第11話 秋風の告白

 アカトンボが空を舞い、稲穂の匂いの秋風が心地良く吹いていた。


「野球部君が同じクラスのアイちゃんを好きなことは知っていたの。二人、とても仲が良かったし、はたから見ててもすごくお似合いだったわ。アイちゃん、とってもかわいい子でね。いつも羨ましいなぁ、あんな風に可愛く生まれたかったなぁって思いながら、二人がじゃれあうところを見つめていたの」

 懐かしそうに、桜井さんが目を細める。


 アイちゃんは明るく元気で可愛くてクラスの人気者だった。

 カナエも大好きな女子だった。

 もしかしたら既に二人は付き合っているかもしれないと思ったけれど。


「それでも気持ちを伝えるには今しかないって思って、すごく勇気を出して告白したの」

「え? 対面でコクったんですか? SNSとかじゃなくて?」


「私が中学生の頃は、スマホはおろか携帯電話もまだ世の中に普及していなかったのよ」


「なるほどー」

 時代とは言え、やっぱスゴイ。

 今告白って言ったらほぼ100%SNSだし。

 しかも大抵匂わせ告白だから、断られる心配もない。


 匂わせ告白とは、告白する側はSNSのチャット会話にそれとなーく告白しそうな文面を匂わせて、今から告白するけどどう? 的なお伺いを最初にたてておく告白である。

 告白される側はOKならOKっぽさを匂わせ、NOなら「彼女がいる」とか、「最近気になる子がいる」とか、「今は友達と遊ぶのが楽しい」とか、それとなーく断りそうな文面で匂わせる。

 そうすることでもし告白が失敗したとしても、お互いダメージがないようにする配慮告白である。

 

「今ってそんな風になってるのね」

「ですね。どっちがコクったとか、誰がフッたとかは、変に噂が立ってSNSで広がったりするとめちゃ厄介ですから」

「なるほどねぇ。でもそれだと」

「?」

「いいえ。何でもない。それでね」と、桜井さんが続ける。




 カナエは死ぬほど緊張しながら、野球部君に「好きだよ」と告白した。


 結果は……。


「『ごめん』って、明るく笑ってフラれちゃった」と桜井さんが微笑んだ。


「『じゃあまた明日な』って、野球部君は私に手を振ってくれてね。爽やかに帰っていったわ」

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