お隣さんと仲良くなったら童貞奪われて付き合えた話

緋名坂ミヤビ

#1 成沢楠葉は先輩を慕う



 大学もバイトもない土曜日の朝。


(――ピンポーン♪)


 玄関を開けると、お隣さんが立っていた。


 ショートの黒髪を手で直しながら、

 しかし扉が開いたのに気付くと。

 頭二つ小さなところから、不意に目線が合う。

「はっ、、ぉ、おはようございますっ、宏登ヒロト先輩」



 彼女は成沢なるさわ楠葉くすは。同じ大学に通う二年生。


 白のパーカにデニムのショートパンツのいでたちで。

 ショーパンの先から露わになった太ももは、ほどよーくむちっとしてて……とても健康的である。



「おはよう、楠葉。何か御用?」

「あー、ぇと。じつは、昨日バイト代入ったんで。お出かけしたいなーって思ったんですけど……」


 えへ、とはにかむ表情。

 うっすらと赤く染まって。


 桜の季節は過ぎたけど、

 まだまだ季節は春本番。

 こんな晴れた週末は、誘われるまま外に出るのもいいかもしれない。


 たとえばあどけない笑顔の素敵な、

 お隣の女の子と一緒に。


「OK。すぐ準備するから、十時まで待ってもらえる?」

「やった♪ じゃ~お待ちしてますね♪」


 胸の前で両手のひらを合わせた楠葉くすはは、ぺこりと頭を下げて自室へと足を向ける。


 愛嬌ある挙措きょそは親しみを帯びて。

 愛くるしい振舞いにに癒されながら――

(いやいや、)と俺はかぶりを振る。

 彼女の提案はあくまで親交を深めるためだろう。

 愚かな勘違いは死活問題だ。なんせ毎日を隣り合って暮らしてるのだから……。


 

 なんて自らに言い聞かせていると、

 楠葉はくるりと振り返り、茶化すように『にっ』と白い歯をのぞかせる。


「ピュアそうな先輩のために、まず勘違いしないように言っときますけど、」


 言われなくてもわかってるって。ただのお出かけっていうんでしょ?


「――私は、デートのつもりなんで♪よろしくおねがいしますねっ♡」

「はいはい、わかりま……――? へっ??」


 聞き間違いかと目を丸くする俺に、

 満足げに変わった楠葉は、『ぱちっ☆』とウインク一つ、部屋へと戻って。


 「……」一人残された俺は、

 どきどきとせわしなく鳴る心臓の音を、当てた手にたしかめる。


「……んっ、んなことで勘違いするかよ。中学生じゃあるまいし……」


 ――と、こんな感じで近ごろの俺は。

 隣の部屋の後輩女子によって、気が気でない学生生活を送っているのだった。




   *



 俺と楠葉が知り合ったのは半年前のこと。


『どこなのよぉ、もー……、、』

 ある日帰宅すると、

 彼女は共用スペースに立ち止まって何やらごそごそとバッグの中を漁っていた。

 ――だいたいの事情は、すぐに見て取れた。


『ぜったいココにしまったんですけどぉ……?』

 うーん、と唸りながら中をかき分ける少女。


 改めてドアのレバーに手をかけるが、当然レバーは動かなかった。


 (どこかで落としちゃったんかねぇ……)

 不憫に思いつつも、足音を忍ばせて自室の前へ歩く。


 こちらが鍵を取り出す間、

 彼女はどこかへ電話をかける。それもあいにくの留守であった。


『『……、、』』


 ふと、無言で目が合ってしまう俺たち。


 むしょーに気まずさが立ち込めて。

 俺はキーを鍵穴に差し込む。

 

『…………ぐすっ、、』

 洟をすする音。


(あーもう見てられん。。)

 女の子だし下心を疑われる心配もあったけど、


 俺は開けかけた扉を閉め戻し、


「……えーと。大丈夫?」


 どう切り出したもんかと迷った挙句、

 控えめに彼女に声をかけると。


「――っ、うえぇ。助けてぇぇせんぱぁぁい。。!」

「へっ? ちょ――まっ、まてまて、ふんぎゃっ!?」


 突如駆け寄り抱きつかれた俺は――そのふくよかな膨らみと柔らかさに灼かれつつ。

 結果、彼女と遅くまで鍵の捜索活動を開始するハメになった。



 以来、俺は楠葉に「先輩♡」となつかれつつ、

 『よきお隣さん』としての関係を続けている。

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