第26話 都合の悪いことは全部異形のせいだ
放課後、俺は部室でお茶を飲んでいた。
全身が痛い、とても痛い。
朝はカッコつけて大丈夫と言ったが、実際今日一日は地獄の様だった。
少し動けば全身が悲鳴を上げ、思わずフハッフと声が漏れる。
トイレに行くのさえ億劫だった。
ほとほと疲れ果てた俺は、こうして部室で机に突っ伏しながら、ツグミが入れてくれたお茶を飲む。
「本当に大変そうだね、拓斗。」
ツグミが心配そうな声音で俺に問いかける。
近くに寄ってきて額に手を当て「うん、熱はなさそうだけど」と呟く。
ふわっとした前髪からはフローラルないい香りがして、ドキッとしてしまう。
おおツグミさん、ツグミさんはどうして男の娘なんだい。お城のバルコニーから身を乗り出すツグミに、俺が片膝をつき手を伸ばしながら問いかけるシーンが頭に浮かぶ。
馬鹿な妄想を振り払って、
「いや、ほんと大丈夫。少し休めばたぶん良くなる。それより美桜遅いな。」
「今日は演劇部の活動が少し長引くかもって言ってたよ。」
「そっか。」
そう俺たちは現在、美桜の部活が終わるのを待っている。
黒い不審者の噂、あれが例の異形のことだったと分かった今、美月やツグミを一人で帰すわけにはいかない。
俺は昼休みの間に三人で家に帰ることを提案したのだ。
そう、黒い不審者は異形、郊外の林に入っていくのも、フハッフと荒い息をつきながらビルとビルの間を跳び回っているのも全て異形である。
嫌なことや都合の悪いことは全部あいつらのせいだ。
俺は脳内裁判で異形に有罪判決を下し、改めて美桜を待つ。
ほどなくして、美桜が部室にやってきた。部活後だろうか、きれいな黒髪をポニーテールにして、少し荒い息をつく。
きれいな首筋にはうっすらと汗がにじんでいて、少し見てはいけないものを見ているような気分になる。
「ごめん、お待たせ。待った??」
「いや、今来たところ。」
俺は少し照れながら、思わずよく分からないことを口走ってしまう。
「いやいや、それはないでしょ。」
と美桜のツッコミ。そして何か悟ったのか手をポンと叩き、ニヤニヤ顔で下から俺の顔を覗き込んで来た。
「ふふーん、なるほどなんだよ拓斗。もしかして美桜ちゃんのポニーテール姿にキュンときちゃったんですね。」
顔がカッと熱をもって思わず横を向く。
追撃が入りそうな雰囲気があったが、そこで
「そんなに待ってないよ。部室でゆっくりしていたし、拓斗が休むのにもちょうどよかったんじゃないかな。」
ツグミからスマートな返しが入る。ナイスツグミ、と心の中でサムズアップする。
「そっか。二人とも待っててくれてありがとね。」
美桜はにかっと笑う。その笑顔を見ながら思う、この平穏を護りたいと。
「そんじゃ、帰りますか。」
俺は立ち上がり、三人で帰路につくのであった。
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