第6話 海底古代遺跡

「俺はここを通れないからな。お前の判断に任せるぞ。別に海域的に調査できる範囲はここだけじゃないからな」


 言われてみればここ以外にも調査できる場所はある。


 それだけ海は広い。海の中はまだまだ未解明のものに溢れている。


 でも、俺はこの穴、洞窟? の中になにかロマンのようなものを感じているのも事実だ。


「10分。それだけ時間をくれ。この中を調査したい」


「ああ、わかった。連絡は適宜、腕輪を通して頼む」


 俺は1人でこの先に進むことにした。ダイバーとしてこの判断は間違っているかもしれない。


 命は1つしかない。だから慎重に行動すべきという意見もわかる。


 でも、俺は未知の世界を探索したいからトレジャーダイバーになった。


 目の前に未知が広がっているのに、ここで引く選択肢ができるわけがない。


 俺はライトで穴の中を照らしながらその中に入った。念のためにダイバーの武器であるトライデントを構える。


 この狭い穴の中にどんな危険生物がいるかわからない。慎重に泳いで進んでいく。


 洞窟を進んでいくとその出口が見えてきた。なにやら朽ちた建物が見える。俺は洞窟の出口を抜けるとそこは遺跡だった。


 村というほどの規模ですらない。建物が数個あるだけの場所。でも、それが元々都市ではなかったという証拠はない。


 どんな大規模な都市も一部分だけ切り取れば、村、集落以下の規模だ。一部分だけが残ったと考えるのが自然か?


 海底人がいるわけでもないし、ここは元々は陸地だった場所が建物ごと沈んだのだろう。


 そこそこキレイな状態で建物が保管されている。経年劣化はあるものの、建物だとハッキリとわかる。


 俺は腕輪の通信機能を使いユリウスに話しかける。


「ユリウス。建物を見つけた。どうやら沈んだ都市の一部かなにかだろう」


「なに! そうなのか! ちくしょう。俺も生で見たかった。このでかい体が! ちくしょう!」


 ユリウスの大柄な体は戦闘では有利なものの、体が大きければ良いというものでもないか。


「ああ。とりあえずこれは凄い発見だ。俺一人ではとても調査しきれない。とりあえず、もう少しだけ中を見ていくけどすぐに戻る」


「わかった。これはバディの編成を一時的に考えないとな」


 少なくともユリウスはここを調査できない。ここに入る方法がない。


 だとすると俺と同程度の体格以下のダイバーじゃないと難しい。それでいて、俺と組んでコンビネーションを発揮できるとなると……


 いや、今は別のバディを考えている時間ではない。そんなのは地上でもできる。今はとにかく、少しでもこの遺跡の調査を進めるんだ。空気膜も有限だからな。


 俺はこの遺跡を探索することにした。まずは1番近くにある建物に入ってみよう。


 左右対称の建物。3階建てでかなり大きい。この施設は一体どういうものなのだろうか。それをこれから中に入って確かめよう。


 俺はゆっくりと建物に近づく。そーっと気配を消す。


 海は広大であり、視界が開けている。だからこそ、隠れる場所は貴重なのである。建物の中、その影。そんなものは生物が隠れるのに最適な場所だ。


 そこを縄張りにしている生物だっているだろう。そんなやつらとうっかり遭遇したら戦闘になることもある。


 お互いに好戦的でなかったとしても、相手が俺を侵入者で排除対象だと思えば自衛のために先制攻撃されることもある。


 そうなれば、もう戦いは避けられない。俺はハンターダイバーではない。トレジャーダイバーだ。


 戦いは専門外で、危険生物を排除するのが目的ではない。俺の目的は古代の遺産を生きて持ち帰ることだ。


 だから戦闘は最低限、自衛できるだけのものでいい。このトライデント1本だけでいい。それ以上の余計な装備はかえって荷物になり、動きが制限されてしまう。


 俺は入口付近に近づく。そして、壁を背にして、ゆっくりと入口の中の様子を確認する。


 ユリウスが待っているからあまり時間はかけられない。でも慎重に歩みを進める。


 視界に見える範囲に生物の姿はない。気配のようなものも感じられずに恐らくは突入しても大丈夫。


 俺はごくりと息を飲んでからトライデントを構えて入口に突入した。


 建物の中に入り周囲を確認する。


 生物の気配はない。危険なティアマトもここにはいないだろう。


 俺はふうと一息ついてトライデントの構えを解く。そして、周囲を探索する。入口付近にはなにやら受付のようなものが見える。


 ここは公的施設か、それとも商業用の施設か。少なくとも民家には見えない。


 さて、どこから探すべきかな。水中では上下左右前後どこにでも進むことができる。


 別に律儀に1階から調べなくても3階の窓から侵入すればそこからの探索だって可能だろう。


 でも、一応ここは地上にあった建物だ。だから地上のルールに従って1階から入り調べてみよう。


 入口から向かって右側には通路と階段が見える。とりあえず階段はまだ早い。左側から調べてみるか。


 左側の最奥になにやら2カ所別れている扉がある。なにやら扉の前にマークが描かれているがかすれていて、どんなマークか判別できない。


 とりあえず、入ってみるか。


 俺は部屋の中に入ると、部屋の中に更に個室があった。その個室を調べてみると便器がある。


 なるほど。ここはトイレか。地上にあった当時の状態に近い形で残っているっぽいな。


 小便器がないってことは、ここは女性用トイレか。


 そんなところを調べてもなにかあるわけでもない。ここはスルーだ。


 一応、もう片方の扉も……今度は小便器が見えた。こっちは男性用トイレだ。


 海中にいる生物の多くはトイレの概念はなく、その辺に排泄物を垂れ流す。


 こんなところに沈んでしまったトイレは2度とその役割を果たすことがない。そう考えるとなんだか物悲しくなってくる。


 海中にあるトイレに用を足すなんて俺もしたくないからな。というか、海中ならトイレとか意味ないし。


 さて、十中八九トイレでなにか見つかるなんてことはないだろう。ここは引き返して別の部屋に行くぞ。


 入口から向かって左側通路のトイレの手前にある部屋。


 俺はそこに入ろうとする。しかしドアが閉まっている。開こうと思っても水圧の関係で開かない。


 仕方ない。あんまりやりたくないけどやるか。


「ふううう……」


 俺は息を吐く。そして、自分が纏っている空気膜を消費してドアの周囲を空気膜で覆った。


 空気膜に覆われている今なら水圧がかからない。時間との勝負だ。


 俺は手早くドアを開ける。ドアを開けた瞬間に空気膜がパッと消えた。


 間に合った。


 空気膜は物体にも纏わせることができる……が、それはほんの数秒程度だ。


 空気膜を維持するためには人工呼吸で空気を送らなければならない。


 当然、肺や呼吸器がないドアには人工呼吸ができないので数秒程度、空気膜を纏わせることしかできない。


 俺の空気膜がまた薄くなってきている。気のせいかもしれないけど、空気膜が薄くなってくると息苦しさと恐怖を感じる。


 段々と死が近づいてきて心の余裕がなくなってくる。1人でいる現状、この空気膜が尽きたら俺は死ぬ。


 その意識を持って俺は室内に入った。そこで俺が目にしたものは……


「これは……こちらジョー。ユリウス聞こえるか」


「どうした。ジョー」


「聞いて驚くな。お宝を発見した」


「なんだと!」


 俺は部屋の中にある棚を見た。その中にアクリル板が数枚入っていて、俺はそれを手に取る。


 このアクリル板。一見大したことがないものに見える。が、実はとんでもない情報が刻まれてる可能性がある。


 アクリル板の内部にはなにか模様が刻まれている。この模様こそが古代人が遺した記録なのだ。


 いわば、このアクリル板は記憶媒体。海底に沈んでも保存される貴重な資料なのだ。

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