生まれ変わったら犬だったけど、ご主人様たちがかわいすぎたので今日も全力で守りたいと思います

にがりの少なかった豆腐

生まれ変わったらイヌだった

 


 生まれ変わったら犬だった。


 前世で数回、転生物の小説は読んだことがあったが実際に存在しているとは思っていなかったし、なまじ存在しても俺がその該当者になるとも思ってなかった。


 いやさ? あったらいいなとは思っていたんだよ? でもさ、現実的に考えて存在するわけないじゃん?

 まあ、現に俺が転生しているから存在していたらしいけども。


 それで今の俺はどういう状態なのかと言えば、とある町の薬屋の番犬をやっている。


 転生してすぐに親に捨てられ、餓死しそうになっているところをデカいネズミ殺されかけたところで今のご主人様に助けられた。

 その後手厚い治療を施してもらい、ミルクとかおいしいエサもいただいて、今は元気になり薬屋の番犬になった。


 ただ問題があってな。

 俺の体めっちゃでかいんだよ。転生する前に見た秋田犬より一回りくらい。

 番犬としてはいいのかもしれないけど、家の中で生活するのは少々大きすぎる。いいところもあるんだけどさ。寒い日にはご主人様が抱き着いて寝てくれるとかな。


 しかし、ここは異世界だからそういう犬種があるのかもしれないけど、俺本当に普通の犬なのか?


 正直小説や漫画はあまり嗜むような人間ではなかったから、ファンタジー生物に関しての知識があまりない。

 某不遇な魔法使いの少年の映画は見たことはあるけど、記憶があいまいだし、何なら途中でリタイアした口だ。


 ちょくちょく薬屋に訪れるあんちゃんたちの言葉を正しく理解できていればヘルハウンドって犬種らしいが、どんな犬種なんだろう。

 会うやつ会うやつ俺を見ると驚いたような反応をしているが、多分それは犬にしては俺があまりにもデカいからだろうし。


 生活しているとどうしても、もう少し体が小さければいいなって思うこともあるんだよ。

 正直なことを言ってしまえば、ご主人様が生活している家。薬師として生計を立てているから店舗兼用住宅なんだけど、そのせいもあって結構狭い。

 デカい体にとってはかなり窮屈な環境だ。


 なら外に居りゃいいと思うかもしれないけど、どうにも外で犬を飼うのは禁止されているらしく、散歩とかでしか外に出ることが出来ない。

 

 まあさ。デカいことでデメリットもあるけど、メリットがないわけじゃない。

 俺の体は犬だけあって毛皮でおおわれている。しかもご主人様が毎日丁寧にブラッシングしてくれているからつやつやのふさふさだ。


「くぅさーん。お昼御飯ですよー」

「がう?」


 店の奥からぴょこぴょこと頭の上にある長い耳を弾ませながら、俺のご主人様が俺の餌を胸に抱えて持ってきた。

 当然だが俺は肉食なので餌というのはその辺に生息しているモンスターの肉になる。


 今日はパピラックの肉か。


 いい肉というわけではないが、裕福とは言えない中で俺のための餌を買ってくれるご主人様には頭が上がらない。


「どうぞお食べー」


 そう言って俺の目の前に肉を持って来るご主人。下に置いてしまうと床が汚れるし、差し出された肉をそのまま一口で食べる。


 俺がもぐもぐ肉を頬張っているところをご主人様はニコニコしながら眺めている。

 何ともかわいらしい笑顔である。


 ご主人様の種族は頭の上に生えている長くて大きな耳からわかる通りウサギの獣人だ。

 まあ獣人と言っても、所々その特徴があるだけで、そこまでケモケモしていないかなり人に近い見た目だ。


 柔らかな口調ふわふわした雰囲気。そして出るところはしっかり出ているその姿に店に訪れる男たちから絶大な人気を誇っている。

 中にはご主人様目当てに薬を買いに来ている輩もいるらしい。


「くぅ食べた?」

「くるる食べたぁー?」


 貰った肉を完全に呑み込んだところで俺の体に何かが2つ勢いよくのっかって来た。


「こら、キー、シア! くぅさんは今食べ終わったばかりだから上に乗っちゃだめよ」


 今俺の上に乗っているのはご主人様の妹弟の双子。ご主人様その2その3である。当然だけど、この2人もウサギの耳を持つ獣人だ。

 年齢はわからないがかなり小柄なので、結構若いと思う。5歳とかそこらだと思う。


「くるるふわふわー」

「ふわふわー」


 俺の背に乗った二人は問答無用で俺の毛をわしゃわしゃし始めた。


 実にかわいらしい行動ではあるし大した力もないので痛くも痒くもないが、せっかく整えてもらっている毛並みが乱れるので、少々やめて欲しいところである。


 まあこの後、ご主人様に毛並みを整えてもらえるから、これも役得というものなのかもしれない。


 こんな感じで俺は犬になっても生活している。

 最初はまさかの犬に生まれ変わってしまい、死にたい気持ちもあったが、こうしてかわいらしいご主人様たちに出会えたわけで、むしろこれでよかったのかもしれない。


  

 今日もいつものように店の中で丸くなりながら、店に訪れる客の様子を伺う。

 

 俺は基本的に店のカウンターの近くに番犬としていつも待機している。

 買い物に来た客からは少し邪魔になっているかもしれないが、この世界は少々物騒な治安もあって、俺みたいな番犬を飼っていたり、警備員を雇っていたりする店も存在しているからそこまで珍しいことではない。


「くぅ今日もふかふか」

「くるる立って」


 なお、俺は番犬のほかに子守役としての役割もある。

 やんちゃ盛りの双子のご主人様は放っておくと何をするかわからないので、ご主人様が俺のところにこの子たちを預けている。


 俺の少し長い毛の中に顔をうずめてもふもふわしゃわしゃされているのを無抵抗で受ける。


 立ち上がって欲しいとのことだが、店が営業中は邪魔になってしまうからむやみに立ち上がることはできない。無理やり立たせようとしていた双子のご主人様を窘める意味合いで、尻尾を使い顔にふぁさふぁさしておく。


「わわわ」

「あはは、シア怒られてるー」


 尻尾攻撃を受けたご主人様を俺の毛に顔をうずめていた方のご主人様が笑う。その後は2人そろってきゃっきゃ楽しそうにはしゃいでいる。

 

 2人の年を考えると本当なら親が様子を見ているのがいいのかもしれないが、どうやらご主人様たちの親はこの家にはいない様子。

 俺がこの家に拾われてから一度も姿どころか匂いも感じたことがないし、もしかしたらもうこの世に居ないのかもしれない。


「お前らは今日も楽しそうだなぁ」

「ピッテが居ないってことは、キーとシアは店番か? えらいなぁ」


 今日も薬を買いに来た客が俺の上できゃっきゃとはしゃいで遊んでいた双子のご主人様たちに声をかけた。

 現在一番上のご主人様は先に来ていた客の注文した商品を取りに店の裏にある倉庫に行っている。


「えらい!」

「キーとシアえらい!」


 客の言葉にキャッキャと無邪気にはしゃいでいる双子は本当にかわいい。姉と同じように柔らかい雰囲気の2人だけあって本当に嫌味なくかわいいのだ。

 その愛くるしい見た目の影響なのか、この店に来る客の大半からこの双子のご主人様はマスコットキャラのような扱いを受けている。


 しかし、そういう扱いを受けるのは番犬としているもここに居る俺だと思うのだが……まあ、このご主人様たちがかわいいのはマジなのでマスコットの座は譲ることにしよう。

 

 そんなおこがましいことを考えていたところで店の奥から足音が近づいてきた。


「お待たせしましたー。あ、他の方もいらっしゃったんですね、ごめんなさい、お待たせしてしまって」


 店の奥の倉庫からいくつか注文された商品を取って戻って来たご主人様に気づいた客たちが一斉にそちらを向いた。


「いいっていいって。ピッテちゃんはただ仕事をしていただけなんだから」

「そうそう。あ、別に急がなくていいからね」

「ありがとうございます」


 ご主人様が店に戻って来たことで客の男たちの雰囲気がさらに緩いものになった。カウンターで待っていたやつも含め、客の男たちの鼻の下が若干伸びている気もするし、わかり易い奴らである。

 

 カウンターの前で待っていた客の対応をしているご主人様を横目に、現在店の中に居る客を見定める。


 今店内に居る客はご主人様目当ての野郎が多い感じではあるが、時たま変な客が来ることもある。


 まあ、この世界は殺伐としているというか、魔物という存在が居る関係でその相手をする人間が結構いる。その中には荒くれものも結構いて態度がデカい奴や、常時人を見下しているような質の悪い奴もいる。

 そういうやつが稀にこの店に来るので、そいつが来た時にすぐにらみを利かせられるように、俺の上ではしゃいでいる双子のご主人様を構いつつ、警戒しているのだ。


 まあ、そういうやつらは一度来たらそれ以降来ないことが多いから、一度追い払えればそれでいい。

 しかし、粘着して何度も来るような奴もいないわけではない。こういうのはこの店の常連がどうにかするような動きになっているから、今のところはどうにかなっている。

 

 正直俺が対処できればいいんだけど、この店の番犬というかペット扱いになっているため下手なことをするとご主人様のせいになってしまうので、にらみつける以上のことはできない何とももどかしい状況だ。


 そんなこんなで今日は今のところ変な輩は店には来ていない。いつもこれならいいんだけど。気を抜いたころに変な奴って来るんだよなぁ。


 そんなことを考えていればまた新しい客が店に入って来た。


 ああ、こいつはいつもの常連だな。多分今日もご主人様目当てにポーションを買いに来たんだろう。


 ご主人様がやっている店はこの町というか村? では唯一の薬屋っぽいから結構頻繁に人がやってくる。繁盛しているのはいいことである。

 常に人がいるって感じではないから凄く忙しいってことはないんだけど、それでも休憩するタイミングがつかめない程度には忙しい店だ。


 ん?


 常連客の男が入ってから少し開けてまた新しい客が店に入って来た。今まで見たことのない客だ。おそらく旅の途中か、偶然この店にたどり着いた奴なんだろう。


 こういう客も割と多いんだが、こいつはちょっとなんだ。嫌なにおいがする。


 そいつは俺の方へ一瞬だけ視線を向けてきたが、すぐ視線をカウンターに居るご主人様の方へ戻した。


 普通、初めてこの店に来て俺を見た客は驚くか警戒するか、怖がるような反応をするんだが、こいつ一瞥しただけでそれ以上の反応はなかった。

 いや、こういった反応は特別おかしなことではない。俺みたいな魔物を討伐して生計を立てている奴もいる世界だ。そういう猛者であればこういう反応になるだろうし、初来店だろうと事前に俺のことを知っていれば驚くことはないず。


 しかし、一瞬こちらに向けられた視線にはただ見ただけではない、何か別の意図があったように思えた。


 とりあえずこいつは警戒しておいて損はないだろう。

 

 

 あれから数日。特に何が起こることもなく、いつものように平和な日常を送っている。

 警戒していたやつも何かをしてくることもない。ただ、気づけば常連のやつらと同じように連日この店に訪れるようになっていた。


 いつも買っているのは売れ筋のポーション。

 恰好からして普段魔物を相手にしているやつらと同じようだが、やはり何か違和感がある。


 匂いが違うんだよな。

 魔物を相手にしているやつらって、やっぱり生臭いというかどうしても魔物を殺すことになるから、その時の匂いが体にこびりついているというか。

 この店に来る前には綺麗にしているんだろうけど、俺は犬だからその辺の匂いには敏感だ。


 しかしこいつらはそういう匂いがあまりしない。まったくしないというわけではないが、かなり薄い。

 ただ単純に匂いを気にして他のやつらよりもしっかり消臭しているのかもしれないが、それにしたって薄い。そもそも本人たちの匂いもあまりしない。


 普通はありえないんだよな。

 人間だって匂いはする。どんなに気を使っていても体臭は完全に消せない。香水を使ってもそれはあくまで匂いの上書きに過ぎない。犬の俺にはわかるのだ。

 

 それに、初日は気のせいかと思ったが、あいつやっぱり俺に対して警戒しているような素振りを見せている。


 まあ、犬にしては巨体だし人によっては苦手な者もいるだろう。

 始めはそれが理由で警戒しているのかと思っていたんだが、あいつが俺に向ける視線は明らかに苦手とか怖がっている人のそれではなかった。


 それにだ。ここ数日ずっとこの店に通っているわりに、ご主人様に対してこれといった感情を持っていないようなんだよな。


 愛想はいいんだが表面的って言うか、演技している感じがする。


 あれだけかわいいご主人様に接客されてこれといった反応を示さないのは稀だ。

 たまにぶっきらぼうな反応を返すやつもいるが、あれの大半はてれの裏返しだからな。俺にはわかる。

 しかも双子のご主人様相手にも特に反応を示していないんだよな。やっぱ何かおかしいわ。あいつ。


「くるる?」

「くー?」


 おっとすまない。

 いつものように俺の上できゃっきゃとはしゃいでいる双子のご主人様が、動かなくなった俺の心配をしてくれたのか顔を覗き込んできた。


「がう」


 心配そうな表情をしていたので、何でもないという感じで返事をする。

 

 まあ、あれこれ考えても仕方がない。ご主人様たちのために何かあったときすぐに動けるようしっかり警戒しておかないとな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る