第12話 欠けた月
護衛騎士2名死亡
勇者1名死亡
ナカタカズユキ
2名重傷
ハセガワヒロ 片足欠損、頸椎捻挫
サイトウイッセイ 眼球破裂、下顎部半損
5名意識不明
シラベリン
ババカオミ
カネタニノボル
サトウタツミチ
タカナシカエデ
3名軽傷
セキシオン
アクタミサキ
マナベカツヒサ
1名行方不明
オニガミリュウコ
生還者
サトウイチロー
サトウジロー
アマギリリカ
◇◆◇
初の実戦的訓練の結果としてまとめられた報告書を読んで、国王と各騎士団長ら、宮廷魔法使い、各陣らの党首。
それぞれが頭を抱えていた。
「まさかこんな、数十年に一度のイレギュラーに遭遇するなんて、こんなことあるか?」
「あるかないかで言えばあったんだ、そこは重要じゃない。問題は勇者らの今後についてだ。」
「勇者一名の死亡と二名の戦線復帰すら危うい重傷。それだけではない、この結果を見た他の勇者の心的外傷。問題はあまりに大きく数が多い。」
「行方不明になったのは?」
「例のステータスが見えない少年です。最後に目撃した勇者『セイヤ』によると、地面に吸い込まれるようにして消えていったと。」
「い、意味が分からない。転移でも階下に落ちたでもなく、吸い込まれる?」
「しかし、それ以上の結論は出ず、下の階層を捜索しても見つからなかった。」
「もういい、ステータスが見えない以上、いても持て余すだけだ。」
「くれぐれもご注意を。その発言を聞かれたら勇者たちにも反感が生まれかねない。」
「出現した魔物の種類は?」
「聞き出した特徴から、おそらくは『ネクロタクル』かと。」
「騎士団長を出すレベルの魔物じゃないか!?」
「そんな相手に、そのリュウコとやらが善戦していたと?そんな馬鹿な!」
「話が脱線しすぎです。今回の件で重要なのは、勇者たちのメンタルケア。特に当事者たちには慎重に接する必要があります。」
「しかし、どうにかできないものかね。あんな子供たちに頼らないといけないなんて。」
「仕方ありません。
「経過は第二、第三騎士団に管理させる。他の者には追って説明しよう。では、解散。」
国王の号令によって、その場にいた者たちはそれぞれの持ち場に戻っていく。
ほとんど関係の無いものたちにも、情報は共有された。
教育係として、第三と共同で教練を行って来たシータ副団長も、話の中心ではあった。
ここ数日間部屋から出てこない騎士団長の代わりということもあったのだが。
◇◆◇
「お体は変わりありませんか?」
「……はい。」
シータ副団長が向かったのは、今回の事件でケガを負った勇者たちを治療するための治療室。
一流の治療魔法使いの力で命に別状のない状態にまで回復し、軽傷の者はほとんど完治している。
しかし、それは外傷の話。
心の傷までは治療の範囲外。
「ミサキ先生。その、リュウコ君ですけど。」
「……」
「……りゅうこくん。」
シータと顔を合わせているミサキとは違い、シオンは未だに薄目を開けて、寝ているのか起きているのか分からない状態で横になっている。
シータの話で、『リュウコ』という単語が出たときにだけ、少し反応するという以外、なんの反応も示さない。
「ヒロとイッセイの容態は?」
「二人とも、山場は超えて後は自然治癒による完治を待つだけです。」
「……ありがとう。」
色々なものを飲み込んだその感謝に、シータは苦い表情しか返せない。
生徒を二人、確定しているだけで一人は失っている。
生徒想いなミサキ先生が、そのことを吹っ切るということは、多分一生ありえない。
それでも
「他のみんなは、絶対に家に帰す。カズユキと、リュウコの分も」
決心を今一度固めることで、自分の心を保つ。
体に力を入れる。
ミサキ先生は、そうやって自分を鼓舞——
「りゅうこくんは死んでない!!死んでない!!死んでない!!」
先ほどまでは寝ているよりも大人しかったシオンが、数日間食事もまともに取っていないシオンが、陸地の魚よりも激しい動きでベッドの上をのたうち回る。
シーツを破り、枕を引き裂き。
五分程暴れまわったところで、電池が切れたようにバタンと倒れて再び眠った。
「シータさん。この子の近くでは」
「はい、しないように気をつけましょう。」
結局、一週間以上の捜索の結果、『コロポの里』からリュウコの姿は見つからず、ネクロタクルの発生源も分からないまま、この騒動は生徒たちの心に深い傷を残す結果となってしまった。
◇◆◇
静かな城内。暗くなった廊下を歩く一つの人影。
ゆっくりと、不規則な音を立てて歩いているのは、虚ろな顔で下を向いて歩いているシオン。
今まで、リュウコの名前以外に反応しなかったはずの彼女が、突然動き出し、廊下を徘徊していた。
中庭に続く廊下の端。灯りも何もなく、ただ半分の月明りが庭を照らす。
「……ぐすっ」
物音に反応し、シオンはその音の方に目を向ける。
ぼんやり開かれ、まともに焦点も合っていないその目に映るのは、散った花びらの真ん中で膝をつき、縮こまったまま泣いている騎士の姿。
「……あの」
「——っ!?……ああ、勇者の……どうしたのかな?」
シオンの声で、人が来ているのに気付いたらしい。その騎士、アレクは振り返る。
そこで、声の主が勇者の一人であることに気づいたアレクは、どうにかいつもの自分を演じて取り繕う。
「泣いてるんですか?」
「……ぁあ、恥ずかしいところを見られてしまったね。」
「ぃえ、私も、ずっと泣いていたんで。」
「大切な……大切なものをなくしてね。気落ちしていただけだ。」
「私も、大切な人が、帰ってこないんです。」
「———」
アレクは目を見張る。涙で霞んでいた目が、シオンの顔を捉える。
頬がこけて、肌の色も悪く、今まで泣いていたのか、目が腫れている。
きっと、シオンから見たアレクの顔も、そのように映っていたことだろう。
どうしてか、それが理解できたから。
「隣、座る?」
「……はい。」
二人は散った花の真ん中に肩を並べて座る。二人とも、残った花をじっと見つめて、互いの事を話し始める。
シオンは、自分たちに起きた事件のこと。失った相手をどう思っていたのか。これからどうするべきか。
アレクは、自分が出会った少年のこと。初めての感覚だったこと。この感情にどう向き合うべきかを。
互いに、まるで歳の近い友人のように話し、静かに涙を流しては、互いに慰める。
シータは、それを遠くの窓越しに見つめることしかできなかった。
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