ほんとうにあった?怪談

ミミック

第1話 予知するアプリ


 ある日、若いプログラマーの佐藤は、友人から紹介されたスマートフォンアプリをインストールした。そのアプリの名は「フォーチュン・センサー」。説明によれば、このアプリは周囲で起こる不幸な出来事を予知するというのだ。最初は半信半疑だった佐藤だが、好奇心に駆られ、すぐにアプリを使い始めた。


 アプリを起動すると、シンプルなインターフェースが目に入った。大きなボタンには「予知を受け取る」と書かれている。佐藤はそのボタンを押した。すると、画面に何かのメッセージが表示された。


「周囲の不幸を感知しました。1時間以内に、近くで事故が発生します。」


 驚いた佐藤は、何も起こらないことを願いながら、その日の仕事に戻った。しかし、1時間後、ニュース速報が流れ、近くの交差点で大きな交通事故が発生したことが報じられた。信じられない気持ちでいっぱいになりながらも、彼はアプリの正確さに興味を持ち始めた。


 次の日、再びアプリを開いた。今度の予知はこうだった。


「近くで火事が発生します。注意してください。」


佐藤は不安を覚えたが、アプリの言う通りに行動することにした。仕事帰りにいつも通る道を避け、別のルートで帰宅した。すると、彼の通勤ルートを避けた先で、実際に火事が発生しているのを目撃した。


 このように、アプリは次々と不幸を予知し、佐藤はその都度回避することに成功した。彼はこのアプリが自分の生活を守ってくれる存在だと感じるようになった。しかし、次第にその予知の内容はエスカレートしていった。


 ある日、アプリはこう告げた。


「近くで殺人が発生します。注意してください。」


佐藤は恐怖に駆られた。自分の周囲にそんな危険が迫っているとは思えなかったが、アプリを信じるしかなかった。この日、佐藤は外出を控え、自宅で過ごすことにした。しかし、彼の心の中には不安が渦巻いていた。


 数日後、近所の公園で実際に殺人事件が発生したというニュースが流れた。佐藤は恐怖に震えながらも、このアプリの力に魅了されていく自分がいた。


 しかし、アプリは徐々に彼の生活を支配するようになった。毎日のように不幸な予知が届き、彼は外に出ることができなくなっていった。友人や家族との関係も疎遠になり、孤独な日々を送ることになった。彼はアプリに依存し、その予知を信じることでしか安心感を得られなくなった。


 そんなある日、アプリが新たなメッセージを表示した。


「あなたの身近な人が危険にさらされています。」


その瞬間、佐藤は心臓が止まるかと思った。誰が、どのように危険にさらされているのか、全く心当たりがなかった。しかし、彼は何もできず、ただ恐怖に飲み込まれていくのを感じた。


 数日後、彼の親友である高橋が事故に遭ったという知らせが入った。高橋は重傷を負い、意識不明の状態に陥った。佐藤はその知らせを聞いた瞬間、アプリの予知が現実となったことに言葉を失った。


 彼はアプリを削除することを決意した。しかし、アプリは削除できなかった。何度試みても、「このアプリはあなたの安全を守るために必要です」とメッセージが表示され、削除することができなかった。


 絶望した佐藤は、アプリに縛られた生活から逃れる方法を探し続けた。だが、アプリは彼の行動を常に監視していた。彼が外に出ようとすると、必ず不幸の予知が届き、彼を家に縛り付けた。


 ある夜、彼は意を決してアプリの開発者に連絡を取ることにした。開発者の連絡先はアプリの設定画面に記載されていた。彼はメールを送り、自分が直面している状況を説明した。しかし、返ってきた返信は冷酷だった。


「あなたがアプリをインストールした時点で、あなたはこの運命を受け入れたのです。解除することはできません。」


 絶望感に襲われた佐藤は、アプリからの逃れられない運命を受け入れるしかなかった。彼はますます孤独になり、心の中の恐怖が膨れ上がるばかりだった。


 ある日、アプリが再びメッセージを送ってきた。


「あなたの運命が尽きる時が近づいています。」


 その言葉を見た瞬間、佐藤は恐怖に震えた。彼は自分が生き延びるために何をすればいいのかわからなかった。彼はもう一度、アプリを削除しようと試みたが、やはりそれは叶わなかった。


 最終的に、彼は自らの命を絶つことを決意した。アプリに支配された生活から解放されるために、彼は自分の運命を自らの手で切り開くことにした。自宅の一室で、彼は静かに目を閉じ、アプリの存在を忘れようとした。


 だが、その瞬間、アプリからの通知音が鳴り響いた。


「あなたの選択は無意味です。運命は変えられません。」


彼は恐怖と絶望に押しつぶされ、アプリの存在が自分の人生を支配していることを痛感した。彼は自らの運命を受け入れざるを得なかった。


 それ以来、佐藤の姿を見た者はいない。彼のスマートフォンには、未だにアプリが残っているという。時折、そのアプリは不気味なメッセージを送信し、周囲の人々に警告を発している。


「近くで不幸が待っています。気をつけてください。」


 そして、次なる犠牲者が現れるのを静かに待っているのだ。

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