剣狂いの現代ダンジョン攻略~魔法重視の世の中で刀にこだわる男~

永久冬眠

第1話 ダンジョンがある世界

 百年前——。


 世界各地に、突如として“ダンジョン”と呼ばれる巨大な地下迷宮が現れた。


 それはまるで、人類に試練を突きつけるかのように。



 そしてこの日を境に、人類の暮らしは一変した。いや、“文明”そのものが変わったと言っていい。



 ダンジョンに巣くう怪物モンスターを倒すことで得られる特殊な結晶体、『魔石』。



 この未知の物質こそが、世界を変えた鍵だった。



 魔石は石油や原子力をも凌駕するエネルギー効率を持ち、小型のものは家電に、中型は自動車や家庭の電力に、そして大型ともなれば発電所に設置され、都市そのものを支える力源となった。



——しかも、魔石は尽きない。



 ダンジョン内では、モンスターが一定数保たれるように自然発生し、倒されればまた湧いてくる。



 つまり、魔石の供給は限りなく永続的。



 人類はついに、半永久的なエネルギー源を手に入れたのだ。



 ただし、一つだけ問題があった。



 モンスターが、強すぎる。



 初期のダンジョン調査は各国の軍隊が担当していた。だが、現行の火器では歯が立たず、戦車を持ち込むにはダンジョン内部は狭すぎる。



 “軍隊では対応できない”という現実に、各国政府は頭を抱えた。


——そして打ち出されたのが、“探索者”制度。



 国際連携のもと「ダンジョン管理局」が設立され、各国で支部が設けられた。



 そこで政府は一般市民の中からダンジョンに潜る人材を募り、魔石やモンスター素材の回収と買い取りを民間に委託する方針へと大きく舵を切ったのだ。



 これが、意外にも大成功だった。



 というのも、ダンジョンの出現と時を同じくして、“魔力”という未知のエネルギーを感知・行使できる人間が各地で現れ始めていた。



 魔力を用いることで、人間はモンスターに対抗できる力を手にした。


 重火器が効かない相手を、魔法によって斃す存在——探索者。



 彼らは畏れられ、遠ざけられ、時には差別の対象にもなった。



 だが時代は進み、今や地球人口の九割以上が魔力を感知できるようになった。



 もっとも、才能の差は激しく、探索者一本で食っていける者は全体の一割にも満たない。



 命懸けで潜り、成果がなければ報酬もゼロ。



 探索者は、実力主義の極みにある職業だった。



 それでも各国は探索者を増やすため、免税や各種優遇措置を設け、あの手この手で志願者を集めていった。



——時は、西暦2125年。現代日本。



 探索者は、少年少女の憧れとなった。



 誰もが一度は夢に見る、英雄譚の主役。



 そして今日もまた、一人の若者が、その門を叩こうとしている——



「爺っ!いい加減に放してくれよ!」


「ぬぅぅ……! まさかあの幼少の口約束をここまで本気にされるとは思いませなんだ!坊ちゃま、どうかお考え直しを!」



 東京郊外の某所。


一軒の古びた屋敷の玄関先で、久住総司くずみそうじは、老執事、山本宗次郎に両腕をつかまれていた。



「十七になったら探索者になるって、爺も認めてくれたじゃないか!」


「お戯れを!万が一、坊ちゃんに何かあれば、亡き源司様と華様に顔向けできませぬ!……老い先短いジジイの頼みと思って何卒お考え直しを!」


「縁起でもないこと言うなって!」


「今日という今日は無礼を承知で申し上げますぞ!使坊ちゃんにダンジョン攻略など無理でございます!!」



——事の発端は、十年前。


俺が七歳だった頃にさかのぼる。

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