一撃必殺!パイルバンカー!~スキルがなくて追放された俺はパイルバンカーで天下を取ってざまぁする~【リメイク版】

喰寝丸太

第1章 パイルバンカー覚醒編

第1話 誕生、パイルバンカー馬鹿

Side:スルース

 いや、人生、何があるか分からない。

 貴族の家に異世界転生しちまったよ。

 前世の意識がはっきりしたのは2歳頃。


「あぇなに?」


 ろれつの回らない言葉で、メイドに抱きかかえられている俺は尋ねた。

 俺が指差した先では別のメイドが手から光を放っていた。


「浄化の生活魔法です。なくてはならない技術ですね」


 うおおお、魔法あるんか。

 胸熱だな。

 これは覚えないと。


「もじゅおしゅえて」

「スルース坊ちゃまはまだ2歳なのにこんなに賢いのなら、スキル鑑定の儀できっと5つぐらいスキルを授かりますよ」


 おお、スキルもあるんかい。

 俺は異世界に転生したらやってみたいと思っていたことがある。

 パイルバンカーだ。

 パイルバンカーは金属の杭を火薬で撃ち出す。

 遠距離じゃなくて超近距離武器だ。

 飛びだしナイフのごつい物だと思ってくれたら良い。


 パイルバンカーはロマンなんだよ。

 なかなか当たらない、そして危機一髪に大逆転の必殺の一撃。

 ロマンだろう。


 パイルバンカーのスキルが得られるなら他は何も要らない。

 今日から寝る前に毎日、パイルバンカースキルを下さいと祈ろう。


 今更だが、俺の名前はスルースだ。

 ザ平凡という感じの名前だが気にしない。


「スルース坊ちゃまが、お可哀想。お母様であるエリーゼ様を、物心つくまえに亡くされて」


 母親がいないと思ったら、死んでたのね。

 薄情なようだが、前世の記憶があるから、あんま悲しくない。


「後妻のキュラリーは、好きになれないわ。だって、すぐにヒステリーを起こすんですもの」

「呼び捨てにしたのを聞かれたら不味いよ」


「スルース坊ちゃまの部屋には入って来ないから大丈夫」

「前から疑問なんだけど、何で?」


「スルース坊ちゃまが、エリーゼ様に似てるからって聞いたけど」

「あのキュラリーがそんな理由で部屋に入れないなんて、信じられない。そんな、たまじゃない。たぶん、心臓に毛が生えているって」


「夜、うなされていたらしいわよ。エリーゼ、許してって。そして、起きたら、エリーゼ様の悪口を喚き散らして、うなされてたので様子を見に来たメイドを殴ったようね」

「複雑な感情があるのね。エリーゼ様に対して、悪いと思ったのかなぁ。でも、悪いと思ったら、悪口は言わないわよね」


「男を盗ったわけだから、悪いと思ったのかもね。知ってる? キュラリーの息子のガセインは、スルース坊ちゃまの1歳年下ってことになってるけど、実は同い年らしいわよ」

「旦那様も酷いわね。スルース坊ちゃまがエリーゼ様のお腹の中にいた時に浮気したの」


「身ごもったら浮気されたというのは、よくある話よ。キュラリーはガセインを長男にしたかったらしいけど」

「エリーゼ様が生きていらしたら、それは無理ね。旦那様も気が引けたから、1歳年下にしたのね」


 色々と家庭が複雑だな。

 パイルバンカーに欠片も関係ないから、無視しておこう。

 障害になるようなら、パイルバンカーで撃ち砕くのみ。


 俺は文字を速攻で覚えた。

 幼児の吸収力を舐めるなよ。


 ここはスキルと魔法の世界。

 ランクの高いスキルをたくさん持っていれば勝ち組らしい。

 魔法は便利技術扱い。

 もちろん魔法でも攻撃を与えられるが、この世界での人間の敵のモンスターと呼ばれる存在に致命傷は与えられない。

 あくまで、魔法は家電扱いだ。


 パイルバンカーのスキルは欲しいが、もし別のスキルになった時にパイルバンカーができないのは悲しい。

 それでどうするかというと、魔法でパイルバンカーを再現するのだ。


「スルース坊ちゃまは、モンスター図鑑がお気に入りですね」

「うん、しゅき。ぱいにゅびゃんかーで、ぐしゃっといちげぇき」

「できたら、良いですね」


 パイルバンカーの良さをもっと語りたい。

 ろれつが回るようにむなるまでは、我慢だ。


 体力もつけないと。

 パイルバンカーの反動は大きい。


 反動は醍醐味だけど、吹っ飛ばされた時に踏ん張らないとな。

 保持する手の力も重要だ。


 2歳頃から鍛えたら、きっとパイルバンカーを使いこなせる肉体をできあがる。

 でも、過激な運動は良くない。

 適度に運動だ。


 晴れた日は、庭でメイドとの鬼ごっこが日課になった。

 メイドの後をよたよたと走る。


「スルース坊ちゃまは、わんぱくでたくましいですね。ガセインは、旦那様似でふっくらしてるから、スルース坊ちゃまを見習って、少しは運動したら良いのに。あのままだときっと豚貴族ね」

「キュラリー、ざまぁ。将来、スルース坊ちゃまの方がガセインよりハンサムだったら、悔しくて眠れなくなるかも」


「社交界で、スルース坊ちゃまが女性達の心を奪うのが、今から想像できるわね」

「エリーゼ様似だから、きっとそうなるでしょう」


 運動して疲れたら、食べて、寝て、読書。

 そして、また運動。


 日に日に、背が伸びて行く気がする。

 筋力も上がっているのを感じる。

 魔法書をいくつか読破した。

 まだ、パイルバンカーの魔法を開発するには知識が足らない。


「ぱいにゅびゃんかー!」


 薪を持って、壁に薪を打ち付ける。

 薪ではなくて、杭、パイルだと心に言い聞かせて。


「スルース坊ちゃま、新しい遊びですか?」

「ぱいにゅびゃんかー、ごっきょ」

「楽しそうですね。槍の訓練かしら。やっぱり男の子ね。ガセインだったら、使用人を的にしてたでしょう。スルース坊ちゃまはお優しいですね」


 いや、硬い奴を砕くのがパイルバンカーなんだよ。

 人間の体は柔らか過ぎる。

 メカを砕いて、スパークが出て、それから爆発。

 なんて、美しいんだ。


 パイルバンカーを再現したら、モンスターの傷口にスパークを出して、爆発させようかなとも思ったが、考え直した。

 素材が勿体ないからと、怒られそうだから。

 モンスターの大半は死んだら、食材や素材なので。

 元日本人の俺としては、食材を玩具にするのは気が引ける。


 鎧なら、そういう演出も良いかな。

 全身鎧って、ロボットに似てるから良いかも。

 うおおお、たぎるぜ。


 騎士の金属の鎧をパイルバンカーで撃ち抜いて、スパーク、爆発、爆炎の中から颯爽と現れる。

 うん、恰好良い。

 よだれが、垂れた。


「スルース坊ちゃま、槍の訓練でお腹が空いたようですね。何かもってきましょう」


 メイドさんに、よだれを拭いてもらう。


「あい、おねがいしましゅ」


 色々とやりたいことが増えていくな。

 理想とする、パイルバンカーに向かって、前進するのみ。

 何年掛かってもやり遂げる。

 どうせ、一度は死んだ身。

 異世界での今世は、ボーナスタイム。

 趣味に生きなきゃ勿体ない。

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