第12話 3🔳デート

     12 3■デート


 やがて――運命の朝はやって来た。


 いや、そんな大げさな要素は全く無いのだが、これが俺の初デートなのは確かだ。

 しだれとはちょくちょく買い物には行っていたが、自他共に認めるデートは初である。


「と言う訳で、一寸出かけてくるわ。

 何か欲しい土産でもある?」

 

 テニス部の試合が近い美礼は、祝日でも学校に行っている。

 俺も出かけるので、家に残るのはお袋だけだ。


 俺としては気を利かせて、土産云々の話をしたのだが、母は苦笑しただけだ。


「いえ、マジで龍はド変態ね。

 まさか初体験が――3Pだなんて」


「――何の話っ? 

 お袋は一体、どんな誤解をしているのっ? 

 余りにも理解不能で、今にも殺しそうなんだけど――っ!」


 狼狽する俺に、お袋はクールに言い放つ。


「いえ、ちょっと小耳に挟んだのよ。

 何処かの誰かが、あろう事か二人の女子といっぺんにデートをするつもりだって。

 間違いなく私の息子では無いと思うのだけど、これって間違い? 

 実は、龍は本当に3Pが目当てで、しだれちゃんや笹崎さんとつき合っていた? 

 だとしたら私の目から見ても最低なんだけど、そういう事、本当に分かっている?」


「………」


 お袋は笑っているが、目が怖い。

 口調も普通だが、完全に責められている気がする。


 薄々勘付いてはいたが、やはりこのデートのあり方は男として最低なのか――?


「あ、いや、でもそれが文香の要望なんだよ。

 しだれもついて来ないと嫌だって、きかないんだ。

 ……それでも罪深いのは、俺の方なんでしょうか?」


「………」


 思わず、下手に出てしまう。

 お袋は一瞬だけ怖い目で俺を見た後、今度は鼻で笑う。


「いえ、私にしては過保護過ぎたわ。

 龍の人生なのだから、龍の好きになさい。

 ただ――可能な限り人様に迷惑はかけないようにね。

 特にしだれちゃんと〝文香〟には気を使う様に。

 でもアンタ――私なら今頃背中から刺しているわよ」


「――刺しているって、なにでっ? 

 俺、母親に何かで刺される様な非道を、犯してしまったのっ? 

 だとしたら土下座位する用意はあるけど――そこん所はどうなのさっ?」


 しかし、お袋は答えない。


 お袋に完全に突き放された俺は――ただ美礼がこの場に居ない幸運に感謝した。


     ◇


 そして――デートである。

 

 人生――初デート。

 

 それでも相手は異常者なので、特に緊張する事も無い。

 選んだ服も適当で、しだれと買い物に行く時の服と大差無い。


 と、約束の十五分前に待ち合わせの場所で待っていると、まずしだれがやって来た。


「――よ、龍。

 相変わらず、ダサい私服姿だな。

 そういう所、本当に聖君さん譲りだよ」


「………」


 何時もの様に悪態をつく、しだれ。

 が、そのしだれは、妙に可愛い服装だった。


 プリーツのミニスカートに黒ニーソという時点で、ギャルゲーのヒロインじみている。


 私服には疎い俺でも、これは可愛いと認識できる服装だ。


「……って、しだれ、何か何時もより気合入ってない? 

 ソレは一体、どういう心境の変化?」


「は? 

 心境の変化って、何だよ? 

 私は、何時も可愛いよ。

 普段の龍の女子を見る目が、ただ腐っているだけじゃない?」


「………」


 真顔でそう言われてしまっては、返す言葉も無い。

 どうやら俺のしだれを見る目の方が間違っていたのだと、俺は自己修正する。


「で、文香はまだ来てない訳? 

 おかしいな。

 噂によれば、文香は約束の時間の一時間前には来ているって事なのに」


「――一時間前っ? 

 一時間前行動っ? 

 どんなレベルの優等生だよ、あいつっ? 

 それってもう、礼儀とかそういう次元の気遣いじゃないよねっ?」


 珍しく俺がしだれにツッコムと、しだれはケラケラと笑う。


「いや、基本、龍って真面目な事は真面目なんだよな。

 こんなバカみたいな冗句を、鵜呑みにするんだから」


「………」


「後、下ネタとかも受けつけないし。

 龍のそういう辺りは、私も信用しているんだぜ」


「……はぁ。

 それは、どうも」


 母親にさえダメ出しされた俺を、何故かしだれは持ち上げてくれる。

 いや、これを褒め言葉ととっていいのかは謎だが、しだれの機嫌は悪くない様だ。


 あの母とは、えらい違いである。

 しだれはある意味、この件の被害者なのに。


 で、俺としだれが何だかんだと雑談していると、漸く笹崎文香もやってくる。


 彼女の私服姿を見て――俺は思わず感嘆しそうになった。


「やっほー。

 龍君にしだれちゃん。

 元気しているー?」


 それは、制服に比べればフトモモの露出がまるでない、白のワンピースだ。

 けれど、文香にロングスカートは良く似合っていた。


 あと少し物々しい要素をつけ足せば、簡素なウエディングドレスに見える程に。


 白で統一された彼女の私服姿を見て、俺は思わず息を呑む。


「えへへ。

 一寸、ウエディングドレスを意識してみました。

 私的にはいい感じだと思うんだけど、どうかな?」


「………」


 俺としだれは顔を見合わせた後、同時に口を開く。


「何と言うか――愛が重い」


「うん」


「――まさかの大不評っ! 

 これでも四時間かけて、コーディネートしたのに――っ!」


 いや、そういう所が重すぎるのだが、俺は吐き捨てる様に告げていた。


「ああ。

 二人とも、よく似合っている。

 んじゃ、さっさと行くぞ」


「………」


 もしかしたら、こういう気遣いが逆にお袋の不評を買っているのかもしれない。

 ソレに加え俺は自分の発言の責任を放棄する様に、しだれ達の顔を見ないで後ろを向く。


 さっさと一人で先行して――俺はそのまま件の遊園地に向かった。


     ◇


 電車を二回乗り換え――俺達は目的の遊園地に着く。


 今は丁度十時で、遊園地が開園する時間だ。

 電車内で女子同士の話題で盛り上がっていた文香達は、意気揚々と遊園地に足を踏み入れた。


「一番乗り――とはいかなかったけどベストなタイミングだね。

 これなら今日は一日、遊園地で楽しめそうだよー」


 嬉々としながら、文香は前進する。

 そんな彼女は今になって、とんでもない事を言い始めた。


「因みにこの遊園地――私達の学校のカップルもよく利用するんだって。

 もしかしたらその中の誰かとばったり会って――私達明日から学校中の噂になるかも」


「……は?」


 遊園地のチケットを買って、その敷地に入ったタイミングで普通そういう事を言うか? 

 まさか文香は初めから外堀を埋める為に、この遊園地に行く事を提案した? 


 俺との関係を周囲に認めさせる為に、既成事実を作る気か――?

 

 そう悟って、俺は思わずしだれの方に目を向ける。

 彼女は、全力で手を横に振った。


「――いや、いや、いや! 

 私もそんな事は、知らなかったって! 

 知っていたら、異議位は唱えていた!」


「だねー。

 しだれちゃんもこれが人生初デートだから、そういう情報は知らなかった筈。

 そういう意味では、私の方が一枚上手だったのだ!」


「………」


 どうでもいいけど、偶に子供っぽくなるよな、文香って。

 いや。

 後に彼女の境遇を知って、それも仕方がないと思う俺だが、今はただ無邪気にしか見えない。


「じゃあ、取り敢えずジャンケンをして、行き先を決めようか? 

 一番に勝った人の要望を、優先するという事にしよう」


 優等生らしく、この場を仕切り始める、文香。

 特に異論がない俺としだれは、文香の提案通りジャンケンをする。


 結果、見事に勝利を収めたのはしだれだった。


「なら、ジェットコースターという事で」


 常に刺激を欲している、しだれらしいチョイスだ。

 いや。

 それも偏見かもしれないが、とにかく俺達はジェットコースターの乗り場に向かう。


 平和なんだか波乱含みなんだかよく分からない俺達一日は――こうして始まった。

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