第3話
(あのエキセントリックミドル、ここの院長だったのか…)
院長よりは若いながらも同じくおっさんに生まれ変わった俺は、備品と称されたガラクタの片づけに取りかかった。すごい量だ。
イスをあっちに置き、バケツをこっちに置き、台車をどけて… 山の麓を均していく。しばらくして、ゴミ屋敷の入口のようだった隙間は人が普通に通れるぐらいに広がった。しかし物置…いや、本来、売店だったスペース発掘までの道のりは遠い。
斜めに倒れかかったロッカーを開けたら工具ベルトが出てきた。金槌にクギのセット、レンチ、ドライバー… 一通り揃っている。最初に見つかってくれてよかった。運が悪けりゃこのフロア全体にガラクタを並べることになっていただろう。
両腕を上げて背中を伸ばす。筋肉のない体がすでにあちこち痛い。
…
… …
…はぁ…
元の世界ではまったく役に立たなかった微妙に真面目な性格のせいで院長の勢いに乗せられてこんなことを… こんなことをしている場合じゃないんだ!
これからどうするんだ… もともと無かった人生をさらに失ってしまった…
(( つまらんことを考えてはおらんじゃろうな? ンン? ))
(( 手を動かすんじゃ… ))
院長の言葉がオマケつきで脳に介入してきた。超能力者か…? 作業を続けよう…
作業ベルトを患者衣の上から腰に巻きつけた。なんともチグハグな格好だ。
足下に踏んづけていたものを引っ張り上げる。でっかい板… いや、天板だけになったテーブルだった。
幸い周りに脚も散らばっていた。廊下に座り込んで修理に取りかかる。天板は埃で汚れきって、クギの刺さっていた穴さえわからなくなっていた。四隅に適当に脚を打ち付けていく。
ん? なんでテーブルに取っ手があるんだ?
…これ、外れたドアじゃないか。 紛らわしい…
「ちょっと! そんなところに座り込んで、邪魔じゃないのよ」
誰かが後ろから声をかけてきた。女性の声だ。これは…メインヒロインの登場だ!!
希望を取り戻して振り向くと、白いワンピースを着た中年の女性が俺を睨んでいた。
期待して全く損をした。全損だ。もう走れない。
「はい…」
「それに廊下中にガラクタをばら撒いて… 修理に取り掛かるより先に片づけてしまいなさいよ」
「あ、それは… ごもっとも」
「あなたね? 院長が言ってた失敗者というのは」
し、失敗者!? 「転生」を省略されるとなんだか存在の全てを否定されたような気になる。まぁこの際、どうでもいいか…
「ええまぁ… そのようです…」
「ずいぶん悲壮な顔してるわね… しっかりしなさいよ!『転生盆に帰らず』って言うでしょ。切り替えなさいよ」
「え、縁起でもない言い方しないでください!」
全否定されるわ死んだことにされるわ踏んだり蹴ったりだ。
「あの、あなたは… 看護師さん…ですか?」
「見たらわかるでしょ。そうよ。監護士。」
「監護士!?」
「エミよ。よろしくね」
(つづく)
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