第2部 第12章:コアへの帰還、最後の防衛線
聖域の意志が示した光の通路は、驚くほど早く、あたしたちを再びあの場所へと導いた。
揺り籠の心臓部、光のネットワークが無限に広がる、コア領域。
しかし、その光景は、あたしが最初に訪れた時とは、明らかに異なっていた。
以前は、ただ静かに明滅していた光のネットワークが、今は激しく波打ち、まるで嵐の前の海のように荒れ狂っている。
空間全体が不安定に振動し、あちこちで赤い警告灯が点滅し、耳障りなアラーム音が鳴り響いていた。
システムの崩壊が、急速に進んでいるのだ。
そして、光のネットワークの中心、巨大なコア・プログラムもまた、その輝きを濁らせ、表面には黒い亀裂のようなものが走り、内部からは、禍々しい赤い光と、黒い靄のような負のエネルギーが、抑えきれずに漏れ出しているのが見えた。
あれが、聖域の意志が言っていた、「歪み」…。
古の魂の癒えぬ傷、管理者の歪めたシステム、そして、影が遺した憎悪の残滓(ざんし)が、コアそのものを蝕んでいるのだ。
「…ひどい状態だな」。
キオが、息を呑んで呟いた。
「いつ、暴走してもおかしくない」。
「ああ。 だが、同時に、奴らにとっても都合が悪いはずだ」。
クロウが、周囲を警戒しながら言った。
「システムの制御が効かなくなれば、奴らの支配も終わる。 だからこそ、必死で俺たちを止めようとするだろう」。
彼の言葉を裏付けるように、コアへと続く光の経路上に、無数の影が現れた。
調整者たちだ。
これまで見たどの部隊よりも数が多く、そして装備も重厚だった。
彼らは、コアを守る最後の防衛ラインとして、あたしたちの前に立ちはだかった。
その数は、百を超えるかもしれない。
絶望的な数だ。
そして、その部隊の中心には、あのリーダー格の「彼」が、冷徹な瞳であたしたちを睨みつけていた。
「やはり来ましたか、プライム。 そして、裏切り者ども」。
彼の声は、スピーカーを通して、空間全体に響き渡った。
「これ以上、あなたたちの好きにはさせません。 このコア領域は、我々Yggdrasilが管理する聖域。 不純な因子は、ここで完全に排除します」。
彼は、右手を高く掲げた。 それが、攻撃開始の合図だった。
調整者たちが、一斉に光杖や銃のような武器を構え、無数のエネルギー光線や光弾が、雨のようにあたしたちへと降り注いだ!
「キオ! クロウ!」。
あたしは叫び、左目の力を解放した。
蒼、赤、白、黒の四色が混ざり合ったオーロラの光が、巨大なドーム状の盾となり、降り注ぐ攻撃を防ぐ。 激しい衝撃が盾を打ち、あたしの体に強い負荷がかかる。
「行け、プライム!」。
クロウが叫んだ。
「ここは俺たちが引き受ける! お前は、コアへ!」。
「でも!」。
「迷ってる暇はない!」。
キオも叫んだ。
「お前しか、あれを止められないんだろう!? 俺たちを信じろ!」。
二人の力強い言葉に、あたしは迷いを振り払った。
そうだ、あたしには、やるべきことがある。
このコアの歪みを鎮め、現実への扉を開く鍵を手に入れること。
それが、あたしの最後の試練。
「…わかった! 必ず、戻るから!」。
あたしは、二人に後を託し、オーロラの盾を維持したまま、コアへと向かって走り出した。
「行かせるか!」。
調整者の一部が、あたしを追おうとする。 しかし、キオとクロウが、その前に立ちはだかった。
キオは、金属パイプを捨て、調整者が落とした光杖を拾い上げ、不慣れながらも巧みにそれを操り、敵の攻撃を防ぎ、反撃する。
彼の動きは、荒々しいけれど、揺り籠での経験と、持ち前の戦闘勘が、彼を戦士へと変えていた。
クロウは、レーザー銃を連射しながら、巧みな体術で敵を翻弄する。
彼の動きは、キオとは対照的に、どこまでも冷静で、計算され尽くしている。
彼は、一体何者なんだろう。
その疑問は、今は置いておくしかない。
二人が、必死に敵を引きつけてくれている間に、あたしはコアへと近づいていく。
コアから漏れ出す、歪んだエネルギーの波動が、肌を刺すように痛い。
頭の中では、様々な声が、再び叫び始めている。
『クルナ…! フレルナ…!』歪みから発せられる、拒絶の声。
『ノマレロ…! ヒトツニ…!』古の魂の、誘惑の声。
『ガンバレ! マケルナ!』途切れ途切れの、励ます声。
『…オマエナラ… デキル…』影の、囁くような声。
あたしは、それらの声にも、コアから放たれる負のエネルギーにも、屈しなかった。 左目の奥で、あたし自身の魂の形――四色の光が調和した、あの美しい紋様――を、強く、強くイメージする。
あたしは、あたしだ。
あたしの意志で、この力を制御する。
そして、この歪みを鎮め、未来への扉を開くんだ!
コアは、もう目の前だった。
黒い亀裂が走り、禍々しい赤い光と黒い靄を噴き出す、巨大な光球。 その中心にあるはずの、本来の、清浄な光を取り戻すために。
あたしは、深呼吸を一つし、そして、コアに向かって、両手を突き出した。 左目から放たれる、蒼と赤と白と黒が調和した、オーロラの光。
それは、コアから漏れ出す歪んだエネルギーと、激しくぶつかり合い、空間全体を揺るがすほどの、壮絶な光と音の奔流を生み出した。
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