第5話 ダーヤライル二番町
変な夢をみたあと俺は事務所を出て町中を導かれるように歩いた。
ここはダーヤライル王都だ。
王都の構造は丘の上に王城が聳え建ち、その丘の周りをぐるりと巨大な水堀が囲んでいる。
水堀の外側には貴族街と兵舎、王都役所、国会議事堂などの重要施設が並ぶ、らしい。
貴族街は水堀の東側に広がっており、さらにそれよりも東へ進んでいけば一番町がみえてくる。
城の背面側にあたる西方向には兵舎などがあり、そのさらにむこうには二番町があった。
ドヤンベ冒険者事務所の住所は二番町だ。
そしてダーヤライル冒険者協会の支部も二番町にはいくつか点在している。
俺はアシルさんから教えてもらっていた情報を脳内でフル回転させながら、レンガの建造物の多い見知らぬ町のなかを移動する。
「冒険者登録に必要な手続きはすでに完了しています」
みるからに年季の入った冒険者協会支部の大きな建物。
その受付窓口で俺は説明を受けていた。
「はあ……?」
受付嬢は微笑んだ。
「アシル・ドヤンベから、マサカゲ・ドヤンベへとドヤンベ冒険者事務所は引き継がれました。今後のドヤンベ冒険者事務所の更なる活躍をお祈りいたします」
さほど時間もかからずに解放された。
冒険者免許と冒険者バッジを手に入れた。
これで俺も冒険者になったということらしかった。
午後三時半の太陽が青空と雲の間に覗いている。
そう太陽だ。
目を向けると眩しいし、暖かい感じがするし。
俺にとっては空に浮かぶあれの呼び名は太陽でいい。
日本人からしてみれば太陽が二つ浮かんでいる気分だ。
広場にある噴水前のベンチに俺は腰かけた。
「にしても、気がつけば冒険者協会に足を運んでしまってたな……? きっとアシルさんが親切すぎたせいだ」
腹が鳴った。
「腹減ったな。そういえば昨日からなにも食べてない」
露店があった。
串焼き肉だ。
買い物をしていく客の姿をみつめる。
その客が立ち去ったあと、露店へ向かう。
「二本ください」
「はいよ」
さっきの客は一本に対してこの硬貨を出していた。
それなら、この硬貨を二枚用意すれば問題なく購入できるはずだ。
「まいどー」
俺は再びベンチへ足を向ける。
がその途中飲み物を販売している露店をみつけた。
「その緑色の飲み物を一つもらえますか?」
「はいはーい」
適当に財布から一枚のお札を取り出す。
「お釣りどうぞー」
百ダルヘイルや千ダルヘイル……まあよくはわからないが百円だとか千円だとかそんなノリで考えればよさそうだ。
アシルさんも太陽だとか月だとかについて教えてくれるなら、お金のことをもっと詳しく教えてくれればよかったのに。
とはいえ彼もまた己に残された時間がなかったゆえに焦っていたのだろう。
「……暇だ」
暇なわけがない。
購入したばかりの串焼き肉を俺はこれから食さなければならない。
「うめえ」
俺は串焼き肉を咀嚼し飲み込んだ。
緑色の液体の入ったコップを口内に流し込む。
「これはおいしくない」
俺は立ち上がった。
ドヤンベ冒険者事務所まで帰ろう。
道は覚えてる。
馬車とすれ違う。
そう、馬車だ。
現在日本で生活していたころはみかけたこともなかった。
さらに、この国では普通に列車が行き交っているらしい。
五十年ほど前に登場した人造魔石によって急激に発展し、ここ最近だと飛行船が飛ぶようになっただとか。
高級そうな馬車が通っていく。
家紋のようなものがみえた。
たぶん貴族だろう。
アシルさんから受けた説明ではこの国の貴族たちは皆、魔法使いらしい。
人盛りができていた。
「世界は魔王によって未曽有の危機に晒されている! 人類の未来を救うために魔王の軍勢と今このときも、戦い続けている勇者様たちに皆の声を届けるんだ! 空へむかって応援の気持ちを叫ぼう!」
「勇者様頑張れー!」
「勇者様ー!」
「勇者様頑張れー!」
俺はそそくさと横切っていく。
昨日実際に顔を合わせたわけでもない魔人から受けた殺意を思い出し、体を震わせる。
「遠く離れた場所から、無差別にあんな真似ができるやつが魔王の配下……。戦うとか絶対に無理だ」
とにかく事務所に帰るために歩くのだった。
空に浮かぶ太陽らしきものは、いつの間にか一つになっていた。
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