第20話 変わる風と響く歌

事務所の窓から、春の陽光が差し込んでいた。


「彩花…これ…ほんとに…私たちのせい…?」


美咲がソファの端で膝を抱え、震える声で囁く。


テーブルの上には、週刊誌の山――「スターリット現象、全国へ!」の見出しが並ぶ。


「うん、美咲…でも…悪いことじゃない、よね?」


彩花は雑誌を手に、微笑むが、彼女の目は戸惑いで揺れる。


「でも…中高生が…お漏らしを…って…」


玲奈がスマホを握りしめ、目を伏せる。


「玲奈、びっくりだけど…応援も増えてるよ。」


結衣が玲奈の肩に手を置き、優しく言う。


「…マスコミ、今回は味方? 信じられない。」


真央が腕を組み、雑誌を睨む。


年越し歌番組の大トリ以来、スターリットは新たな旋風を巻き起こしていた。


「光の彼方」がヒットチャートを席巻し、ファンクラブは倍増。


だが、週刊誌が報じたのは、意外な社会現象だった。


「スターリットの影響? 全国の中高生女子、お漏らしが『モテる』トレンドに!」


記事には、学校でスカートを濡らす女子や、Xで「#お漏らしチャレンジ」を投稿する声。


「恥ずかしくない! スターリットみたいに自分らしく!」


若者の声が、5人の心を揺さぶる。


「彩花…Xで…『スターリット、ありがとう』って…」


美咲がスマホを覗き、小さく微笑む。


「うん、ファンの声…なんか…温かいね。」


彩花が頷くが、声に複雑な響き。


「でも…『モテる』って…変な感じ…」


玲奈が画面をスクロールし、眉をひそめる。


「確かに。でも…彼女たち、笑顔だよ。」


結衣が玲奈のスマホを覗き、微笑む。


「…恥が、力に? 皮肉だな。」


真央が静かに言い、窓の外を見つめる。


マネージャーの田中が書類を手に、駆け込んできた。


「みんな! 新しいオファーだ! 『スッキリ!』のスペシャル生放送!」


彼の声に、5人が一斉に顔を上げる。


「トークと新曲披露! 全国のファンに向けてだ!」


田中が興奮気味に言う。


「田中さん…でも…また…?」


美咲が小さな声で囁き、彩花の手を握る。


「美咲、わかるけど…チャンスだよ。歌で届けるんだ。」


彩花が美咲の肩を撫で、微笑む。


「彩花…あの番組…視聴率すごいよね…」


玲奈が震える声で言う。


「うん、だから…しっかり準備しよう。」


結衣が玲奈に頷き、拳を握る。


「…カメラ、増えるな。覚悟しろ。」


真央が低く呟き、書類を覗く。


放送当日、スタジオの控室は緊張に満ちていた。


「彩花…大丈夫…? 私…ドキドキ…」


美咲が白い衣装の裾を握り、目を潤ませる。


「うん、美咲。一緒に…笑顔でいこう。」


彩花が美咲の手を握り、深呼吸する。


「でも…この間の歌番組…まだ…」


玲奈がピンクのスカートを整え、目を伏せる。


「玲奈、わかる。でも…ファンが待ってるよ。」


結衣が緑の衣装で玲奈の肩を叩き、微笑む。


「…全国放送。トラウマ、試されるな。」


真央が黒のドレスで腕を組み、鏡を睨む。


スタジオの照明が点灯し、5人がステージに呼ばれた。


「スターリット、登場!」


司会の声に、観客が拍手と歓声を上げる。


「彩花ちゃん! 美咲ちゃん! 大好き!」


ファンの叫びが、5人の胸を温める。


「ありがとう! みんな、楽しんでね!」


彩花がマイクで叫び、笑顔で手を振る。


トークは新曲の裏話やファンへの感謝で盛り上がる。


「美咲、最近のハマりは?」


司会の質問に、美咲が少し緊張しながら答える。


「えっと…お菓子作り…かな…?」


「へえ! 彩花ちゃんにケーキ焼いた?」


観客の笑い声が響く。


だが、トークの終盤、異変が起きた。


突然、スタジオのスピーカーから甲高い音――バン!


セットの落下を思わせる衝撃音が会場を揺らす。


「!?」


5人の笑顔が凍りつく。


(銃声…!? あの夜…!)


彩花の脳裏に、テロ事件の恐怖が蘇る。


観客がざわめき、司会が慌てて笑顔を作る。


「はは、音響ミスかな? 気にしないで!」


だが、5人の目は恐怖で揺れる。


「彩花…! 何!?」


美咲が悲鳴を上げ、彩花の腕にしがみつく。


「美咲…! 落ち着いて…!」


結衣が美咲の手を握るが、彼女の声も震える。


「…やだ…! また…!」


玲奈がマイクを握りしめ、ステージに縮こまる。


「…くそ…! わざと…!?」


真央が歯を食いしばり、音響ブースを睨む。


彩花の心臓が締め付けられた。


(カメラ…! 全国に…!)


照明が目を焼き、観客の視線が刺さる。


写真集、歌番組の映像が頭をよぎる。


彼女の体が硬直し、冷や汗が全身を濡らす。


突然、下腹部に熱い波が押し寄せる。


(や…! ダメ…!)


彩花は必死に力を入れるが、恐怖が理性を飲み込む。


じゅっと音を立て、彩花の白い衣装に染みが広がる。


水たまりがステージに光り、照明が反射する。


「う…っ…!」


彩花は肩を震わせ、マイクを握り直す。


(でも…歌う…!)


涙が滲むが、笑顔を保つ。


玲奈も凍りついていた。


(ライト…! あのフラッシュ…!)


熱が溢れ、じわりとピンクのスカートに染みが滲む。


「や…! ごめん…!」


玲奈は目を閉じ、声を絞り出す。


美咲は彩花の腕にしがみついた。


(怖い…! また…!)


じゅわっと音を立て、青い衣装に濡れ跡が広がる。


「う…! やだ…!」


美咲は泣き声を漏らし、笑顔を作る。


結衣の体も震えた。


(耐えなきゃ…!)


じゅっと緑の衣装に染みが広がる。


「く…っ…!」


結衣は唇を噛み、ステップを踏む。


真央は拳を握った。


(負けるな…!)


じわりと黒の衣装に染みが滲む。


「…っ…!」


真央は歯を食いしばり、歌に備える。


司会がフォローし、新曲のイントロが流れる。


「光の彼方…どんな闇も…!」


5人の声が重なり、濡れた衣装が輝く。


観客が拍手に変わり、ペンライトが揺れる。


「スターリット! スターリット!」


ファンの声が、5人を包む。


曲が終わり、彩花がマイクを握った。


「みんな…ありがとう! 私たち…これからも歌うよ!」


涙が頬を伝うが、笑顔は強い。


控室に戻り、5人はソファに座った。


「彩花…また…映っちゃった…」


美咲が顔を埋め、泣き声を漏らす。


「美咲…でも…歌えたよ。ファンが…」


彩花が美咲の手を握り、微笑む。


「彩花…X、すごいよ…『カッコいい』って…」


玲奈がスマホを手に、目を潤ませる。


「『お漏らし、恥ずかしくない!』…こんな…」


結衣が画面を覗き、笑顔を見せる。


「…時代、変わったな。」


真央が静かに言い、スマホを置く。


週刊誌「リアルタイム」が即座に動いた。


「スターリット、社会を変える! お漏らしが女子の新トレンドに!」


濡れた衣装の写真と、笑顔で歌う5人が並ぶ。


「テロの傷を力に! 中高生が『自分らしく』を叫ぶ!」


記事は肯定的で、現象を称賛。


ワイドショーも追随。


「スターリット、女子の意識を変えた? お漏らしは恥じゃない!」


画面に5人の歌、濡れた衣装が映る。


「彼女たちの勇気…若い子に響いてます。」


コメンテーターの声に、温かさが滲む。


Xには、ファンの声が溢れていた。


「スターリット、最高! 彩花ちゃん、美咲ちゃん、ありがとう!」


「お漏らし、恥ずかしくない! 自分らしく生きるよ!」


「玲奈ちゃん、結衣ちゃん、真央ちゃん、歌で変えてくれて感謝!」


一部の声が複雑だ。


「お漏らしトレンド、びっくり…でも、スターリット応援!」


「モテるって…笑 でも、歌に感動!」


5人の胸に、新しい感情が芽生える。


事務所で、田中が笑顔で入ってきた。


「みんな! 新曲、チャート1位! ツアーの話も!」


彼の声に、5人が顔を上げる。


「田中さん…ほんと…?」


美咲が目を潤ませ、彩花の手を握る。


「うん、みんなの歌…世界に届くよ。」


田中が頷き、書類を見せる。


「彩花…でも…まだ…恥ずかしい…」


玲奈が震える声で囁き、目を伏せる。


「玲奈…でも…私たち、変えたよね?」


彩花が玲奈の手を握り、微笑む。


「うん…結衣…もっと歌いたい!」


結衣が拳を握り、笑顔を見せる。


「…次は、もっと大きく。」


真央が静かに言い、窓の外を見つめる。


春の風が、事務所を抜けた。


羞恥は色を変え、歌は未来を切り開く。


スターリットは、新たな時代を歩む。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る