かなしみのココノン(2)
とあるゲームメーカーの開発会議室。
ベータテストのフィードバックをうけて、バトル班のチーフをはじめとした数名で実装間近の新キャラクター『ココノン』の最終調整案が話し合われていた。
「ベータに参加したテスターからの反応がこちらになります」
アシスタントが会議室前方のスクリーンにテスターの感想を表示する。
―――
・バフも回復力も申し分ない
・器用貧乏(いい意味で)
・文句なしの最強!
・ビルド次第で本人でも殴れて自由が高い。不死身ビルド最高!
―――
「おおむね高性能という評価でした」
「うん。とくに問題なさそうだね。初の限定ヒーラーだし、このままでいこうと思う。問題ないかな?」
チーフが確認すると、バトル班の班員たちはうなずいて賛意を示した。班員たちにはココノン押しメンツが多いようである。
しかし1人の人物が反対意見を表明する。
「ちょっと強すぎ~。壊れっしょ、このキャラ。どんな敵でもココノンをいれとけばごり押しでクリアできるのは問題アリっしょ~」
発言者はシナリオライターである。
「しかし新しい国の最初のキャラクターですし、多少は性能を盛ってもいいとディレクターからの指示が……」
「ヒーラーがアタッカーまでできるのはやりすぎっしょ~。うちのゲーム壊すつもりっスか? う・ち・の」
「わかりました。もともと攻撃性能の削除は考慮されてましたから」
ココノンから攻撃性能が削除された。
「あと~回復量多すぎ~。これじゃ回復専門キャラの『眠眠』を誰も使わなくなっちゃうっしょ~」
「しかしココノンの回復頻度は2秒に1回です。眠眠は1秒に1回ですからバランスは取れているかと」
「いいから回復量減らせよ」
「減らします」
ココノンの回復力が低減された。
「あと~バフも無条件ってぶっ壊れすぎっしょ~。被弾したらパッと消失しちゃうようにしたら~?」
「し、しかしそれでは回復キャラとしての設計に矛盾が!」
「玄人向けってやつさ~。やれよ、な?」
ココノンのバフ性能が大幅に弱体化された。
会議が終わり、部屋から出てきた社長の息子を待っていたのは、眠眠のキャラクターデザイナーB子である。
「どうだったダーリン?」
「ばっちりさ~ハニー。ココノンは器用貧乏の器用抜きになったっしょ~」
「よかった。あたしA子嫌いなのよね。あんな子がデザインしたキャラが売れるなんて我慢できない」
「心配ないさ~。もうココノンなんて誰も使わないっしょ~」
運営フロアの照明が明るくなった。
再現動画の上映会に参加しているメンツはみんな口をぽかんとあけている。俺や麗奈はともかく、ぽよよんズまで呆れていた。
「またあいつか。あいつシナリオライターだろ? なんでバトル班の会議にしゃしゃりでてるんだよ」
「社長の息子ですから……」
そういえばそうだったな。
今どきあそこまで大きなツラができる社長の息子もなかなか高レアリティだぞ。限定Sでもおかしくない。
しかし、まさか恋人だか愛人だかわからないが、そいつの差し金だったとはなぁ。
あんな情実がまかり通っているようじゃ、もうあの会社ダメなんじゃないか……?
「どうされますか、カミサマ?」とリクス。
「うーんそうだな。ベータテストのときの性能に戻して」
「はい。回復力を上げて、被弾でバフが消失する仕様を削除しますね」
「あと、攻撃性能も復活しといて」
リクスが怪訝そうな顔をした。
「それはもともと削除予定だったという話でしたし、単純な仕様変更の範囲をおおきく超えてしまいますが……」
「俺もココノンで殴りたい。不死身ビルドってやつをやってみたいし」
ベータテストの感想にあったものだ。
ヒーラーに殴らせるという発想がおもしろい。そういう自由度があるとゲームはがぜん楽しくなる。
たちまちぽよよんズが手羽をばたばたさせる。
「やってみたいって、また自分のわがままぽよ!」
「私物化極まれりぽよ!」
「あたしたちの目が黒いうちはそんな暴挙をさせないぽよ!」
「うっせ! 不死身ビルドなんて中二ワードを聞いて心が躍らないゲーマーなんていねーんだよ! 遊ばせろ!」
それでもまだぽよぽよ騒いでいたが、無視することにした。
鳥にゲーマーの気持ちはわからん。
「リクス、緊急強化の発表だ! 強いキャラを弱体化するのは問題だけど、弱いキャラが強くなる分には本気で文句言うやつなんていないから!」
「そうですか……わかりました」
その日のうちにココノンの強化内容が発表された。
「回復」しかできない貧乏キャラという扱いだったココノンに「豊富な回復力・優秀なバフ性能・攻撃性能」という強化の大盤振る舞い。
まだピックアップガチャが開催中なので、きっと売上のアップも見込めることだろう。
もともとゲームとしてのポテンシャルは高いんだし、これなら1年もたせるなんて楽勝じゃないか?
夜、自室でひと風呂浴びて、俺は趣味のゲームをやろうとしていた。
昼間の『神魂』は仕事のゲームだからな。いろいろと気もつかう。
寝る前のひとときは心置きなくゲームを楽しめる貴重な時間だ。
そんなときだった。
こんこん。
ドアがノックされた。
こんな時間にノック?
とっさに頭に浮かんだ。
「闇金の取り立てか?」
と。
だが、連中ならノックなんかしないでいきなりドアを開けてくる。
カギがかかっていたらドアを蹴ってくるので、最初から最後までノックなどという文明的な行為はしない。
というか、そもそも借金はもう完済したんだった。いかんな、まだ体に染み付いている。
だけど借金の取り立て以外で俺に用があるやつなんていたかな?
そう疑問に思いながらドアを開けると、廊下にココノンが立っていた。
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