第5話 この世界の基本についてご説明いたしますね

ダルクが2人の兵が立つ扉の前で止まる。


「こちらがお部屋でございます。何かあればこの近衛兵にお申し付けください。では、私はこれで。」

「ありがとう。助かります。」

ダルクは一礼し去っていった。


2人の近衛兵は緊張した面持ちで姿勢良く立っている。

(監視役を兼ねた警備か)

その間にある扉を開け中に歩を進める。


部屋の扉が音を立てて閉まると、ようやく静寂が戻った。

ニハルはその場にしばらく立ち尽くし、目を細めて室内を見渡す。


壁は分厚い石造り。しんと冷えた空気が漂っており、外の気温との差がわずかに感じられる。

四角い空間の中には木製の家具がいくつか置かれていた。大きな寝台と、手頃な机と椅子。

簡素ながら清潔に整えられており、滞在者のためにきちんと用意されたことが分かる。


(客人扱い、というわけか……監視下という前提で考えるにしても、かなり丁寧だ)


窓辺に近寄ると、外には中庭と、その先に城下町がみえ、さらにその先には山並みがぼんやりと霞んでいた。

空気は乾いており、木々の香りと石の匂いが混じっている。


部屋の隅には、棚にいくつかの書物と見慣れない器具が並んでいた。

丸い玉、金属製の輪、棒のようなもの。それらは何のためのものか見当もつかない。

形状からは武器とも違う。装飾とも思えない。


(やはり文字は見慣れない言語で書かれているな。これは何かの道具か……。だが用途がまったく分からない。精密な作りだが、機械でもなさそうだ)


彼は棚の近くまで足を運び、慎重に手を伸ばして一つの器具を持ち上げた。

重さ、質感、素材……どれをとっても、自分の世界の範疇には収まらない。


(……やはり、この世界は根本的に構造が違う。全く別の技術体系を歩んでいる。)


机の上には筆記具らしきものと紙の束。

インク壺もあったが、見慣れたものとは違い、注ぎ口が複雑な形状をしている。


ベッドの上に腰を下ろすと、わずかに軋む音がした。

だがその感触はしっかりしていて、疲れを癒やすには十分だった。


部屋の天井を見上げる。高く設計された天井には太い梁が渡されており、その一部には文様のようなものが彫り込まれていた。


(意匠か、識別のためか……それとも何かの仕掛けか?)

不明なことばかりだが、すでにニハルの頭の中に自分の脳の異常であるという説は無くなっていた。


(それにしても…勇者、か。似合わないな。)

自分に与えられた役割を思い返しフッと鼻で笑う。

(それに自分が魔王を倒せるとはやはりとても思えない。頭を使うことは得意だが戦闘能力は凡人の域をでない。しかしわざわざ召喚したということは特別な力でもあるのか?やたら期待されているしな…とてもそうとは思えないが…召喚の手違いの可能性もーー)


部屋の中を歩きながら少し考えていると、扉の外から控えめなノック音が聞こえる。


「ニハル様、少しお時間をいただけますか?」


声の主はセラフィーナだった。


ニハルは一度だけ深く息をつき、姿勢を正すと、静かに返答した。


「どうぞ」


入ってきたのは、白いローブ姿のセラフィーナと、落ち着いた佇まいのセルジュだった。


「より詳しく、現在の状況についてご説明いたします。」

「それは助かる」

そう言って椅子に座り2人にも腰掛けるように促す。

何より一番求めているものだった。発言に信憑性があるのかはわからないが、できるだけ情報は欲しい。


セルジュは軽く頭を下げると、椅子の背に手をかけ、セラフィーナも後に続き、二人とも向かいの椅子に腰かけた。

セラフィーナは膝に手を揃えたまま、まっすぐにニハルを見つめる。


「まず、”魔力”についてどこまで知っていますか?」

その単語は幾つかの不可解な疑問への答えを示していると感じた。

「…全く知らないな」


セラフィーナは少し目を見開く。

「…先ほどはご説明が行き届かず、申し訳ありませんでした。

 最初に基本的なことをご案内すべきでした……」


「まずは、この世界の基本についてご説明いたしますね」


そして語られたのは、ニハルにとってまったく未知の知識だった。

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