『ME』真偽のファクトチェック

湊 俊介

第1話 ファクトチェック

「おはよう、カイト。あれ見た? フェアリーキングダムがとうとう新作発売だってさ。昨日はもう眠れなかったよ」


朝の教室はいつものようにざわついていた。窓際の席でカイトが教科書を広げているのを見つけ、僕は勢いよく話しかけた。カイトは僕の親友で、小学生の頃からずっと一緒にゲームをしてきた。『フェアリーキングダム』は3年前に発売されて爆速で人気になったRPGゲームだ。魔法と冒険の世界を舞台に、プレイヤーがフェアリーたちと一緒に闇の王を倒すストーリー。発売当時は毎日のようにカイトと攻略法を語り合ったものだ。高校生になってからは部活や勉強で忙しくてプレイする機会は減っていたけれど、あのゲームを超えるものはまだなかった。カイトもそのゲームのファンの1人だ。


だから、昨日SNSで「フェアリーキングダム新作発売決定!」というニュースを見たとき、いてもたってもいられなかった。公式っぽい画像もついていて、コメント欄も盛り上がっていた。絶対本物だと思った。今日はカイトとその話題で盛り上がること間違いなしと確信して学校に来たのに、まったく想定外の反応が返ってきた。


「マサト、おはよう。お前、あれ信じたのかよ」


カイトはスマホから目を上げると、鼻を鳴らして僕を見た。その目は「お前は本当にバカだよな」って言っているみたいだった。カイトはいつもこういう態度を取る。僕をからかうのが好きなんだ。普段は気にならないけど、今日はなんだかムカついた。


「え?」


僕は思わずその一言が漏れ出て、カイトはまた鼻を鳴らして口を開いた。


「あれ、フェイクだぜ。ちゃんと見れば画像も粗いし、インプレ稼ぎのフェイクニュースだよ。コメントでもそう言ってる人が多かったし、公式でも何も言ってない。それに、ファクトチェックしたしね」


「ファクトチェック?」


聞き慣れない言葉に、僕は思わずその名前を口に出した。カイトは少し驚いた顔をして、スマホを取り出した。


「知らないの? 最近流行ってるアプリだよ。本当のニュースも嘘のニュースも毎日流れてくるから。情報の選別をしていかないとダメなんだよ。何が本当で何が嘘かわからないからさ」


カイトがスマホの画面を見せてきた。そこには「FactCheck」というアプリのアイコンが表示されていた。シンプルなデザインで、虫眼鏡のマークが目立っていた。カイトは得意げに説明を続けた。


「このアプリ、SNSと同期して、ニュースの真偽をAIが調べてくれるんだ。フェアリーキングダムの新作のニュースも、すぐ嘘ってわかったよ。公式サイトもチェックしたけど、何も発表されてなかったし」


「あ、それね。知ってるよ。流行りものはやりたくなくてさ。ダサいじゃん」


僕は知らなかった。でも、カイトの態度にイラッとして、つい嘘をついた。カイトはいい奴だけど、たまに僕をこうやってバカにしてくる。いつもは笑って流せるけど、今日はなぜか我慢できなかった。フェアリーキングダムの新作を信じただけで、こんな風にバカにされるなんて。悔しくて、頭の中で「ファクトチェック、ファクトチェック」と唱えて、忘れないようにした。


今この場でダウンロードしているところを見られたら、どんなことを言われるかわからない。僕は自分の席に戻って、こっそりアプリをダウンロードした。帰ったら使ってみよう。

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