第34話 勝利をその手に
34 勝利をその手に
「ささやかな、抵抗はそれで終わりかな?」
「………」
「いや、彼女もとんだ無駄死にだね。
僕に一矢報いる為だけに、命を懸けたんだから。
たったそれだけの自己満足を得る為に、彼女は死んだ。
これほど無価値な死も、他にないな」
それが、ただの挑発である事は分かっている。
けれど、焔龍は敢えてその挑発にのった。
「……俺は今まで、あんたとは何の因縁もないと思っていた。
でも、違った。
あんたが、笹崎文香を殺した時点で――パチャ・ドラゴロイドは俺にとって最低最悪の仇敵だ」
ゆっくり、振り返る。
その後は、ただ猛進した。
龍はパチャを攻撃して、その度に、巨大な足に踏みつぶされる。
本来なら能力を発動しようとした時点で、その術者の体は爆発するだろう。
それが創世十字拳だ。
けれど、パチャはその術さえ無効化して、ただ龍を追い詰めた。
「無駄だ。
君にはもう、絶望しか残されていない。
仮に君が僕に勝てたとしても、笹崎文香、いや、紅紅葉には未来は無いのだから」
そういう事だ。
仮に龍がパチャに勝てば、未来は変わるだろう。
だが文香は言っていた。
自分の転生は焔聖君が暴君であり続ける限り、続くと。
逆を言えば、聖君が暴君にならなければ彼女の転生は終わる。
彼女は二度と生き返る事なく、今度こそ本当に死ぬのだろう。
それが、龍につき付けられた現実。
焔龍はパチャ・ドラゴロイドに勝った途端、紅紅葉の命を完全に奪う。
「ああ、その通り、だ。
俺があんたに勝つと言うのは、そういう事。
文香を生かしたいなら、俺はあんたに勝つべきじゃない。
でも、違ったんだ。
彼奴は、今まで自分の為に生きてきた訳じゃない。
自分以外の誰かを幸せにする為に、銃を手に取り続けていたんだ。
そんな彼奴の遺志を無視して、俺はあんたに負けられる?
彼奴の努力の全てを無視して、あんたに負けろって言うのか?
違う。
それは、きっと、違う筈だ。
だから、俺は勝たなくてはならない。
焔龍は何があろうとパチャ・ドラゴロイドを倒して、未来を変える。
紅紅葉がユメ見た世界を――今こそ取り戻さなければならないんだ」
その為の猛攻は、けれど、龍のダメージを蓄積していくだけだ。
その渦中にありながら、焔龍は一つの答えに辿り着く。
「そうだ。
文香の言う通りだった。
人間は、弱い。
でも、その弱さと言う基盤があるから、人は強さと言う物を積み上げる事が出来る。
人は弱いから、強くなる事だって出来るんだ。
俺はその事を――文香に教えられた」
「だから、その強さを積み上げれば、僕にさえ勝てると?
それこそ、とんだ妄言だね」
それは、間違いのない事実だ。
だというのに、龍の拳は何故かパチャの体を捉え始める。
しかも、パチャからの反撃は、無い。
その異常を、けれどパチャは認識さえ出来なかった。
「……そう。
これが創世十字拳最終奥義――〝創世十字拳〟だ」
「な、にっ?」
まさか。
そんな業など存在しない。
少なくとも、龍の知識にはそんな業は無かった。
龍の知識を吸い上げてきたパチャは、少なくともそう確信している。
だが、実際に痛みさえ無い。
攻撃をされているという、認識さえ無い。
だというのに、龍の攻撃は徐々に加速していく。
何時しかそれは一万発に及ぶ拳の群れと化して――パチャ・ドラゴロイドの体を穿つ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお………ッッッ!」
「まさ、か――っ?」
パチャが、反撃しようとする。
その時、焔龍は謳った。
「十字拳の十字とは、四つの点で構成された文字。
そして、創世とは人の世を生みだすという意味に他ならない。
つまり創世十字拳とは人の世を生みだす為に、四つの種族を生贄にするという意味の拳法だ。
……けど、俺は今その事を心底から恥じる。
四つの種族を生贄にするしかなかった事を――心からあんた達に詫びよう」
「――つっ?」
両者は同時に巨大な拳を放ち――結果、龍の拳がパチャの体に打ち込まれる。
こんな事は、あり得ない。
これは、何かの間違いだ。
恐らく万人がそう思い、そう謳うだろう。
けれどただ一人――焔龍だけがその現実をつき付ける。
「ぐっ―――はぁっ?」
創世十字拳の次期継承者は――己が仇敵の体をこの時点で破壊したのだ。
◇
「……何故、だ?
何故、こんな――?」
致命的なダメージを負っているパチャが、呟く。
パチャと共に現実世界に帰って来た龍は、ただ事実だけを告げた。
「簡単な事だ。
文香は俺の耐久力とあんたの痛みに対する耐性は、大体同じ位だと思ったんだ。
いや、恐らく俺よりあんたの耐性の方が半歩上だろう。
だからあのまま戦っていたら、間違いなく焔龍の方が先に力尽きていた。
ソレを覆したのが、笹崎文香だ。
彼女は自分があんたに攻撃をする事で、その構図を一変させた。
半歩リードしていたあんたのアドバンテージを、ふいにしたんだ。
一撃攻撃を受けた分だけ、あんたは無駄に痛みに対する耐性を削られた。
その時点で俺とあんたの立場は逆転して、俺が半歩リードする事になったんだよ。
笹崎文香はそういった構図をつくり出す為だけに――命を懸けた」
「―――」
既に死にかけているパチャは、それでも立ったまま、彼の話を聴いている。
「つまり、俺が最後の猛攻をかけた時、既にあんたの耐性は限界だった。
痛みに負けたあんたは僅かに心を乱し、創世十字拳のつけ入る隙を生んだ。
ソレに加え俺の〝創世十字拳〟という嘘奥義を聴いて、更に気が引き付けられた。
なら俺はその間隙をつくだけだ。
あんたが他人の脳内の電気信号を乱した様に、俺もあんたの意識をかく乱させた。
〝痛みを受けていない〟と、〝攻撃を受けていない〟と錯覚させて、俺はあんたの体を破壊した。
それこそ、俺が勝てた理由。
笹崎文香はそこまで計算して――後の事は俺に託した」
「……まさ、か」
だが、パチャは龍の思考が読めていた筈。
だというのに、龍が自分の発想限界を超えたのは何故だ?
何で自分は途中から、龍の行動を見切れなくなった?
「それも、簡単な事だ。
俺は文香が死んだ時点で、微妙に思考が変化した。
文香の影響を受けて、あんたでさえ気づかない内に――俺は別人と化したんだ」
つまりはそう言う事で、皮肉な事に龍の勝利には文香の死が不可欠だったのだ。
彼女と言う犠牲がなければ、龍は文香が望む未来を手に入れられなかった。
その不甲斐なさを胸に刻みながら、彼は一人の王子を見送る。
「……そう、か。
人間はたった一つの死さえ、そこまで力に変える、か。
あの彼の死さえ普通に受け入れてしまった僕には、無い発想だ。
いや、誰かの死を、抵抗なく受け止める様になった時点で、僕の敗北は決定的だった―――」
これは恐らくそういう事なのだろうと思って、彼はサイゴに笑う。
地に伏す事なく、サイゴまで立ったまま彼は瞳を閉じる。
その気高い最期を看取りながら、龍はただ目を細める。
哀しくて、悔しくて、虚しくて、ただ顔をしかめた。
「ああ。
俺も結局、ただの人間だ。
人を殺し、人を犠牲にして、未来と言う物を勝ち取るしかなかったんだから。
それは人間の歴史そのもので、俺も何時の間にか彼等の業を背負っていた」
それだけ口にして――焔龍はただ天を仰いだのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます