第7話 あの悲劇
7 あの悲劇
きゃっほー!
という訳で、漸く修行の時間だぜ――!
思わずキャラ変する程、俺のテンションは上がる。
常に修行状態の俺だが、他人に創世十字拳を披露する場があると言うのは素直に嬉しい。
俺は隠れた性癖を持つ変質者の様な心持で――その時を迎えた。
「……と、成る程。
確かに道着は似合うわね、文香は」
「いえ、いえ。
しだれちゃん程じゃないよー」
袴姿となった二人が、道場の更衣室から出てくる。
袴が創世十字拳の道着で、俺もソレは同じだ。
袴に着替えた俺は、いよいよ創世十字拳の師範代としての立場を全うする。
「という訳で、早速稽古に移ります。
その前に何か質問があれば、どうぞ」
俺がそう促すと、笹崎は速やかに口を開く。
「えっと、一応確認しておきたいんだけど、焔君が教えてくれるのは昨日の業なんだよね?
あの例の人達を何もせずに倒した業を、焔君は私に教えてくれると解釈していい?」
「……えっ?
――一寸待ってっ?」
俺が答える前に、しだれが動揺の声を上げる。
結果的にソレを無視して、俺は話を進めた。
「あー、アレは難易度が高い――〝裏の業〟なんだよね。
一般人には難易度が低い〝表の業〟を教えるつもりなんだけど、笹崎はそれでは不満?」
俺が問い返すと、笹崎も質問を質問で返す。
「というか、しだれちゃんはどっちを習っているの?
表?
それとも裏?」
「あー、しだれは〝裏〟だな」
「そっかー。
なら――私も裏という事で!」
当然の様に難易度が高い方を選ぶ、笹崎。
それは明らかに、しだれに対抗している様な答えだと思えた。
実に勉強熱心だと感心していると、いい加減ガマンの限界だとばかりにしだれが割って入る。
「――アホか!
あんな超常現象、一般人に教えようとするな!
あんなもん、焔の一族以外理解不能だわ!
いや、それ以上に人様の娘さんを傷物にする気か、龍は――っ?」
吼える、吼える、吼える。
今日も暁しだれの絶叫が、俺の鼓膜に響き渡る。
他ならぬしだれにそう言われては俺も一考するしかないのだが、笹崎は即答した。
「え?
でも、しだれちゃんも一般人だけど裏の業とやらを習っているんでしょう?
なら、私だって負けていられないよー。
私の目的はまずしだれちゃんを追い越す事なんだから、何が何でも裏の業を教わらないと」
「………」
キリっとした目になりながらも、やはり笑顔を絶やさない、笹崎。
ソレを見て、どうもしだれは説得を諦めたらしい。
彼女は、別の方向から切り込む事にした様だ。
「分かった。
なら、一度、此奴に何をされるか体験してみて。
そのあと絶対後悔して、前言を翻す筈だから、私としてはその方が手っ取り早い」
成る程、そうきたか。
ライバル視されている自分がどんなに説得しても、無駄。
それなら創世十字拳の修練を実体験させた方が、説得力がある。
しだれは頭をそう切り替え、俺にそれを実行する様に促す。
俺としても〝裏の業〟を誰かに伝授してみたかったので、これは渡りに船と言えた。
「分かった。
それなら、試してみよう」
俺は特に何も考えずに、しだれの提案を快諾する。
その後、しだれの方が後悔する事になるのだが、現時点では誰もその事には気付かない。
そして――悲劇の幕は上がる。
◇
「そんじゃ、笹崎はまず其処に立ってもらえるかな?」
「はい。
立てばいいんですね、師範代」
と、笹崎に指示を出す俺に、しだれが小声で話しかけてくる。
「つーか、分かっていると思うけど、本当に手加減しろよ?
間違っても、昨日の二の舞になる様な真似はするな。
……今度は本当に、洒落にならないぞ」
「分かっている、分かっている。
俺も一応、創世十字拳の師範代だからな。
その程度の分別は、ついているよ」
その分別がついている筈の男が、昨日五人もの人間を殺しかけたのが、それは別の話。
俺は先ず笹崎に、創世十字拳について軽く説明する。
「簡単に言うと――創世十字拳の肝は操気術にあります」
「……はぁ」
「操気術というのは、文字通り、気を操る技術の事をさします。
気と聴くと、如何にもオカルト的な物だと感じるでしょう。
ですが、これは生物なら誰しも持っている常識的な力と言えます。
何故なら気とは――人間が臓器や手足を動かす為のエネルギーなのだから」
「……はぁ」
「そう。
車やバイクがガソリンというエネルギーで動く様に、人間も気によって活動している。
人は気が無ければ、臓器も動かせないし、手足も動かせない。
なら、気とは極めて真っ当な力だと捉えて構わないでしょう」
「……はぁ」
「即ち、創世十字拳とは人間なら誰しも使える可能性があるごくありふれた殺人拳なのです」
「……はぁ」
〝いや、殺人拳をありふれたとか言うなよ〟と言わんばかりの表情で、しだれは俺を見る。
「つまり、創世十字拳とは――その気を自在にコントロールする業という事。
〝裏の業〟を学ぶという事は――その生命エネルギーを体外に放出するという事なのです」
「……はぁ」
「ですが、これは並々ならない修練が不可欠と言えるでしょう。
通常体内にしかない気を体外に放出するというのは、大変な操作術がいるからです。
細胞と細胞の間から気を放出し、それを自身の周りに繋ぎ止め、自在にコントロールする。
仮にこの段階まで進めば、逆の事も可能になる訳です」
「……はぁ」
「要するに、自身の気を敵の体内に浸透させる事も可能な訳です。
俺が昨日あの連中に何をしたかと言えば、そういう事です。
俺は己の気を、あの連中の体内に浸透させ、気で彼等の臓器を握り、ソレを潰した。
結果、俺は彼等に触れる事なく、彼等を半殺しにしたというのが事の真相ですね」
「……はぁ」
「そこで、話は戻ります。
創世十字拳とは即ち――操気術を極める事。
それを果たす事により――無敵の業と化すのが創世十字拳です。
現に――俺は未だに創世十字拳の正当継承者である親父以上の存在を知りません」
「……はぁ」
「問題は、本当に常人に気の操作が出来るかという事。
いえ、こればかりは個人差があるとしか言い様がないでしょう。
運動神経の良し悪しは、結局生まれついた素質による所が大きいですから。
創世十字拳も、やはり素質によって習得度に差が出るのも自然な事と言えます」
「……はぁ」
「でも安心して下さい。
気を食らい続ければ、食らった人間は防衛本能が働き、気の操作を触発される事になるから。
気に触れる続ける事が、気を目覚めさせる一番の早道なのです」
「……はぁ」
「――な?
訳が分からないだろ?」
俺が話を締めくくると、しだれはそう結論する。
確かに笹崎の生返事を聴く限りでは、余り理解している様に見えない。
何か、宗教の勧誘を聞き流す人みたいな感じだったし。
それでも笹崎は、気持ちを切り替える様に、キリッとした表情になる。
「えっと、一応言っている事は分かった。
要するに、私の気を起こすつもりなら、焔君の気に触れ続ける必要があるって事ね?
というか、私、実は合気道の有段者なんだよー。
なので、昨日の人が相手でも、一対一なら何とかなったと思う。
と言う訳で遠慮なくかかってきてよ、師範代」
「………」
俺としては意外な自信を見せる、笹崎。
いえ、いえ、分かっていますよ。
笹崎は遠慮するなと言っているが、ここで俺が本当にそうしたらどうなるか位は。
恐らく笹崎は吹き飛び、この世界から細胞の一片さえ残らず、消滅するだろう。
そんなお約束じみた真似を俺がする訳がなく、焔龍は本当に軽く気を放つ事にする。
笹崎をこけさせようと思って放たれた俺の気が、普通に笹崎に衝突する。
「アヘ――っ?」
結果、笹崎文香は後方に弾き飛ばされ、床をゴロゴロ転がる。
開けてあった道場の扉から出て、ウチの門柱に背中を激しく強打する。
彼女はマジで、〝ゴヘェ!〟と血反吐を吐いた。
「………」
「………」
いや。
未だ嘗て〝アヘ――っ?〟なる悲鳴を上げたヒロインが居ただろうか?
俺は思わずそう感じながら――首を傾げたのだ。
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