第18話 魔王

“盲目の魔王”と称される黒塗空は、お人好しだ。


人類リスナーが魔王という言葉で思い浮かべているような残酷性はなく、無慈悲でもなく、ただただ人を思いやれる聖人。


他の者から大罪人と揶揄されようとも、かの者だけは味方であろうとする。


人類リスナーから見れば理想的な英雄に見えるのだろう。

人の善性を信じ、暗黒に包まれる地獄へと落とさず、更生させようとする。


だからこそ、空は“盲目の魔王”と呼ばれるのだろう。


人類リスナーの罪性には見向きもせず、モンスターを一方的に断罪する。

どれだけモンスターに聖人と言われるような魂を所持していようとも、モンスターというだけで断罪という罪禍を犯そうとする。


ミラーを人類リスナーの敵ではないと判断したのも、その内面に黒塗空おのれが潜んでいるからだった。


嗚呼……黒塗空はイカれている。


己が持ち得る覚悟は、大義は…あくまでも正義の一片にしか過ぎないのだ。


それを知りえた上で刃を振る。









だからこそ……モンスターとも人類とも判断できない者が現れた時、その思考にバグが現れる。




「君は、何者だい?」


天空に生成されたダンジョンを攻略し、ダンジョンを崩壊させようとした時だった。

黒いモヤから人が現れた。


モンスターは殺す。人類は生かす。

それがボクのポリシーなのには間違いはないんだけど……目の前の子がどちらに属するのかが判断できない。


判断できなければ殺さない……それが、人としてのラインを踏み越えない判断、なはず。

なのに、この子は殺さなきゃいけない……魂が、そうやって言葉ことのはを浮かべる。


[早いとこぶっ殺すべきだろ。アイツからは良からぬ未来が見える]


内部に存在しているミラーから思念を飛ばされる。


いやね、うん。分かってはいる。分かってはいるんだよね。

でもさ、見た目が可愛い女の子だとやりにくいじゃん?


[何言ってんだボンクラ野郎]


何とも言い難い酷い言葉だ。

ボク泣いちゃうぞ。


[勝手に泣いとけ。それが世界の幸せだ]


私は今日不公平な幸せを見ました。


[それが世界だ。満足しとけタコナス]


うわー、ひっでぇんだー!

ふふんだ。後で会長に言いつけてやる!


……っと、流石に遊び過ぎかな。


魔法がスキル…どちらかで変形させた腕を振り、こちらに斬撃を与えようとしてくる。

周囲に細かい魔法陣を展開しつつ、空間から“アダイラル・ノア”を取り出す。


鳴り響く金属音を背景に、仕留める為に刃を振り下ろす。


煉唱會れんしょうかい


刃が触れ合う時、地獄を思わせる熱度が空間を掌握し、つい離れてしまう。


……まて。何だ今の反応は。

あの程度の火力、そのまま突っ込んでも何ら影響は生じないはず。


なのにボクは避けた。アレを危機的な代物に付随するのだと感じ取り、疑う素ぶりなく避けたんだ。


会長との修行で飛んでくる魔法の方が威力が高いのにも関わらず。


[結果の否定だな……]


結果の否定……因果の干渉に分類される力…。

誰だよあんな面倒くさい子連れてきたの。


え?ボクやりたくないんだけど?

運命干渉とかボクのレベルじゃなくない?

次元数什とかそこら辺だよ?初心者に頼む案件じゃないと思うなー!


[次元の底上げで什壱になってなかったか?]


黙ってろよクソボケェ!!


[えぇ……]


「はぁ…どうしたものか。並の攻撃じゃあ傷はつけられない…」


「そして、度が過ぎた攻撃は致命傷になる。本当に……難儀だ。ボクはまだ加減ができないってのに」


口から放たれるセリフは迷い、困惑し、攻めあぐねている。

けれど、言葉に含まれている感情はそうではない。


「……」


脳が愉悦に染まる。


相手が人間であれば慈愛を持って接していたさ。


相手がモンスターなら無慈悲で接していたさ。


でも、相手はどちらにも属さない。

ならば、好きに遊んでも良いじゃない。心の底から玩具としていじくっても良いじゃないか!


巳陀羅赤燐みだらせきりん…」


電脳魔闘ボルティック・チャージ


赤き流星と白き落雷が身に到来する。


[馬鹿野郎!殺す気か!?]


殺す気はない。だから……一回死んでもらおうかなって。

どうせ素直に投降する気ないでしょ、あの子。


ならハイパワーで気絶させる方が良い。


[でもな……可愛い女の子を痛めつけて良い理由には…]


あの子、多分だけど人造人間だよ?

スキルとか魔法じゃなくて、人類が築き上げた叡智の結晶。


[おら!何やってんだよ!さっさとボコして連れ帰るぞ!んで実験すんぞ!]


まーた会長に怒られそうな発言しよってからに…。


「この状態なら木刀で良いよね?」


“アダイラル・ノア”をしまい、木刀を取り出す。

特別な魔法やスキルはなく、材料はよく見かけるであろう木材。

マナと霊気で強化しただけの木刀だ。


でも、今の状態ならこれで十分。


「雷光」


木刀に白色の雷が帯びる。


闘志に似合わぬ笑顔を浮かべ……



地面を駆け抜ける。


一つの行動をしただけでダンジョンの一部が崩壊したけど……どうでもいっか!


天空には誰も来ない!誰も来ないならダンジョンが有る意味はない!


「白夜…!!」


ただの横薙ぎ。少しの技巧と雷を混ぜ合わせた攻撃に過ぎない。

けれど、それでもあの子には大き過ぎるらしい。


思いっきり吹っ飛び、ダンジョンの壁を貫通し、横の部屋へ……横の部屋!?


ちょい待ち……。ミラー、君言ったよね。

ボクらが探検したとこ以外に部屋はないって。

じゃあコレは何さ。明らかに厄ネタたっぷりの部屋が見えるんだけど。


[簡単な話だ。オイラが探知できなかった]


それってガチ探知?


[ガチ探知だな。ミリも手ェ抜いてねえよ]


ガチ探知でそれか……。


マナ操作や探知は次元相応になっていると思うんだけどね……。

それよりも上、か。“超次元生徒会”案件にも程があるでしょ。


「矮小な者どもよ、感嘆を抱け」


【イヨー!天晴!イヨー!天晴!】


「愚かな人々よ、喝采を浮かべろ」


【イェイ!ハァ!天晴!イェイ!ハァ!天晴!】


「世界よ、天空おおぞらを見上げよ。さすれば我が覇道が現れるだろう」


【天晴!天晴!チョー天晴!天晴!天晴!チョー天晴!】


「【我が覇道を刻み込めグランダーニス】」


[初っ端から天使形態か?]


逆に聞くよ。ノーマルで行く気か?

甘く見て挑んだら死ぬ世界だと、ボクは思うね。


[今から挑む気か…?]


少し、気になるところがある。だから行く。


➖➖➖


???side


最悪の気分だ。それ以外にこの事態を説明するのに適する言葉はない。

ゴミカスクズの三点セット神様に殺されたと思ったらダンジョンにいるし、女の子になってるし、転生して初めて会った現地人が敵意バリバリだし。


クソゴットから貰った特性、【マナ変質】で何とか対応できてたけど、後半から対応できなくなった。


何だよあの白い雷光と赤いオーラは。

ズルでは?チートスキルを貰った俺が言えた内容ではないけど、クソズルだろ。反省しろや。


“超次元生徒会”以外には無双できるってクソゴットが言ってたのにな。

もしかしてアイツが“超次元生徒会”だったり?

アイツが会長だったら嬉しいことこの上なし。


「はぁ、はぁ」


……つっても、この状況を切り抜けれたらの話になってくるが。


思いっきり木刀で殴られた時、肋骨が折れた。

着地しようとした時、足の骨が折れた。

【マナ変質】で何とか戦えているけど、ぶっ倒れるのは時間の問題だな。


クソゴットが……。ゴミカスな環境に転生させやがって、呪うぞ。


末代まで呪ってやる。


いや、神は繁殖しねえから当人だけで良いのか?


でも神話とかだと子作りしてるしな……。


あぁ、ダメだ。余計な思考が頭を埋め尽くす。

本能が生を諦めている。クソッタレがよ…!


「geee」


トカゲの兵士が槍を振り下ろそうとする。

分かる。分かってしまう。この一撃で俺の2度目は終わってしまう事に。


どうせ死ぬなら現実逃避をしていたい。

クソッタレな現実を目視するより、見ないフリして痛みだけで終わらせたい。


だから……目を閉じた。

なのに、痛みはこない。死もやってこない。

バグか?世界にバグが到来したのか?


「バグじゃないよ」


目の前には青年がいた。

銀の髪に純白の軍服……そして純粋を現すような天使を思わせる翼。


特徴は違えど、先ほど戦っていたヤツだ。


「さっきぶりだね。理から否定され、在り方を見失った蝶の子よ」


なんか失礼な事言われた気がすんなあ……。

殴って良いか?こいつ。

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