第4話 翠は考える


 この世界のわたしは才能に恵まれている。

 月下の笑顔に魔狩りというゲームには、複数の小さなマス目で区切られた一枚マップの上を敵と味方で分かれたキャラクタ―ユニットが入り乱れて戦う、ターン制のシミュレーションRPGパートが用意されていた。


 プレイヤー側が使用できるユニットは、無印の時点では主人公を除くと退魔師だけとなっている。

 その代わり退魔師ユニットは近接型と遠距離型で区分されていた。


 また作中の設定では、退魔術を使用できる退魔師はひときわ才能のある者たちと明言されている。

 逆に言えば、退魔術を使用できない者は才能があまりないということだ。

 近接ユニットなんかは才能なしの烙印らくいんを押されていた。


 この世界でのわたしは、退魔術を扱える退魔師であり、なおかつまだ五歳児にもかかわらずすでに上級退魔術のうちの一つを身につけている。

 これがどれくらい凄いことなのかというと、退魔術において上級が一番上のランクなのだといえばわかりやすいだろう。


 さらに感情的には素直に喜べないものの、わたしはゲーム内でいう固有能力のようなものを所持している疑惑が浮上していた。

 潜在能力、才能、そういった文字でも言い表せられる、一部のキャラクターだけに設定されている特殊な能力――例えば、原作主人公でいえば『魔物』である。

 『魔物』は現実風にいえばめちゃくちゃ身体能力がパワーアップしたりする感じの力を秘めている。


 ともかく五歳にしてわたしは優秀すぎた。


 作中には翠なんて名前の少女も、ましてや風柳なんて名字のキャラクターも登場してはいなかった。

 ゲーム内にかけらも登場していないモブキャラクターにすぎないわたしに、これほどの才能が備わっていることは神様の導きか、運命のいたずらか、そのどちらかというものだろう。


 なにはともあれ世界がわたしにハッピーエンドを目指せとそう言っているような気がした。

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