【20-2】背後に拡がる闇(2)
「
その女は何と申しましょうか。
あの左道の神斎にも増して胡散臭く、腹黒い者なのです」
桜子が自分の腹黒さを棚上げして、吐き捨てるように言うと、
「野良巫ですか…」
と、天宮は戸惑ったような表情をした。
「本人はフリーランスなどと気取ったことを申しておりますが、要はいずれの社にも所属しない、流れの巫女なのですよ。
それはさておき、その稀璃子が申しますには、京都のさる神社から<鬼相石>なる四つの石が盗まれたそうなのです。
天宮様のお話の中にあった石とはもしや、その<鬼相石>のことではないでしょうか」
「その<鬼相石>というのは、どの様なものなのでしょうか?」
「
<鬼相石>とは<無量>、<両儀>、<四象>、<万極>と呼ばれる四つの石の総称で、それぞれに
「鬼ですか。
それはあの<鬼哭>のような、死者の霊ということでしょうか?」
「天宮様の仰るように、<鬼哭>の鬼の字は、大陸では死者の霊を表しております。
しかし<四鬼>の鬼とは本邦での解釈で、魔物の類を指すのです」
「つまりその<鬼相石>には、魔物の力が封じられているということでしょうか?」
天宮の問いに頷いた後、桜子は淡々とした口調で話を続けた。
「その<四鬼>が具体的にどのようなものなのかは判然としないのですが、古い文献によりますと、どうやら鬼の状態が変化する様を表す言葉のようなのです。
つまり鬼の状態が赤から青、青から黒、そして黒から白へと様変わりすることを<四鬼>という言葉で表しているのです」
「それは鬼が次々と進化していくということなのでしょうか?」
「はい、概ねそのご理解で間違いないかと思います」
桜子が頷くのを見て天宮は束の間考えた。
――時期的に考えると、確かに
――だとすれば、次の鬼の力を宿した人間が、もう生まれているということだろうか?
「桜子さん。その<四鬼>について、もう少し詳しいことは分かりますか?
先程<四相石>が京都の神社から盗まれたと仰いましたが、盗んだ犯人がこの県内にいるということなのでしょうか?」
「そうですね。
稀璃子が申しますには、石を盗んだ犯人がこの地にいるらしく、あの女は盗難にあった神社からの依頼で、<四相石>を取り戻しに来たようなのです」
「その稀璃子さんという方は、窃盗犯が誰なのかご存じなのですか?
もしご存じであれば、警察に協力して頂きたいのですが」
「残念ながら稀璃子はあれ以来姿を見せませんので、今どこで何をしているのか定かではないのです。
しかし二月前に顔を見せた時には、まだ捜索は端緒に就いたばかりで、犯人が分かっていなかったようでした」
「稀璃子さんと連絡はとれませんか?」
「
お役に立てず申し訳ありません」
実は第三者を通じて
彼女は稀璃子が事件の裏で暗躍していると推測しており、そのまま泳がせる方が面白い展開が期待できると考えているからだ。
桜子は天宮たちへの協力は惜しまないものの、自身の楽しみを放棄してまで力を貸そうとは思っていなかった。
そのことは
「桜子さんはこの県内で、信者に白木の神棚を与える、或いは買わせるような宗教団体についてご存じではありませんか?」
「先程のお話に出て来た、犯人宅に置かれた神棚の件ですね?
そのような話は耳にしたことはありませんが、
「石とセットで、特定の相手にだけ渡されたものだということですね。成程」
桜子の推論に天宮は納得して頷いた。
そして、
「もしその稀璃子さんという方から、何か情報が取れましたら、私にご連絡頂けますか?」
と彼女に要請した。
「承知しました。
稀璃子の情報を待つだけでなく、
何か分かりましたら、必ずお知らせするように致します」
「くれぐれもよろしくお願いします。
それでは今日はこれで失礼します。
お時間を頂いてありがとうございました」
桜子に礼を述べて<占い処>を辞した天宮の胸には、昏い予感が湧き出ていた。
彼女から聞いた<四鬼>や<四相石>の話は、今回の一連の事件に深く関与していると思わざるを得なかったからだ。
そしてそのことは、次に<黒鬼>に憑かれた者が現れ、殺人事件を起こす可能性があるということを意味していた。
<黒鬼>の力がどの様なものかは不明だが、これまでの経緯から、
そのことが判っていながら未だ背後にいる犯人、<四相石>を盗んだ者たちに辿り着く端緒さえ見えないことに、天宮は激しい焦燥感を覚えていた。
――早く何とかしないと。
彼女のその焦りは、背後で潟田美奈子や瑞木妙子を操って、連続殺人の種を振り撒いた者たちへの強い怒りに変換されて行くのだった。
一方天宮が<占い処>から出ていくのを見送った桜子は、知り合いの陰陽師である
すると神斎からはすぐに応答が返って来る。
『桜子さあん。
電話くれるなんて、珍しいですねえ。
どういう風の吹き回しですかあ?』
「相変わらず鬱陶しい話し方ですね。
何とかならないのですか?
まあ、それはさておき。
神斎、お前<鬼相石>のことは知ってますよね?」
『<鬼相石>ですかあ?
勿論知ってますよお。
確か今、あの糞女の稀璃子が追いかけてるんですよねえ』
「そこまで知っているのなら、話が早いです。
お前、稀璃子に連絡を取って、今の状況を訊き出しなさい。
そして包み隠さず
分かりましたか?」
『ええ?僕があいつに連絡するんですかあ?
嫌ですよお。
どうせあの、ろくでなしの糞女のことですからあ。
訳の分からないことを仕出かしてるに違いないですよお』
「ろくでなしのお前に、ろくでなし呼ばわりされる筋合いはないと、稀璃子も思うでしょうが、それはいいとして。
四の五の言わずに、言う通りにしなさい」
『ええ。面倒くさいから嫌ですよお。
番号教えるから、桜子さんが直接訊いて下さいよお』
「私はあの女と話す機会を、出来れば一生持ちたくないのです。
それくらいはお前にも分かるでしょう?
それに天宮様から手に入れた、<
『あれは桜子さんが処分しろと言ってくれたんですよお。
桜子さんこそ忘れたんですかあ?」
「どうせお前のことですから、後で悪用しようと考えて、処分せずに持ってるんでしょう?
違いますか?」
『…』
「分かったなら、すぐに稀璃子に連絡しなさい。
いいですね?」
『はあい。でもこれ、貸しですからねえ』
尚も神斎が文句を言いそうな気配を察し、桜子はさっさと電話を切ってしまった。
そして机に両肘を着いて考える。
――約束ですから、神斎からの情報は天宮様にお伝えしなければなりませんね。
――とは言え、どのタイミングでお伝えするかは、
その時桜子の貌には、とても邪悪な笑みが浮かんでいたのだった。
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