第2話 流行り

 ツクヨミ加入から数日間、隼人はやと冬弥とうやの任務に同行していた。


 今夜も睡魔を狩り終え、装備の確認をしていると、近くで青柳あおやぎ赤羽あかばねの二人が睡魔と戦闘中という情報が入り、冬弥に誘われてその現場に向かうことになった。


 現場に到着し、展開されているヴェールに侵入。ビルの屋上から非常階段をおりながら通りを見ると、青柳と赤羽はビル三階分相当の巨大なモンスターと戦闘中だった。


「これって確か、最近話題の映画に出てくるモンスターですよ。学校でも流行ってます」


「認知度が上がればそれだけ睡魔となって出現する確率も上がる。くちコミの波及はきゅう効果は絶大なんだ」


 睡魔は悪夢を見る時に生まれる事が多い。それゆえホラー映画やパニック映画は鬼門の一つではあるが、管理可能なストレスにはヒトにとってメリットがある事もわかっている。それらを観て精神的に安定する人々もいる以上、安易に規制するわけにもいかないということだった。


 隼人達が話している間、青柳と赤羽はモンスターの攻撃を必死にかいくぐっている。


「ちょっと冬弥さん!来てるんだったら手伝ってくださいよぉ!」


「そうですよ!かわいい後輩が死にかかってるんですよぉ!」


 あきれ顔の冬弥。


「それを言うのは僕達じゃなくてまずはオペレーターにだろう。僕はお前達だけでその睡魔を駆除できるだけの実力があると思っているんだがな」


 冬弥にさとされ、再び真剣な面持おももちで睡魔に立ち向かう青柳と赤羽。しかし、睡魔はお構いなしに二人への攻撃を激化させる。


「うわー!やっぱだめだぁ」


 睡魔の攻略方法を見出せず、攻撃を防ぐことに手いっぱいで、成す術なしの二人。


 冬弥は仕方ないといった表情で、ツクヨミからオペレーションをしている恵梨香えりかに話しかける。


「恵梨香。もう映画は観てるんだろ?この睡魔の弱点を教えてやってくれ」


「観ましたけど。こういうの、ネタバレしたら面白くなくなるじゃないですか」


「ほら!ずっとこの調子で教えてくれないんですよ!マジで死んじゃいますよ!」


 青柳と赤羽は涙目になっている。


「恵梨香、たのむ」


 冬弥に言われたらしょうがないといった感じで語り始めたモンスターの弱点は意外にも鏡だという。


 作中のモンスターは二匹の親子で、地球最後の生き残り。魔境ともいえる温帯の森林地帯の奥で人知れず生きており、温厚な性格で、外見は少し大きめの猫のようだが翼があり、部分的に鱗などもあるためキメラと呼ばれている。地上の他の生物とは一線を画す驚異的な身体能力を持っており、その地域のヌシであった。


 ある日、キメラの子供は、人間の強欲ごうよくさが発端となり親が連れ去られ、生き別れになってしまう。大切な親を探す過程で錯乱状態になり徐々に能力が暴走して巨大化。都市部に至り、建築物を破壊しつつ突き進むが、巨大なガラス張りのビルの前で静止する。混乱の中、ガラスに映った自分を親だと思いこみ沈静化。


 そのあとの物語の流れは、保護して森に還そうとする人間と、私利私欲のために捕獲したい人間の争いが続くといった内容だ。


 弱点が鏡とわかってからの青柳と赤羽の仕事は非常にスマートだった。


 モッドを薄く平らに伸ばし、二人のモッドを継ぎ目が見えないほどに繋ぎ合わせ、巨大な鏡を作り出して睡魔へと向ける。すると映画の通りにおとなしくなる睡魔。


 睡魔の状態を確認した二人はモッドを武器形状に変形。最後の仕上げにかかる。


 この二人の優れているところは普段のコミュニケーションの深さからくる親和性である。お互いを深く理解していないと無理な芸当をやってのける感があるという。


「モッドを連結してあんな使い方をするエージェントを僕は他に知らないし、やろうとしても付け焼刃では通用しないだろう。かなり高度といえる。もっとも、これを本人達に言うと調子に乗るだろうから触れないが」


 冬弥は、青柳と赤羽を高く評価しているようだ。


 睡魔を仕留めた青柳と赤羽は雄叫びを上げて喜んでいる。


「お前達。今回のような流行はやりに関する睡魔はかなり出やすい。力で睡魔を圧倒できないのであれば、もっと知識を身につけるようにしてくれ」


 喜びもつかの間、冬弥に戦い方を指摘されて肩を落とす二人だった。

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