Chapter 15 首相官邸①

         マレビト部隊


ハタノは首相官邸にいた。

初代ハタノが戦前の時の首相に対面して以来の役割を乗っ取り、どの時代の首相とも会える立場になっていた。

死なないというだけで特に得るものもないこの種族に、施政者側は興味は失せていたが、時の首相は望まれれば会いはしていた。

北の海には流氷が流れつこうとしている季節に、ジャケットに黒いシャツの胸元を随分はだけて、深々とソフィアに座るハタノを首相は興味深い目で見る。


「あなたは戦中に、私の父に会ったのが最初なんですよね?」

「そうですね」


ハタノは平然と嘘を言う。

しかしハタノの物腰の柔らかさに、首相は、好意的な驚きを見せる。


「戦後はこうして、時の首相に会ってなかったようですが?」

「最後に政府の方と会ったのは関西の地震の時です。あの時5000人位亡くなったでしょう。一度に多くの死人が出ると、マレビトが現れる確率もあがります。死人が蘇ったなんて情報が飛び交っていて、それで依頼されて、レスキュー隊員として現場に出ました。その時は、実際には一人だけでしたけど」

「24年の東日本での地震の時はどうでしたか?あの時は、我々は政権から下野していましたから」


ハタノは少し考えて、質問に質問のような事を返した。


「どう?」

「また呼び出されたのかと言う事です、後、その時に、あなた方のお仲間は現れたのですか?」

「知りません。あの時は津波や、原発のメルトダウンで、それどころじゃなかったでしょう。ヒトの社会に余裕があるときは我々のようなものにも興味を示すが、そうでなければ、眼中にもないんですよ」


首相は、感心したように、なるほどと言った後、また質問を続けた。


「それで、今日はなぜ、私に会いに?」

「自衛隊にいるマレビト部隊を貸して下さい」


ハタノの言葉に首相は苦笑する。


「よくご存じで、陸自の別班の統制下にはあるんですが、政府に、彼らへの指揮権は無いんです。つまり、強制している訳じゃないんですよ」

「分かります」

「洗脳とかもしていません」

「分かります」

「自ら、志願してきたんです。自衛隊の訓練を受けたいと、それこそ死ぬ様な目にあっても問題はないからと、最初はひとり、それからまたひとり、またひとりと、その最初のマレビトが連れてきて、今は9人になります」

「よく集まりましたね」

「マレビトはマレビトを引き寄せる。最初の彼が言っていたんですよ」

「なるほど、それで、彼らを貸してもらえますか?」

「貸すというには、語弊があるのかもしれませんが、

もし、差し支えなければ、なぜ、貸して欲しいのか、お教え頂けますか?」

「マレビトはどこから来ると思いますか?」


首相は少しため息をついて、ソファに深々と座った。


「質問には端的に答えて欲しい。私は政治家だ、禅問答が出来るほどユーモアは無い」


露骨に嫌な顔をする首相に、ハタノは口角を下げて頭を下げる。


「申し訳ない、握手して下さい」


政治家としての癖か、首相は迷いなく右手を出す。ハタノはその右手の小指と薬指だけを掴んで、握りしめる。


眉間に皺を寄せたまま、首相は溜息を吐く。


「そんなことをして、何の意味が?」


ハタノは指を放さない。


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