【16-1】貫井彩(1)
その報告を聞いた鏡堂は、
「現時点で考えられることはあるか?」
と天宮に訊ねる。
「まだ整理は出来ていませんが、幾つか犯人に繋がる道筋が見えてきています」
その答えに頷いた鏡堂は、「推測で構わんから、言ってみろ」と彼女を促した。
「まず
水沼の証言を信じるのであれば、彼の周辺から噂が出ていないことになります。
ただし彼が言っていたように、同じ塾に通う誰かが聞いていて噂を広めたという可能性は残ります。
そして今日の瑞木早容の証言から、瑞木自身はその事実を知っていたことになり、彼女が噂の元である可能性は最も高いと思われます。
しかしこれも岡部が瑞木以外の誰かに話していた可能性がまだ残っていますので、確実とは言えません。
それに加えて、瑞木が噂を流す理由が不明です。
彼女は岡部だけでなく友田麻衣も水沼に好意を持っていることを知っていましたから、噂を流して
自分が二人の間で板挟みになることは、分かっていたと思われますので」
天宮がそこまで言って言葉を切ると、横から真田が口を挟んだ。
「瑞木早容にその意図はなかったとしても、偶々彼女から事情を聞いた第三者が、意図的に噂を流したということはないでしょうか?」
「それもあり得るわね」
天宮は真田の意見を肯定した。
「いずれにせよ今の情報だけでは、噂を流した者イコール犯人とはならないだろうな」
鏡堂がそう締めくくると、二人はその言葉に頷いた。
そして天宮は話を先に進める。
「噂に関して言えば、友田麻衣が水沼健人に告白したというデマが流れています。
これについては水沼自身がその事実を否定していますので、誰が何の意図を持ってそのような虚偽の情報を広めたのか、全く不明です。
しかし噂が流れた直後に岡部、友田の二人が死亡している点を考えれば、噂と事件が関連していることは間違いないと思われます」
「それは犯行動機と繋がるんじゃないでしょうか。
水沼君に告白したという噂を聞いて嫉妬した犯人が、二人を殺害したという」
真田のその意見に天宮は頷くと、
「確かにそれは、動機としてはあり得ると思う」
と一旦同意を示した上で、反論を口にした。
「でも自分が好きな子に告白したというだけで、その人を殺すだろうか?
絶対にないとは言い切れないけど」
「そうですよね。
ちょっと動機としては弱いかな」
「だがそうすると、犯人の動機は噂とは無関係ということになるんじゃないか?
動機については一旦保留にして、真田が言った点も可能性として残すべきだろう」
鏡堂に意見を聞いた天宮は、「分かりました」と肯く。
「そして最後に犯行手段ですが。
これは解剖所見がないので、特定することは出来ません。
しかしガイシャ二人の健康状態や、亡くなる直前までの行動を考えると、急病ということは考えにくいと思います。
さらに外傷や毒物中毒の痕跡も認められない点を考えると、やはり超常的な力によって殺害されたと考える方が妥当ではないでしょうか」
天宮の主張を聞きながら、真田は思った。
――もしかしたらうちの班が、怪異現象を呼び寄せているのかも知れないな。
――いつも思うけど、何で僕はこの班に選ばれたんだろう?
それは
そしてそんな真田の内心に気づくこともなく、天宮は話を続ける。
「ここからは超常的な力であるという前提で話します。
まずどんな現象が起こっているかということは、明確ではありません。
体内の血液、恐らく血液中の水分を操作する力ではないかと推測されるだけです。
そしてこれまでの事件と同様に、超常的な力を使う犯人は、犯行時に必ずガイシャの近くにいた筈だと考えられます。
そしてここからは更に推測になりますが、今回のように、人間の体内の物質を操作するタイプの犯人は、一度対象の体に触れる必要があるのではないでしょうか?
昨年起こった<
そして先日の<鮫島食品事件>の
そこから類推すると、今回の犯人も二人のガイシャに近い人物だろうと考えられます。
つまり瑞木早容を含めて、オープンキャンパス当日にあの茶会の場にいた生徒、そして昼休みに友田麻衣の周囲にいた生徒である可能性が高いと思われます」
天宮が立てた仮説を耳にした鏡堂は、
「お前の説は分かるし、その可能性は高いと思う。
しかし、まだ断定するには早いな」
と、難しい表情で言った。
「犯人がガイシャの近くにいたというのは賛同出来る。
しかし必ずしもすぐ近くにいる必要は、なかったんじゃないか?
例えば<饕餮事件>の犯人は、一度相手の体に触れてさえいれば、離れていても能力を発動出来た筈だ。
勿論相手が、自分の見える範囲にいればの話だが。
その点からすると、事前に二人の体に触れていれば少し離れた場所からでも、犯行を行うことが出来るということになる。
だから現時点では、範囲をあまり狭めない方がいいと思う」
鏡堂の主張を聞いた天宮は、
「確かにそうですね。
余り先走り過ぎないよう、気をつけます」
と素直に肯いた。
それを見た鏡堂は、話を締めくくるように二人に指示する。
「いずれにせよ、犯人は校内の人間の可能性が高いのは確かだ。
しかし、相手は高校生だからな。
出来るだけ慎重に捜査を進めてくれ」
そうしてブリーフィングを終え、デスクに戻った天宮が携帯電話を確認すると、
彼女がメッセージを読むと、『今日の放課後に会って話したいことがあります。時間と場所は学校が終わってから連絡します。学校が終わるのは3時半頃です』と記されている。
天宮はそのメールに、了解した旨の返信を送りながら考えた。
――上村裕子の話は何なのだろう?事件に関係することだろうか?
その朝あった時、彼女は関係ないかも知れないと言っていたが、その時の深刻そうな表情が天宮には気になっていたのだ。
そして天宮が裕子に返信を送った僅か一時間後、福〇高校の校長から衝撃的な通報があった。
また昼休みに生徒が倒れたというのだ。
状況は友田麻衣の時と同じらしい。
そして天宮は倒れた生徒の名を聞いて、言葉を失ってしまう。
その生徒は上村裕子だったのだ。
鏡堂に急を告げ、真田を伴って現場に急行した天宮の目に、騒然となった校内の風景が飛び込んで来る。
現場では既に到着していた救急隊員が、床に倒れた女学生を丁度担架に乗せようとしていた。
そして彼らを取り囲んだ生徒や教師たちの間から、絶え間なくざわめきが聞こえてきていた。
それを掻き分けるようにして、生徒たちの輪の中に入った天宮が眼にしたのは、上村裕子の変わり果てた姿だった。
救急隊員の一人から状況を聞いた天宮は、裕子が既に絶命していることを知る。
そして激しい後悔に襲われたのだった。
――もっと早く私が気づいていれば、この子の死は防げたかも知れない。
実は天宮はここに来る車内で、一つの天啓を得ていたのだ。
そのことは犯人を特定する、大きな手掛かりになり得るものだった。
それに気づくことが遅れたために、新たな犠牲者を出してしまったことを、彼女は悔やんでも悔やみきれなかった。
そういう思いを抱いて、搬送されて行く裕子を見送る彼女の目に、こちらをじっと見つめている女生徒の姿が映った。
それは
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