刀が無くとき、探偵は声を聞く

ことの葉しずく

プロローグ:聲のかたち


刀が、泣いていた。

音にならない“こえ”が、夜の静寂をわずかに歪めていた。


都内、深夜。封鎖された住宅街の路上で、片桐透馬はひとり、しゃがみ込む。



空気の裏側で、わずかに震える何かが、そこにあった。



都内某所。夜の住宅街を封鎖する黄色い規制線。


警察が去った後の静かな現場に、探偵・片桐透馬かたぎりとうまは一人、しゃがみ込んでいた。



冷たいアスファルトの上に転がる一本の刀。


血もつかず、名も刻まれず。ただ、鋼としての輪郭だけが残っている。



透馬は息を止めるようにして耳を澄ませる。


風もない。虫の音も遠い。ただ、その刃から──が聞こえた。



「……またか」


彼は小さく呟いた。



かがみ。お前の置き土産は、静かに喰ってくるな」



再現刀さいげんとう──模倣されたはずの刀剣が、まるで命を持ったかのように人を斬り、人を呑む。



事件現場には、いつも奇妙な痕跡が残る。


音が歪み、空気が乾き、人が“聲”を遺して消えてゆく。


祈り。崇拝。模倣。そして、狂信。



名を持たなかった命たちが、今この都市で、“問いを刃にして”さまよいはじめていた。



こえをきく探偵・片桐透馬。


これは、名を求めて叫ぶ者と、名を返す者の物語。

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