第3話

第三話 「好きとか嫌いとか」


屋上のドアを開けると、冷たい風が頬を撫でた。


空はよく晴れていて、遠くの山がはっきり見える。こんなに平和そうなのに、俺はここで二度も殺されてるってわけだ。


それでも、俺は足を進めた。もう、逃げてばかりじゃ何も変わらない。


「来てくれてうれしい」


屋上のフェンスに寄りかかるようにして、茉莉先輩が微笑んだ。制服のスカートが風に揺れて、映画のワンシーンみたいに見える。でも、俺はもう騙されない。


「また殺すつもりなんですか?」


直球で訊いた。遠回しにしても意味がないと思ったから。


茉莉先輩は少し驚いたように目を見開いたあと、くすっと笑った。


「斉藤くん、ストレートになったね。いいと思う。そういうの、嫌いじゃないよ」


「答えてください。殺す理由を、俺は知る権利があると思うんです」


「……ある、か。そうだね。確かに、君は“気づいて”しまったから」


茉莉先輩はフェンスから背を離し、俺のほうへ数歩、近づいた。俺は無意識に足を引いた。


「正直に言うとね、理由なんてもう、どうでもいいの」


「……は?」


「最初は“やらなきゃいけなかった”んだけど、今は違う。君がここにいると、わたしの“計画”が崩れる。それだけ」


「じゃあ……殺すのは、ただの手段ってことですか」


「うん。だからごめんね、斉藤くん。今日も、殺すね」


彼女がスカートのポケットに手を入れた。その動きに、俺の心臓が跳ねる。


「ちょっと待ってください!」


俺は声を張った。怒鳴るような声だった。


「俺、逃げるだけじゃ終われない。あんたが何をしようとしてるのか、ちゃんと知ってから死ぬ」


茉莉先輩の手が止まった。目が、わずかに揺れる。


「じゃあ……君は、わたしに近づくってこと?」


「そういうことになりますね」


「ふーん……」


彼女は少しの間、黙ったまま俺を見つめていた。まるで何かを計算しているような顔。


「いいよ。それも面白い」


そう言って、ポケットから手を引いた。武器は、持っていなかった。


「でも、忘れないでね。私、君を殺すのが“義務”だった時より、“趣味”になった今のほうが怖いんだから」


ふわりと笑ったその顔は、天使みたいで、悪魔みたいだった。


「斉藤くん、好きとか嫌いとかってさ、実はそんなに違わないんだよ。どっちも、壊す理由にはなるから」


そう言って、彼女は背を向けた。校舎へ続く扉を開けて、消えていく。


俺はしばらく、屋上に立ち尽くしていた。


──このループの正体も、先輩の“計画”も、まだ何もわかってない。


でも、少なくとも一つだけ、はっきりしてることがある。


俺は、このままじゃ終われない。


 


(つづく)

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