第51話 決戦 地上戦

 俺は駆ける駆ける駆ける。


 黄泉平坂を駆けのぼり、黄泉と現世との境界を視認する。

そこは巨大な岩戸で塞がれていた。


 しかし駆けるスピードはそのままに俺は詠唱する。


「闇よ、深き闇よ、形為せ。シャドーマテリアライズ:モードソード。」


 そうして右手に一本の日本刀を作り出す。

その刀を一度腰に溜め、勢いのそのまま思いっきり巨大な岩戸へと突きを放つ。


 岩戸と刀が一瞬拮抗するが、


「やああああああぁぁぁぁ!!」


 裂帛の気合と共に俺がさらに力を入れると、岩戸は粉々にはじけ飛んだ。


 俺は岩戸が塞いでいた岩穴から跳び出す。


 そこは、美桜が囚われていた坑道の入り口だった。

跳び出してきた勢いそのままに空中で四方を見渡す。

遠くに街の明かりが見える。良かったまだ無事なようだ。


「僥倖だ。伊邪那美命は街まで達していないと見える。ならば!」


 俺は空中で前方伸身3宙返り3回捻りをして地上に降り立つ。

両足をそろえてYの字でスチャっと着地する。

ついでに、黄泉平坂の出入り口から亡者が溢れてきそうだったから、魔術で作った巨石で埋めておいた。


 アフターケアーもばっちりです。


 俺はすぐに魔術で闇を固めた小鳥を召喚した。そしてそれを四方に飛ばし伊邪那美命を探す。


「見つけた!」


 すぐに一羽の小鳥から伊邪那美命発見の知らせを受ける。

幸いまだあまり遠くには行っていなかった様だ。


 森の中を駆ける。


 既に身体強化の魔術と右眼の魔眼は発動している。

右手には闇を固めた刀、空からは召喚獣により戦域全体の監視も行っている。


 坑道の入り口から森の中を駆けること数十秒、少し開けた場所に出た。


 そこは半径30mほどの白詰草の花畑、その中心には一本の桜の木が立っていた。


 そして、その桜の木の傍らに彼女は居た。


 どうも、こちらが追って来るのを察知してこのような場所を選んだようだ。


「羽虫が。どうやって黄泉の国から舞い戻ったかは知らぬが、何度も飛び回れられるのは不愉快じゃ。今度こそ、その肉体も魂も粉微塵に砕いてくれよう。」


 伊邪那美命は大変お冠の様だ。

俺が黄泉から戻ってきたのが気に入らないのか、現世観光をしていたところを邪魔されてイラついているのか、それとも先に行ったルナさんの魂が何か干渉しているのか。

はてさてどれか、いや、その全てか。


 伊邪那美が頭上に手を掲げると、花畑全体を覆う様に漆黒のドームが形成される。


 まるで先の坑道奥の空間の様だ。

俺は冷静に状況を把握する。

先ほど、黄泉に引きずり込まれる直前に感じていた伊邪那美命への圧倒的な恐怖は今は無い。


 俺は右手を顔に当て、その隙間から青い右眼を輝かせる。


 右眼に魔方陣が浮かび、真っ直ぐに伊邪那美命を捉えるとその内面を覗き込む。

良かった、まだ美桜の魂は伊邪那美命に取り込まれていない。ルナさんの魂が伊邪那美命から美桜を守ってくれている。


「流石だな。であれば、我も我の為すべきことを為そう。」


 一方の伊邪那美命は驚いた顔をしている。先ほどまでと違って反動も無しに神の内面を覗いたことに驚愕したのだろう。


 そして、その顔を怒りに染めると、


「小賢しい!!」


 そう叫び、右手を大きく上から下に振り下ろす。


「潰れてしまえ!!」


 頭上から瀑布のような圧力が降り注ぐ。先ほどの坑道で受けたものより数倍は強い。


 だが、

 

 俺はその中を悠然と一歩、伊邪那美命の方に足を勧めるのだった。

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