第8話 深き闇の時間がやってきた
「フハ、フハハ、フハハハハハハ」
俺は街灯やビルの明かりを眼下に見ながら夜の闇を駆けていた。
一歩踏み込むだけで、眼下の光がテールランプのように流れていく。
俺は漆黒のマントをたなびかせながら、ひときわ高く飛び上がる。
「フッ、今なら月にも手が届きそうだ。」
囁くように呟き、月に手を伸ばす。
そのまま重力に任せて高層ビルの屋上にスチャッと降り立ち、そして、ビルの端から街を見下ろす。
俺は今、漆黒に身を包んでいる。衣装、マント、グローブ、ブーツに至るまで漆黒で統一され、唯一その右眼だけが青く光り揺らめいている。
俺は右手をそっと持ち上げ顔の右半分を覆う、指の隙間から青い瞳だけが見えるように。
これ、ちゃんと鏡の前で練習しました。
そしてそっと独り言ちる、
「封印されていた我が右眼がうずく。これは・・・、そうかこの街にいるのか。これが運命・・・。フハハハハ、いいだろう、ならば我は我の為すべきことを為すだけだ。」
とても意味深に。特に意味は無いけれど。
ビルの上に風が吹き、漆黒のマントがたなびく。
俺は両腕を左右にバッと広げ
「時は来た。神よ、
思い切りビルの端から跳躍する。その際、伸身ムーンサルトも忘れない。だって格好いいから!
「フハ、フハハ、フハハハハハハハハハ」
そして、俺の姿は夜空の闇に溶けるように消えていった。
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「っつ~~~~~~~~~。」
やばい、闇どころかこのままベッドの上で溶けて消えてしまいたい。
現在俺はまたも自室の枕に顔をうずめ、声にならない声を上げながらのたうち回っている。ここ数日こんなことばかりしている気がする。
突っ込みどころが多すぎる。
今でもあんな言葉が俺の口から発せられたなんて信じたくない。断じてあれは俺の発言じゃない、ないったらない。
興奮しすぎて動悸が治まらない。これって恋!?いやいや不整脈。不整脈を自覚したら病院へ。そうだ病院へ行こう。
頭の中で、新幹線に乗って京都の病院に向かう映像が流れていく。
ってちがーーう!!しかもなんか色々混ざってる!
頭の中の自分にツッコミを入れながら悶えていると、あまりにバタバタとうるさかったのか妹の結衣がバンっと扉を開けて部屋の中に入ってきた。
「拓斗兄、うるさっっ・・・???ってどうしたの?」
文句を言いに来たようだが、俺の様子があまりにも悲痛だったためか、首をコテンと横に傾けながら、最終的には心配してくれている。
なんて優しいんだマイシスター。お兄ちゃん感動しちゃう。
「結衣はなんて優しいんだ。美少女で優しいなんて、お兄ちゃんはそんな結衣が大好きだぞ!」
ってやっぱテンションが変だーーーー。普段はこんなこと絶対言わないのに。
結衣も
「っつ、何言ってんの拓斗兄。」
と言いながら少し照れたのか指で顔の横から垂れた髪をクルクルいじっている。
「照れている姿もかわいいぞ!」
「っ~~~。やっぱり変だ。お母さーん、やっぱり拓斗兄が変だよ~~~。」
と階下に呼びかけながら部屋を出ていく。
階下からは、
「あら結衣、顔が真っ赤だけどどうしたの?」
「い、いや、なんでもないし。それより拓斗兄がまた変なことになってるよ。」
「あらまあ、やっぱり例の病気が再発しちゃったのかしら。結衣、そっとして、優しく見守ってあげるのよ」
という会話が聞こえてくる。
違うんだ、そうだけどそうじゃないんだ。
俺はなおも悶えながら心の中で一生懸命弁明した。もちろん、声に出して言うわけにはいかなかったが・・・。
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