第18話 光と影のステージ

事務所の会議室は、朝の柔らかな光に包まれていた。


「彩花…ほんとに…これで少し…楽になる…?」


美咲がソファの端で膝を抱え、震える声で囁く。


テーブルの上には、弁護士からの書類が広げられている。


「うん、美咲。少しずつ…前に進めるよ。」


彩花は書類に目をやり、微笑むが、彼女の声には疲れが滲む。


「でも…あの写真集…まだ…」


玲奈がスマホを握りしめ、目を伏せる。


「玲奈、わかるけど…いいニュースもあるんだから。」


結衣が玲奈の肩を撫で、優しく言う。


「…マスコミ、諦めないよ。次は何だ?」


真央が腕を組み、窓の外を睨む。


マネージャーの田中が書類を手に、力強く語った。


「みんな、聞いて! 写真集の出版差し止め命令、正式に下りた!」


彼の声に、5人が一斉に顔を上げる。


「販売済みの回収は…難しいけど、新たな印刷はストップだ。」


田中が書類を掲げ、微笑む。


「田中さん…! ほんと…?」


美咲が目を潤ませ、彩花の手を握る。


「うん、弁護士の努力のおかげだ。時間はかかったけど…一歩だよ。」


田中が頷き、5人を見渡す。


「彩花…これで…少しは…?」


玲奈が震える声で囁き、彩花に目をやる。


「うん、玲奈。少し…心が軽いよね。」


彩花が微笑み、仲間を見渡す。


だが、喜びは長く続かなかった。


「でも…コンビニに…まだ並んでるんだよね…」


結衣が静かに言い、スマホを手に取る。


Xの投稿には、写真集の画像がちらほら。


「『スターリット、かわいそう』って…でも…『見たよ』ってのも…」


結衣がスクロールし、顔を曇らせる。


「全国に…私の…あの姿…」


美咲が膝を抱え、涙をこぼす。


「美咲…! ダメだよ…! 私たち…」


彩花が美咲の手を握り、声を絞り出す。


「…晒されたまま、だ。消えない。」


真央が低く呟き、拳を握る。


その夜、事務所に新たな知らせが届いた。


「みんな! 緊急だ! 日本音楽大賞、新人賞にノミネート!」


田中が興奮気味に叫び、書類を振る。


「!? うそ…! ほんと!?」


美咲がソファから立ち上がり、目を丸くする。


「本当だよ! 『星の絆』が評価されてる!」


田中が笑顔で言う。


「彩花…! 私たち…!」


玲奈が彩花の手を握り、目を潤ませる。


「うん、玲奈! ファンのおかげ…!」


彩花が微笑み、仲間を見渡す。


「…やったね。証明できるよ。」


結衣が拳を握り、笑顔を見せる。


「…次は、勝つ。」


真央が静かに言い、頷く。


数週間後、授賞式直前のライブ会場。


「スターリット! スターリット!」


ペンライトの海が、5人を迎える。


「彩花…こんな…すごい…!」


美咲がマイクを握り、目を潤ませる。


「うん、美咲。ファンの声…届いてるよ!」


彩花が笑顔で言うが、心には重い影。


「玲奈、準備いい?」


結衣が玲奈に微笑み、ステップを確認。


「うん…結衣…絶対、最高にする…!」


玲奈が頷き、ファンに手を振る。


「…歌で、全部返すよ。」


真央が静かに言い、マイクを握る。


新曲「光の彼方」が流れ始める。


「どんな闇も…超えてゆく…!」


5人の声が重なり、会場を包む。


ダンスは息ピッタリ、笑顔は輝く。


「彩花ちゃん! 最高!」


「美咲ちゃん! 笑顔、好き!」


ファンの声が、5人を高揚させる。


だが、クライマックスで――


スピーカーから、突然のノイズ。


キーン!


金属を叩くような音が会場を切り裂く。


「!?」


5人の動きが一瞬止まる。


(また…! あの音…!)


彩花の心に、テロ事件の銃声が蘇る。


「彩花…! やだ…!」


美咲が悲鳴を上げ、マイクを握りしめる。


「美咲! しっかり…!」


結衣が美咲の腕を掴むが、彼女の目も揺れる。


「…っ…! 何!?」


玲奈が震える声で囁き、彩花にしがみつく。


「…くそ…! また…!」


真央が歯を食いしばり、スピーカーを睨む。


ファンがざわめく。


「え、なに!? 大丈夫!?」


「スターリット、頑張って!」


彩花の体が硬直した。


(ファンの前で…! ダメ…!)


照明が目を焼き、ペンライトが揺れる。


写真集のページ、テレビの映像が頭をよぎる。


熱い波が押し寄せ、抑えきれぬ感覚が足元を濡らす。


じゅっと音を立て、彩花の白い衣装に染みが広がる。


水たまりがステージに光り、照明が反射する。


「う…っ…!」


彩花は顔を覆い、肩を震わせる。


(なんで…今…!)


涙が滲む。


玲奈も動けなかった。


(カメラ…! みんな…!)


熱が溢れ、じわりとピンクの衣装に染みが滲む。


「や…! ごめん…!」


玲奈は両手で顔を覆い、膝を震わせる。


美咲はマイクを落とした。


(怖い…! また…!)


じゅわっと音を立て、青い衣装に濡れ跡が広がる。


「う…! やだ…!」


美咲は泣き声を上げ、結衣にしがみつく。


結衣の体も震えた。


(耐えなきゃ…!)


じゅっと緑の衣装に染みが広がる。


「く…っ…!」


結衣は唇を噛み、視線を落とす。


真央は拳を握った。


(負けるな…!)


だが、じわりと黒い衣装に染みが滲む。


「…っ…!」


真央は歯を食いしばり、ステージを睨む。


会場は騒然とした。


「彩花ちゃん…!?」


「美咲ちゃん…! どうした!?」


心配の声と驚きの声が交錯する。


「スターリット、頑張れ!」


一部のファンが叫び、拍手を送る。


だが、スマホのフラッシュが光る。


「うわ…! また…!」


興奮した声が少数混じる。


カメラが5人を捉え、モニターに濡れた衣装が映る。


ライブ後、楽屋は重い空気に包まれた。


「彩花…また…全部…見られた…」


美咲がソファに顔を埋め、泣き声を漏らす。


「美咲…ごめん…私が…」


彩花が唇を噛み、涙をこぼす。


「彩花…Xで…もう…」


玲奈がスマホを手に、震える声で言う。


「『スターリット、また…』…ひどい…」


結衣が画面を睨み、拳を握る。


「…何度でも、晒す気だ。」


真央が低く呟き、壁を睨む。


週刊誌「リアルタイム」が即座に記事を掲載。


「スターリット、ライブで再び失態! お漏らしアイドルの止まらぬ試練!」


濡れた白、ピンク、青、緑、黒の衣装が鮮明に。


「テロのトラウマか? ファンも唖然の瞬間!」


見出しは扇情的で、写真が大きく並ぶ。


ワイドショーも追随。


「スターリット、止まらない波紋! 最新ライブが話題!」


画面に彩花の染み、玲奈の水たまりが繰り返される。


「彼女たちの努力は認めるけど…この状況は…」


コメンテーターの言葉が、羞恥を煽る。


だが、数日後、授賞式の夜が訪れた。


「日本音楽大賞、新人賞は…スターリット!」


司会の声が会場に響き、5人がステージに呼ばれる。


「!? 彩花…! 私たち…!」


美咲が目を潤ませ、彩花の手を握る。


「うん、美咲! ファンの…みんなのおかげ…!」


彩花が微笑み、涙を拭う。


「玲奈、行くよ!」


結衣が玲奈の手を引き、笑顔を見せる。


「うん…結衣…! やった…!」


玲奈が頷き、観客に手を振る。


「…証明したよ。私たちの歌。」


真央が静かに言い、トロフィーを握る。


会場は拍手と歓声に包まれた。


「スターリット! おめでとう!」


ファンの声が、5人の胸を温める。


「ありがとう…みんな…!」


彩花がマイクで言うと、涙が溢れる。


だが、喜びの裏で、写真集の記憶が心を刺す。


「全国に…まだ…あの写真…」


美咲がトロフィーを抱え、囁く。


「美咲…でも…今は…この瞬間を…」


結衣が美咲の肩を撫で、微笑む。


Xには、祝福と議論が溢れていた。


「スターリット、新人賞! 彩花ちゃん、美咲ちゃん、最高!」


「マスコミ、いい加減にしろ! 彼女たちの歌に感動した!」


「玲奈ちゃん、結衣ちゃん、真央ちゃん、おめでとう!」


だが、一部の投稿が目を引く。


「お漏らしアイドル、受賞! ライブのやつ見たけど…すごいな。」


「応援してるけど…あの映像、頭から離れない。」


5人の胸に、複雑な感情が広がる。


楽屋に戻り、5人はトロフィーを囲んだ。


「彩花…私…まだ…恥ずかしいけど…」


美咲がトロフィーを撫で、涙をこぼす。


「うん、美咲。わかる。でも…この賞…私たちの答えだよ。」


彩花が美咲の手を握り、微笑む。


「玲奈、もっと歌おう。ファンのために。」


結衣が玲奈の肩を叩き、笑顔を見せる。


「うん…結衣…絶対…!」


玲奈が頷き、目を輝かせる。


「…次も、勝つよ。」


真央が静かに言い、トロフィーを掲げる。


窓の外では、夜の街が輝いていた。


写真集の傷は消えないが、音楽は新たな光を灯す。


スターリットは、どんな試練にも立ち向かう。



















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