第12話 再会

ルーカスの屋敷に着くと、彼はいつもと変わらぬ優しい笑みを浮かべて、玄関から出迎えてくれた。


「来てくれてありがとう。」


控えめな言葉とともに、客室へ案内しようとしたそのとき——


「久しぶりに、ルーカスの部屋に行ってみたいな」


ルカが、ふとした調子で口を挟む。


「そうだね。最近は来てなかったよね……今日は、俺の部屋で話すか」


そう言って、ルーカスが静かにうなずき、階段を上っていく。だが——その途中。


ルーカスの部屋の隣にある、普段は使われることのない一室。その扉が、ほんのわずかに開いていた。わざとらしくはないが、しかし不自然なほど自然に、そこに「気配」が漂っている。


違和感を感じ取ったユーリが、その部屋を見つめながら問う。


「ねぇ、この部屋って普通は使わないよね? 誰か使ってるの?」


一瞬、ルーカスの動きが止まった。返事を探すように数秒の間が空いてから、彼はドアノブに手をかけ、静かに扉を開いた。


「あぁ——」


「……え?」


三人の声が、驚きと戸惑いを含んで重なった。


「この部屋、ユリアが好きそうだろ? 実は……彼女が戻ってきたらここに迎えたくて、ずっと用意してたんだ」


そこには、柔らかな色合いのカーテン、淡い香りの花、読みかけの童話本、静かに灯るランプ。全てがユリアの記憶の中にある“安らぎ”の再現だった。


言葉を失いかけた三人に、ルーカスが気遣うように続ける。


「ごめん、なんか……空気、重くしちゃったよね。やっぱり俺の部屋じゃなくて、客室に戻ろう。お茶とか色々用意してあるから、ゆっくりしていってよ」


「あぁ……ありがとう!」


三人とも、どこか後ろめたさを拭うように、明るく返事をして客室へと向かう。空気を壊したくない——そんな優しさが、心に痛い。


「この部屋、閉めておくから。先に行ってて」


そう言い残したルーカスは、ドアをそっと閉め、指先をひとつ鳴らした。空間に隠されていたユリアの姿が、音もなく現れる。


「……ここで、待機してて。タイミングが来たら、合図を送るから」


ユリアは小さくうなずき、胸を押さえながら客室の前に立った。


◇◇◇


客室では、三人とルーカスが静かにティーカップを傾けながら、話を始めていた。


「ユリア……まだ見つからないなんて、信じられないな」

「ユリアは……本当に俺たちに会いたくないんだろうか」


そう呟いたルーカスの言葉を皮切りに、三人がぽつりぽつりと語り始める。


「ユリア、どこにいるの……。会いたいよ、ずっと大親友だったのに」

「ユリアは僕の恩人なんだ。今度は……僕が恩返ししたい」

「……何をしてても、ふと思い出す。元気でいるといいんだけど」


その頃、ドアの向こうに立つユリアは、胸の鼓動を聞きながら、じっと言葉の隙を伺っていた。


(みんなに会える……本当に会えるんだ)


ルーカスの声が耳に届く。


「実は、ユリアが見つかったんだ。ユリアは、僕たちに会いたがってる」


その言葉に、ユリアの指が震える。ドアノブに手をかけ、意を決して回そうとした——そのとき。


「……ユリアのこと、ずっと嫌いだった」

「一生、会いたくない」

「ユリアは……僕を壊したんだ」

「またユリアか。いい加減、うんざりだよ」

「このまま、現れなければいいのに」


瞬間、ユリアの世界が真っ暗に染まった。凍りついた手が、ドアノブから滑り落ちる。空気が、重くのしかかる。


(うそ、みんな……本当にそんなふうに思ってたの?)


胸がぎゅうっと締めつけられ、呼吸が浅くなる。


(会いたかった……のに……)


そっと、足が後ずさる。そのまま、音を立てないように廊下を進み、自室へと戻った。


ゆっくりとドアを閉め、壁に背を預ける。


——崩れ落ちた。


「もういやだ……何もかも、やめたい」


声にならない声で呟く。涙が頬を伝い落ちていく。


「ルーカスに、会いたい……ルーカス……私には、もうあなたしかいないの……」


震える手が、胸元を掴む。


「ルーカス……ルーカス……私のルーカス……」


そうしてユリアは、すがるように目を閉じた。

誰にも見えない、鳥籠の中で。

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