第32話 俺たちは、誰にも負けないってな!

 ──快晴の空。学園中央広場は、いつになく華やかだった。


 魔法光球が空に浮かび、掲示板には総合戦闘部アーク・ストラテジカ模擬戦イベントの文字が躍っている。


 この模擬戦は、総合戦闘部アーク・ストラテジカが主催する新入生歓迎イベント。華やかな雰囲気に、集まった生徒たちの熱気がさらに煽られていく。


総合戦闘部アーク・ストラテジカって……やっぱり人気なんだな」

 新入部員のバルドが、目を丸くしてつぶやく。


「うん……こんなに人が集まるんだもんね……」

 ヒューゴもそわそわと目を泳がせる。


 ロイに至っては「な、なんか俺、胃が痛いかも……」と青い顔だ。


 そんな三人に比べ、リミュエールの笑顔はまぶしいほどに輝いていた。

「大丈夫だって。筋肉に裏切りはない! 今日だって俺たちが証明する!」


 レオナートは苦笑しながら、腕を組む。

「……よくもまあ挑戦状を受けたな、リミュエール」


 陽光を浴びて盛り上がる上腕二頭筋が、頼もしさを漂わせる。


「言っただろ? 鍛え上げられた肉体は、魔法にも負けないって!」


 リミュエールは制服の襟を整え、瞳に炎のような光を宿す。


 その視線の先。舞台となる円形フィールドが、魔法陣の光で照らされていた。

 ルールは、学園おなじみの結界戦闘シールドバトル。三つの拠点ストーンを制限時間内にどれだけ占拠できるかを競う――シンプルながら、実力が試される勝負だ。


「でも……向こうは4人なのに、こっちは5人って……舐められてるんでしょうか?」

 ロイが小声で呟く。


 レオナートが肩をすくめる。

「まあ……端的にいうと、舐められてるってことだな」


「ふふ……なら、見せてやろうじゃないか」

 リミュエールの口元が笑みを刻む。

「俺たちは、誰にも負けないってな!」


 その言葉に、緊張していた新入部員たちも、わずかに笑みを浮かべる。


 フィールドの端で、鍛錬部ガーディアン・フォージの五人は肩を並べ、魔法陣をじっと見据えていた。


 リミュエールは深呼吸をしながら、ちらりと観戦席へと視線を向ける。

 そこには、銀の髪を揺らす少年の姿があった。

 エアリス=アストレア。第二王子の肩書きを持つ彼は、観戦席に腰かけて、どこか楽しげに微笑んでいた。


「……ちょっと待っててくれ、先輩」

 リミュエールはそう言うと、レオナートに一礼し、小走りに観戦席へ向かった。


 エアリスは相変わらず穏やかな笑みを浮かべていたが、その深い碧の瞳には鋭い光が宿っていた。


「エアリス!」


「リミュエール嬢。驚いたよ、総合戦闘部アーク・ストラテジカと試合をするなんて」


「……ああ。いろいろあってな。でも、お前こそ……見学に来ていたのか?」


「うん。この前、君に助けてもらったからね」

 エアリスはいつもの軽やかな笑みを見せながらも、真剣な声で答えた。

「強くなりたいって、思ったんだ」


 エアリスの周りには、数人の令嬢たちが取り巻きのように座り、そわそわしている。

 だが、エアリスの視線は遠くフィールドを見据え、やがてふっとイザルナへと目を向けた。

 紅髪の少女――イザルナの姿を見つめるその瞳の奥に、一瞬、鋭い光が走る。


「イザルナ嬢は……強いよ」

 その言葉に、リミュエールはぐっと拳を握る。


「……でも、君ならきっと、勝てる」


 その言葉が、リミュエールの胸に灯をともす。


「ありがとう。絶対に負けない……鍛錬部ガーディアン・フォージは、俺の誇りだからな!」


 リミュエールは大きく息を吐き、踵を返して再びフィールドの端へ戻る。

 待っていたレオナートが、にやりと笑って肩を叩いた。


 周囲の喧騒が次第に高まり、熱気が溢れ出す。

 今日の戦いは、ただの模擬戦じゃない。鍛錬部ガーディアン・フォージの未来をかけた、本物の勝負だ。


 運命を分ける十五分間の《シールドバトル》が、いま幕を開ける――!




 ✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩




 ──フィールド中央に張り巡らされた結界の光が、空気を震わせる。

 白線で区切られた戦場は、まるで神聖な決闘の舞台のように輝いていた。


「いよいよだな……」

 リミュエールは深呼吸し、胸を張る。制服の袖をまくった腕に、わずかに震えが走った。


 向かい側に整列するのは、総合戦闘部アーク・ストラテジカの4人。紅髪のイザルナ以外は、いずれも2・3年生の上級生たちだ。

 その表情には余裕すら漂い、彼らの強さを物語っている。


「面白い余興だな」

 観客席に腰かけるクローディア生徒会長は、薄く笑みを浮かべていた。

 闇の気配を纏うようなその微笑が、どこか不気味に映る。


 しかしその手元には書類の束。闘技場へ持ち込まなくてはならないほど、生徒会の仕事は多忙だ。


 一方、鍛錬部ガーディアン・フォージの陣営では、緊張感が張り詰めていた。


 リミュエールはレオナート先輩と目を合わせ、口角を引き上げる。


「作戦会議だ。最後まで勝ちにこだわるぞ!」


「お、おう……!」

 緊張した声をあげたのは、新入生のヒューゴ。

 炎を思わせる茶色の瞳が、恐れと興奮を行き来していた。

 肩幅はがっしりしているが、まだその力は眠ったままだ。


 隣のバルドは、草のように柔らかい緑の瞳を揺らし、メガネの奥の目を泳がせる。

「こ、怖いな……でも、がんばります……!」

 小さな声だったが、その決意は確かだった。


 最後にロイ。淡い風色の髪を揺らしながら、口元だけは笑っている。

「ま、やるしかないよな。見てるだけじゃ意味ないしさ」


 三人とも、リミュエールの美少女らしい凛々しさに、ちらちらと視線をやる。

 それでも、リミュエールの熱い瞳に圧され、しっかりと頷いた。


「安心しろ」

 レオナート先輩が低く言った。背筋を伸ばし、その腕に籠めた筋肉の力を見せるように、拳を握る。

「俺たちがいる。お前たちも胸を張れ。筋肉は裏切らない。戦うのは怖いかもしれないが……ここにいるのは、もう覚悟を決めた者だけだ」


 その一言に、ヒューゴの顔がぱっと明るくなる。

「は、はいっ!」


 リミュエールは小さく笑い、拳を握る。

「よし……始めよう。鍛錬部ガーディアン・フォージのために!」


 試合開始の鐘が、高らかに鳴り響いた。

 光の結界が淡く輝き、魔力の流れを示す光球がふわりと浮かぶ。


「いくぞ、みんな!」

 リミュエールの号令に、鍛錬部ガーディアン・フォージ5人の足が同時に地を蹴った。




 ✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩




 ──試合開始の鐘が鳴った瞬間、空気が張りつめる。


 魔法結界に囲まれたフィールドに、緑の芝生がきらきらと輝いていた。

 遠くから響く生徒たちの歓声が、試合の緊張感をさらに高める。


「始まったな……」

 レオナートが低く呟く。


 リミュエールは大きく息を吐き、指先に雷の魔力を集めながら視線を走らせた。


 向かい側、総合戦闘部アーク・ストラテジカの面々が堂々と構えている。

 イザルナが先頭に立ち、その背には2年生・3年生の上級生たち。

 全員が魔法具を装備し、威圧感すら漂わせていた。


「ふふ……ようこそ、鍛錬部ガーディアン・フォージの皆さん」

 イザルナが余裕の笑みを浮かべ、杖を軽く振る。

 杖の先端で、赤く光る魔石がきらりと煌めいた。


「……来る!」

 リミュエールが鋭く声をあげる。


 瞬間、イザルナの指先から赤い炎が咲き誇った。

 魔法具が展開し、彼女を中心に華麗な紋章陣が広がる。


烈火の蓮華フレイム・ロータス、展開」

 冷たい声とともに、炎の花びらが宙を舞い、灼熱の渦を作り出す。


「うわっ……!」

 ヒューゴが思わず後ずさる。

 熱気に煽られ、バルドの草の結界も、ロイの風の刃も、すべて弾かれていく。


「きゃっ……!」

 バルドの声が震え、ロイは顔をしかめる。

 ヒューゴの火属性の魔法は、逆に炎に飲まれて無力化された。


「さすがだな、イザルナ……!」

 レオナートが奥歯を噛む。

 イザルナの瞳は冷たく光り、圧倒的な優位を告げるように言う。

「無駄なあがきはやめなさい。ここで終わらせてあげる」


 だが、その瞬間。

「……ありがとう、三人とも」

 リミュエールが小さく呟き、目を鋭く光らせた。


(作戦通り……!)

 3人が奮闘するその隙を、リミュエールとレオナートは逃さなかった。

 熱気と喧騒の中、イザルナの意識が3人に集中している間に――二人は静かに走り出していた。


 リミュエールは指先に雷の魔力を宿し、稲妻の加速を生む。

 レオナートの筋肉が密かに震え、力を溜める。


(……背後を取る!)

 リミュエールはイザルナの死角に、音もなく滑り込む。

 イザルナが気づいた時には、すでに遅かった。


「筋肉共鳴……発動!」

 レオナートが低く唸り、全身の筋肉を震わせる。

 青白い雷光を浴び、さらに強靭な力を纏う。


「ここからが……俺たちの本領だッ!」

 リミュエールの声が響き、雷と筋肉の光がぶつかり合う。


 鍛錬部ガーディアン・フォージの真骨頂が、いま幕を開ける――!




 ✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩




お読みいただきありがとうございます♪

急造チームでのバトル、スタートです。


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