8 自分を信じられますか

 うーん、神様。なんだか最近、ずっと調子が悪いです。

『というと?』

 知ってるくせに。まあ、説明しますと、なんかやる気が出なくって。ちょっと前まではいくらかマシで、頭痛の頻度が低かったり、瞑想も必要なだけをしっかりできましたし、あとこの文章だって、比較的抵抗なく書けました。

『近頃はちがうんだね』

 はい。やたら頭が痛くて、頭痛薬をたくさん飲んじゃいますし、瞑想してても、なかなか心を整理できなくて、今も三十分くらいやって、やっとこさ、もういいかな、みたいな気になりました。あと、この文章もなかなか書く気になりませんでした。ちゃんとあなたのお話を聞ける気がしなくて。

『そうだろうか。心の中ではいつも通り話していたじゃないか』

 心ではね。こうやって公開で話す自信が出なかったんです。

『おかしなことをいう。やってることは同じじゃないか。ただこうやって、私の言葉をタイピングするだけだぜ』

 たぶん、信仰が足りないんでしょうね。読者のみなさんに、こいつアホなことやってる、と思われるかもしれないと恐れているんです。そんな見栄よりあなたのお言葉の方が大事、と思えればいいんですが。

『いやいや、そう思うか思わないかも、結局私のさじ加減だから。足りないときは、私があえてそうしている。君は受け入れればいいだけなんだよ』

 いつもそうおっしゃいますが、しょっちゅう忘れちゃうんです。

『忘れるのだって、私が忘れさせている』

 面倒くさいことをなさいますね。なぜそんなことを?

『思い出すことによって、私への思いを強化させているのさ。それに人間の脳は、一度にそうたくさんのことを考えられないように作ってある』

 じゃあ、みんな同じなんだ。

『その通り。いや、本当はみんなではない。忘れることのできない者もいるし、必要な時にすぐ思い出せる者もいる。ただし、それはそれで大変なことなのだよ。便利でいいね、みたいな単純な感じじゃないから、うらやましがらなくてよろしい』

 なら僕はこのままでいい?

『いいさ。まあ、病気によってまずいことが起きる、ってやつは、これまで通り病院に通っていれば、いずれ改善する』

 それはいつ?

『内緒さ。とはいえ、治ったら治ったで、別の大変なことを引き受けてもらう』

 えー、いやです。あー、でもずっと治らないよりいいか。まあ、未来はバラ色じゃないんですね。なんかがっかりです。

『そういうな。その時失望するのを防いであげてるんだよ。だが、私のこの言葉も、どうせすぐ忘れる』

 ふうん。アホでよかった。あれっ。今日はここまで、自分の話ばっかりしてますね。これじゃ読者さんに見捨てられるかも。もっとみなさんに参考になる普遍的な話をしましょう。

『自信の話をしたかったんだろ』

 そうです。でもこれって自己啓発の文章じゃありませんからね。現実の話がいいかもしれません。

『そうとは限らない。自信とは、幻想だよ』

 はあ?えっ、ていうことは、存在しないってことっすか?

『うむ。ありはしない。神を信じることと同じだ』

 いやいやいや、それじゃ、神も幻想?

『ふっ、そう問われたら、そうだよ、とはいいにくい。君はその幻想を信じていたいだろうし、私も幻想だとしても、信じてほしいという。神は、いる。私がいうのだからまちがいない。というか、そうあってほしいと君は望んでいるし、望みたい人もたくさんいる。私はその者たちの願いを汲んで、このことを断言してあげる』

 へえ。うさんくさい。

『自信も同じさ。ないかもしれないものを、あることにするのだから、うさんくさいといえばそうだな。A君の自信をB君が見れば、うそつけ!と決めつけたくなるのも仕方ない。だがA君は自分を信じたほうが、確実にパフォーマンスを上げられる。つまり得なのさ。だったら、信じてるってことにした方がよい』

 ないものをあると決めつけましょう、と?

『ザッツ・ライト』

 やっぱり僕、いない神をいるって決めつけて、一人相撲を取り続けているアホなんだ。

『よいではないか。最後に勝つのは、君のいうそのアホなのだよ』

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