秘密【BL】
キオ
Prologue
【
ワタクシは
しがない大学生でございます。
さてさて、いつもと変わらない日常のはじまりはじまり……。
ひとつ聞いていっていただけたらまぁこれ幸いってやつですよ。
朝、目を覚ましたら枕元に放り投げっぱなしだったスマホを確認して残りの充電を確認しつつ寝床から抜け出す。
フル充電されていなくとも電池の残量がそこそこあれば問題なし、と愛用している黒い肩掛けの鞄にしまい込んで軽く身支度を整えてから洗面所へ向かいます。
最低限の清潔さを保てていればいいと適当に切り揃えている黒髪は寝癖だけを整えて、ワックスだのなんだのは極力付けません。整髪料を落とす為に念入りに洗わなくてはならなくなるのが面倒臭くって。
鏡の中の俺は朝だし少し目が腫れてる気もするけれど、生まれつきニマニマと笑ったような口元と垂れ気味の目尻のせいで他人にとっつきやすい印象を与えるらしい。毒気のない顔のおかげか、少なくとも容姿で損をした覚えはありませんね。ですが髭だけは童顔だから死ぬほど似合わない。あんまり健康的じゃない顔色が更に青白く見えますのでしっかり剃って、それから伸びをひとつ。
身長は高くもなく低くもなく、まぁ平均じゃあないかと。
姿勢は少し猫背。
極力他人の意識に残らないように意識的に作り上げた
目立つということは鬱陶しいトラブルに繋がるということを
次に台所で朝食を探して適当に目に付いたものを腹に詰め込んだら大学に向かう。
これが平日の朝の大まかなルーティン。
「
「あいよ〜……」
自宅の前で自転車に
見た目は年齢の割にかなり若々しいのに、見た目に反した
爽やかと言えなくもない春の風を受けながら、ボロ自転車が成人男性二人を乗せた抗議みたいなキィコォ……キィコォ……と悲鳴をあげるのを聞きつつ駅へ出発。
河野さんは俺が通ってる大学で准教授をしています。
世間で言うところでは変り者になるそうですが、俺にとっては一緒に居るとすっげぇ楽しい
他人との距離感をしっかりと線引きして付き合える
「キノは
「そうです。経済は必修ですから」
「ふーん。じゃあなんで
担当教授の名前で言わないでいただきたい。
まだフル稼働には程遠い頭を総動員して、自分の受講する講義の担当教員達の名前を頭に浮かべる。
今話題に上がった二人は大学でもまぁ有名人だったのでそう苦労せずに名前と講義が頭の中で紐づいたから良いですけど。
まず先に顔が浮かんだのは恭君こと
この人も河野さんと類友というか、凄いんですよ。見た目が。もうね、バケモノ並。
河野さんと一緒に居ることが多いので俺自身も大学に入る前からそれなりに親しくさせていただいておりますが、人当たりも良いしお育ちの良さが滲み出る穏やかな
俺がそれなりにつるんでいる連中に言わせると、俺と初町さんが話しているところなど先輩と話してるようにしか見えないらしくあの先輩どこの学部の人?と度々聞かれます。
さて、問題は椎名ちゃんこと
河野さんがおっしゃった椎名ちゃんとやらがその方のだという確証が得られないくらいに接点がございません。椎名という苗字の教員が他に思いつかないからそうだろうな、とあたりをつけたくらいの接点の無さです。
「椎名ちゃんとは心理学科の椎名准教授のことでしょうかね?」
「おー。椎名ちゃんはあの歳で准教授だからすっげぇやつだし、生徒からすげぇ人気あっからさぁ。講義も毎年争奪戦みたくなんだけどよぉ……。お前、心理学に興味あったっけか」
「無いです」
あの歳でって、アナタと初町さんも椎名准教授とそんなに歳は違わないと思いますけどねぇ。
話しながら自転車を漕いでいたらうっすらと汗が額に滲んできたようで、頬や首筋を爽やかな春風が撫でるとそれに涼を感じて気持ち良さから口の端が自然に吊り上がる。
流石に春とはいえ大人の二人乗りで上り坂はいけませんね。
少し息が上がり始めて、立ち漕ぎに変えた。こんな坂は一気に登ってしまうに限る。
「企業のカウンセラーでも目指すのかと思った」
「一年生の時に凡ミスしまして。単位が足りない俺に向かって
「あぁ〜、そゆことか」
そんなに気にしていた訳では無いと思いますけど、納得していただけて何より。
最悪、河野さんの講義も視野に入れていましたが知り合いの
俺はどちらかといったら理系ではありますが、それは最後の手段。
まぁ面倒見の良い河野さんのことですからどうしようもなくなったと泣きつけば丁寧に面倒を見ていただけたとは思いますが、
今ちらりと名前の出ました腐れ縁で幼馴染の高遠が目指してるのが臨床心理士だったかと。
長い付き合いの友達とはいえ、人の進路にそこまでの関心を持つことが自分にはないのでその先に目指すものまでは覚えていませんでした。
覚えていたところで全然別物になることなんてさして珍しくもないですし?
ただまぁ、経済系へ突き進む俺と高遠の道は完璧に離れたとはいえますね。それでも付き合いは継続。それこそが腐れ縁が腐れ縁たる由縁なので。
一年時に単位の計算をミスって授業選択でうんうんと
(そんなつもりはない!とか強い口調で言われそうですが)
「椎名ちゃんは気性が穏やかで優しいし、丁寧で良いやつだぞ。それで面倒見も良いもんだから女子学生どころか男子学生からも人気があるらしいって。生徒のところは恭君の情報だけど、確かに担当の学部生以外からもよく声掛けられてんのを見るな。そんなんだから講義の受講者を決めるのにも一苦労だとか本人も言ってたしな」
「はぃいい?」
何でそんな人の授業がとれたんだ、俺……。
河野さんは口数が多い
今はこれ以上の情報は期待できませんね。
大学に着いたら自力で情報を集めるとしましょう。
簡単な講義の内容とか単位の取り方とか、大まかな年間スケジュール位なら把握していますが教授や准教授の人となりやら学生受けなんかは俺には関係ない話なので全く情報を集めていませんでした。
それよりもいかに効率的に大学生活を送るかに重きを置いていますので。
こっちにも色々と事情があるんですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます