悪魔転生奇譚Ω
草間保浩
第1話 集団転移
――夢を見ていた。
一匹の鬼の夢。
全身が返り血で真っ
怒りで歪んだ
辺りには、人、動物、魔物、怪物、天使、神。
何者も許さないとばかりに全てが死に絶えて、山となっていた。
鬼の髪は闇よりも黒く、まさに悪鬼。
鬼、悪魔、死神、邪。
ソレの呼び名は無数にあった。
ソレは、ソレの名は―――
◇◆◇
「んぶべっ!?」
「古典はそりゃ、寝るのには心地いいだろうけどアタシは傷つくから、隠れてやるように。」
彼が目を覚ますと授業中だった。
真昼時の太陽が涼しい季節と相まって非常に心地のいい空間を作っていて、それで彼はうたた寝をしていたらしい。
授業内容は古典で、担任でもある教師が彼の頭に教科書の角を振り下ろしたらしい。
モンスターペアレントだとか、体罰だとか騒がれている昨今、もはや勇気ある行動と言っても過言ではないものだが、その教師はまったく気にする様子もない。
そして、それを受けた彼も特に気にすることはなく、少し痛む頭をさすりながら、教科書の内容に目を通す。
「りゅうこ、214ページの2段落目の7行目だ。続けるぞ。」
進行中の部分を教えて、再び内容の説明に戻る。
クスクスと笑い声が聞こえる。
叱られている彼を嗤っている声。
それに対して彼は顔を赤くして恥ずかしがり、教科書で顔を見えないよう隠した。
「だからこそ……ん?なんだ?」
教科書で顔を隠していた彼からは見えなかったが、床を中心に教室全体が淡く光りはじめた。
「光ってる!?」
「何これ、ドッキリ?」
「目がおかしくなった!」
そんな突然の出来事に慌てふためくクラスメートたち。
どうやら、特定の誰かの幻覚ではなく、教室にいる全員に見えている光らしい。
「落ち着け!とりあえず、教室から出——」
「せ、先生!?」
「き、消え――」
「やば――」
光が大きく強くなったかと思ったその瞬間、教師が消え、生徒も一人一人、光に飲まれて消えてしまった。
「りゅうこ君!!」
近くにいたクラスメートの女子に名前を呼ばれ、彼も状況をやっと把握する。
しかし、彼の思考を引き戻したその女子も、光に飲まれて消えてしまった。
「せきさ――!」
そう叫んだ彼もまた、光に包まれて消えてしまう。
この出来事は、集団神隠しとして全国レベルで報道された事件の顛末であり、そうやって世間で騒がれたということすら知らない、ここではない異世界に召喚された彼らの話。
◇◆◇
目を覚ました彼の視界に入ってきたのは、非現実的な光景。
まるで、RPGからそのまま出てきたかのような、石造りの空間。
床には幅の広いレッドカーペットと、その先にある巨大な背もたれを持つ玉座のような豪華な椅子。
部屋の両脇には等間隔に並んだ西洋風な鉄の甲冑があり、その手にはそれに見合った剣を地面に突き立てるようにして持っている。
よく見れば、先ほどまでいた教室の面々もその場に倒れており、みんな気絶しているようだった。
「これは……」
「……んん、こ、これは、なんだ!?」
彼の次に目を覚ましたのは、授業をしていた担任。
その体育会系な声量で、周りの生徒たちが連鎖的に目を覚まし始める。
「すげぇ、まるでヨーロッパかどっかのお城みてぇ。」
「なにこれ、ホントにドッキリ?」
「ふっ、天に選ばれし我が運命の岐路。刮目しろッ!!」
「あいつこんな時にもブレないよな。」
「無視しろ、無視。さすがに状況がヤバすぎる。」
皆口々に状況についての感想を述べる。
というよりも、纏まりなくしゃべっているだけとも言える。
「静まりたまえ!!」
そんな皆の声をかき消すほどの大きな声が聞こえ、全員がその声の方向に視線を向ける。
先ほどまで空だった玉座には、THE・王様という格好をした、60~70歳ほどの老人が座っていた。
「そなたらを呼んだのは我らである。この国は危機に瀕している故、力を貸してもらうべく、伝説の勇者召喚を行ったのだ。」
推定王様はそんなことを語り出し、黙って聞いていた生徒の中からは小声で疑問を浮かべる者もちらほら出てきた。
国の危機というのはご愁傷様としか言いようがないが、そんな理由で一般高校生を数十人も拉致したということが、徐々にだが伝わってきたからだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。勇者とか危機とか、そもそもここはどこなんですか?」
クラスを代表して、教師がそう訊ねると、推定王様は近くにいた、今度は魔法使いのような漆黒のローブを身に纏った人に声をかけた。
「私から説明いたします。ここは皆さまのいた場所とは違う、俗に言う異世界ということになります。そしてこの国は人間の国家『人王国オロクル』です。」
魔法使い風の人はそう語りながら、生徒らの元にゆっくりと歩き近づいて来る。
その動きに、大半の生徒が警戒して身構えたものの、皆の予想をはるかに超えた事象を目の当たりにする。
「【転送】」
何もない空間から大きなテーブルが出現し、その上に台座に乗った丸い水晶のようなものが出てきた。
水晶の数は6個。
手品や特殊な仕込みのようには見えない、
明らかに別のナニカを用いた、科学とかでは説明ができない。
「今使ったのは【魔法】です。そちらには無い【魔力】というものを用いて使う技術で……この説明はまた別の機会に。ともかく、こちらの水晶に手を置いていただくことによって、皆さまの体内の魔力に作用して―――ステータスが見られるようにした上に魔力機構にアクセスして魔法の行使を容易にしてくれます。」
長ったらしい説明よりも実演が効果的と思ったのか、黒ローブが一つの水晶に手を乗せる。
書かれているのはカタカナを強めに崩したような文字だったが、それも見ているうちに段々と読めるようになっていった。
「私の名前、年齢、アビリティ、スキル、魔法属性など、様々な情報が載っています。皆様にはこれを確認していただき、こちらで情報を精査させていただいた後、各々に適した訓練を受けてもらいます。」
難しい話をされて、なおかつ訓練というワードが出たためか、生徒の中からはグチグチと文句を口にする者も現れる。
「突然のことで申し訳ありません。しかし、我々にとって皆さまは最後の砦。たとえここで良いステータスが出なくても、十分な生活も高度な待遇も惜しまず投入させていただくことを約束いたします。」
その場で膝を突き、土下座スタイルで頭を下げる。
赤い絨毯の下の石レンガにぶつかった額がゴンッと音を立て、見ている側が痛く感じるまである。
「前線で戦っていただく以上、命の保障はありません。それでも、それ以外では不自由はさせませんので、どうかぁ!」
腹から出た声で懇願され、生徒たちの間で肯定的な空気が流れる。
そこで、誰が言ったわけでもないが、先生が前に出る。
「こんな緊急事態です。その話が本当でしたら、私はご協力いたします。しかし、生徒たちはちゃんと了承した者だけに戦わせてください。」
こうして、最低限の決定権を認めさせ、生徒全員のステータス確認が始まった。
◇◆◇
生徒たちも時間と共に状況を飲み込みはじめ、ほとんど滞りなくステータス確認は順調に進んでいた。
最初に先生が見てから、生徒たちが見ていって、今はちょうど半分ほど。
六つの水晶で見ているため、かなり短時間で記録できている。
「むむ、これは……」
そんな中、1人の生徒の番で記録係が疑問符を出す。
「どうした?」「それが―――」
「なんだ?」「これって」
他の記録係も覗き込み、ステータスを確認する。
「ど、どうしたんですか?」
その様子に流石に不安になったのか。確認を受けている少年は記録係に声をかける。
「いえ、その。これは初めての事でどうしたものか分からないのですが」
長い前置きを置いて、記録係は少し言葉を濁しつつ答えた。
「あなたのステータスが表示されません。つまり、ステータスが無い可能性がある。ということです。」
見られた少年。彼の名前は鬼神龍虎(オニガミリュウコ)。
厳つい名前に反して、少女のように華奢な体形をしていて、ほんのり女顔で髪も少し長めの気弱そうな少年。
彼こそが、この物語の主人公である。
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