにするアレクに少しだけ微笑んで、シオンは少し話を続ける。
「まだ依頼の内容とかは聞いてないんですけど、多分長期になることはわかっています。それで」
「ああ、残る君たちの仲間、その安全は確実に守るよ。」
シオンが全部を言い切る前に、アレクは遮ってそう宣言する。
二ヶ月の関係は、シオンとアレクの間に言葉を捨てさせるのに十分な時間で、不信を消し去るのに不足の無い時間で。
だから、確認の言葉も別れの言葉も必要無かった。
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