第2話 マディの実力


 翌日、ライアンは早速牧童頭のテッドを家に呼び、マディに引き合わせた。

 テッドは身長が188センチあり、180のマディより大分大男で、顔もいかつかった。

 挨拶が済むと、早速テッドのジャブが入った。

「おまえはそのちっぽけな馬車の出来損ないみたいな乗り物で、牛を追えるのか?」

「ああ、大丈夫だ。自信はある」

「じゃあオレが馬で走るからついて来れるかやってみろ」

 その時隣にいたジェシーが口を挟んだ。

「テッド、やめてよ。失礼じゃない」

 テッドは密かにジェシーを想っていて、ジェシーの前でいいところを見せたいという気持ちもあったのだろう。その上新入りのやさ男マディに、舐められたくないという気持ちもあったのかもしれない。しかしマディは冷静だった。

「いや、ジェシー、僕はいいんだよ。テッドはプライドも自信も持っていて立派だ。(テッドに向かって)あとでジェシーやライアンのいない時に勝負しよう。でないと君が恥をかく」

「なに? 自分が恥をかくからやりたくないんじゃないのか」

「まあまあ、最初からそう熱くなるな。私たちが消えたら後でやればいい」

ライアンがそう言って間に入った。

「ふん。助かったな」

 とテッドが言った。

「じゃあこれから早速泉の下流に牛を連れて行って水を飲ませる。ついてくるんだな」

 テッドは颯爽と馬に飛び乗り、全速力で牧場の方へ駆けて行く。

 マディもバイクのエンジンをかけると、そちらへ向かって走り出した。

「大丈夫かしら、あのふたり」

 ジェシーが呟いた。


 テッドは見事な手綱捌きで牛を追って行く。

 さすがに技術では、テッドに敵わないとマディは思った。しかしこのバイクの方が馬よりも余程小回りは効くしスピードも出る。

 あえてテッドのプライドを傷つけるつもりはないが、もし向こうがケンカを売るなら買うつもりでいた。

 案の定、牛を追いながら、テッドはマディのすぐ近くを走り始めた。

 テッドは他の2人のカウボーイに向かって大声で言った。

「あとは頼む!オレはこいつと競争だ!」

そう言ってテッドはマディを追い越すと、馬を全速力で走らせ始めた。鞭で馬の尻を打ち、姿勢を低くして速度を上げる。時速50キロか、60キロか。

 まんまと罠にハマったとマディは思った。

牛を追う技術では敵わないと思ったが、スピード勝負なら全く話は別だ。

 マディは一旦60キロでテッドと並んだあと、すぐに80、90、100キロとスピードを上げた。

 これではテッドは全然歯が立たない。あっという間にテッドはマディの遥か後方に置いてきぼりにされてしまった。

 勝負は完全についた。



 のどかな下流の川で,何十頭もの牛たちが水を飲んでいる。その牛たちを眺めながら、テッドはマディに話しかけた。

「ここはきのうあんたが水浴びした水源のずっと下流だ。この流れは、ここら一帯に住む者にとって、貴重な水源なんだ。だけど隣村の奴らはここを自分たちのものにして水を独占しようとたくらんでいやがる。だから隣村とは争いが絶えないんだ」

 テッドはマディの見方が180度変わったようで、急に親しげになって来た。言ってみればマディを一人前以上の男として認めたということだろう。

「泉の持ち主は誰なんだい?」

マディもそれに応じて、話をする姿勢を示した。

「パーシー・シモンズという老人だ。彼も泉を売りたいみたいなんだが、隣村に売ったら安心して生活できない。この村とも、隣村とも関係ない人間に売らないと、争いになるだけだからな」

「なるほど」

 たっぷり水を飲んだ牛たちを連れて、皆で牧場への帰途についた。


 夕食の時、マディはライアンと話し合って、翌日パーシー・シモンズを訪ねることにした。この村も隣村も、皆仲良く水を使えるようにするという条件で、マディが泉を買い取る交渉をしようということになったのだ。

 こういう場合は誠意が1番大切だ。

 3日にわたる交渉の末、マディは老人の信用を勝ち取り、かつてテキサスの土地を売って手に入れた金で、泉を買い取る契約が成立した。そしてその翌日には契約書を作って精算をすませ、泉のあるあたり一帯の土地は、正式にマディのものになった。

マディはその契約書を誰かに譲らない限りは、もうこの土地の人間として生きていくつもりになっていた。近いうちに隣村にも平等に水が使えることを説明に行くつもりだ。


 しかしこの事実を知った隣村の一部の人間は、黙ってはいなかった。なぜなら、彼らはマディが泉を独り占めするか,使わせるとしてもライアンの住む村の連中だけで、自分たちには使わせなくなるだろうと本気で考えたのだ。

 マディが隣村の代表に説明に行こうとした矢先、牧童頭のテッドが大変な情報を入手する。

隣村の一味、誰かははっきり分からないのだが、誰かが殺し屋を雇い、マディを葬ろうと企んでいるという情報だ。

 これにはさすがに隣村の代表も難色を示し、反対しているらしいのだが、一部の人間は、本気で殺し屋を探しているらしい。

 マディは銃を持っていない。テッドはカウボーイの仲間が隣村にいて、彼らからこの情報を聞き、マディを本気で心配したのだった。


(つづく)

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