第38話 本物の証明(3)

「オラァ!」


 タコメの股間に、蹴りが炸裂した。


「ぐっ……!」


 モヒカン男は思わずコーディを放し、顔をしかめてうずくまった。

 コーディは尻もちをついたが、どうにか無事だ。


 ってか、おい誰だ、横槍を入れたのは?


「なんだぁ……てめぇは――」


 気づけば、モヒカン男が俺をギロリと睨みつけていた。

 他の村人たちも、俺に向かって視線を集中砲火だ。


 え? あれ? まさか――


「えっと……もしかして今の、俺がやっちゃった?」

「ふざけんな! ぶっ殺してやる!」


 怒りに燃えたタコメが、ぶっとい腕で殴りかかってきた。


 ――あ、やば、死ぬ。


 と思った次の瞬間。


 ガシィッ!


 拳を受け止める音とともに、黒髪ポニーテールの背中が俺の前に立ちはだかった。


「はぁ~……」


 太刀川は、あきれ顔でため息をついた。


「さんざんアタシに我慢我慢って言っといて、なんで自分で突撃しちゃうのよ? 損した気分じゃない」

「あ〜……すまん。体が勝手に」

「まぁ、いいけど。……いいんだよね? もう」

 

 太刀川の手の中で、タコメの拳がミシッと音を立てた。

 筋肉ダルマのパワーをはるかに凌駕する、これが本当の黒の書の力だ。


「がっ……て、てめぇ、一体……」

「なにやってんのよ! そんなヤツ、とっととブッ殺しちゃいなさいよ!」

「わ、わかって……らぁっ!」


 タコメが風を巻いて右脚を振り上げ、渾身の蹴りを叩き込む――


 しかし、その一撃は虚しく空を切った。

 太刀川の姿は、すでにそこにはいない。


「なっ……き、消えた!?」


 混乱するタコメの頭上から、涼やかな声が降ってくる。


「こっちだよ」


 見上げれば、宙を舞う太刀川のスカートがふわりとひるがえった。

 高々と掲げられた左脚が陽光を浴びてきらめき、一直線に振り下ろされる――


「ふっ!」


 ドゴシャアアアッ!


 カカト落としがタコメの顔面を直撃し、その頭が地面にめり込んだ。

 隕石でも落ちたかのような衝撃で、地面が大きくへこみ、大地が揺れた。


 舞い上がった石つぶてが降り注ぐ中、タコメは白目をむいて失神し、ピクピクと痙攣している。


 ニセモノ女も村人たちも、目の前の光景に言葉を失っていた。


 太刀川は無言で男の顔から足を離すと、静かにニセモノ女の前へ歩み寄った。


「ヒィッ!」


 バケモノに出会ったように身を縮める女。

 太刀川は冷徹な声で告げた。


「謝って」

「はひぃっ?」

「コーディ君と村の人たちに。……あと、アタシにも」


 正義の怒りに満ちた声だった。

 若干、個人的な感情も混じってるが……


 錯乱したニセモノ女は、「うわああ!」と叫んでニセの黒の書を突き出した。


「く、来るなぁ! 来たらこれを開くわよ! そしたら大蛇が出て、アンタなんて一呑みに――」


 パァン!


 空気を裂く音が響き、女の手の中でニセの書が跡形もなく砕け散った。


「はへっ……?」

 

 呆然としたまま手元を見つめる女。

 俺にも見えなかったが――太刀川がジャブ一閃で本を消し飛ばしたんだ。


「もう一度言わせる気?」

「ひっ! ひぎっ! ひいいいいっ!」


 太刀川の圧に、ニセモノ女は腰を抜かしてへたり込んだ。


「な、なんなの、何者なのよ、アンタたちはぁ!」


 その言葉が、俺の中のジャパニーズの魂に火をつけた。

 こうなったら、いっそド派手に開陳してやるか。

 

 俺は背中のナップザックから、『本物』の黒の書を取り出した。


「ひかえぃ! ひかえおろう!」


 あぜんとする悪代官――じゃなかった、ニセモノに向かって書を突き出し、


「この黒の書が目に入らぬか! 頭が高い! ひかえーい!」


 どーん! と決めセリフをぶちかましてやった。


 うおおっ、気持ちいいっ……!

 

「……いや、それ、異世界の人たちに通じるのかな?」


 たしかに……。


「な、ま、まさか……」

「こ、これが本物の……黒の書……」

「それじゃ……あの子たちが……本物の契約者!?」

 

 一同はざわつき、


「へへえ――っ!」


 と一斉に土下座した。


「ごめんなさいごめんなさい! もう二度としません! この村にも絶対近づきません! だから許してぇ!」


 ニセモノ女は地面に頭をこすりつけて、許しを請う。


「おお、通じた……」

「うそぉ。ていうか、なんで村の人たちまで一緒に土下座してんの?」

「ノリと勢い……じゃねぇ?」


 ともかく。

 これで一件落着……かな?

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