幕間

Record6 2006/04/11



「はい、録音始めました。改めまして、ご協力ありがとうございます、ミドリさん」


『いいえ、いいのよ。わたしたちのことを残してくれるのでしょう? こんな嬉しいことはないわ』


 「よかったです。本当は迷惑だったらどうしようかと……。今さらですが、あれからお元気でしたか?」


『そうね、案外。今度、妹が結婚するの。本人よりもわたしたち家族のほうが、張り切っちゃって』


「へえ! おめでとうございます。幸せなお知らせですね!」


『ええ、本当に……。こうしていると、子どものころギャングなんてやっていたのがウソみたいに思えるわ。なんて愚かだったんでしょう』


「……ムリに否定しなくていいんですよ。わたしはALERTアラートのみなさんやあの街の少年たちを、愚かだったなんて思いません。ギャング“なんて”って言わないでください」


『……ありがとう。そう、そうよね……あそこがとても好きだった。わたしは暴力とはついに関わることはできなかったけれど、まぎれもなくあれは青春だった』


「そうだと思います。特に仲のいい人と一緒だと、それだけで楽しい思い出になりますよね。そういえばルカさんとは、今も会っているんですか?」


『ルカは――亡くなったわ』


「え」


『五年くらい前、事故だった。歩道を歩いていたところへトラックが突っ込んできたらしいの。わたしはその日に限って、あの子と一緒でなかった……』


「それは、でも――」


『わかってる。たとえ一緒にいたとして、二人して命を落としただけだったかもしれない。だけどね、――……っ』


「ミドリさん……?」


『ルカの手に握られていたのは、メモだったのよ』


「メモ?」


『ALERTに入るとき、わたしたちのコードネームを書いてルカに渡していたの。あの子、忘れっぽいから……』


「そうだったんですね……」


『ね、不自然でしょう? ただの事故、防犯カメラがそれを示している。いつも通りに歩道に飲酒運転の車が急に……。

だけど、ただ買い物に行くときに、わざわざメモを握りしめていると思う?』


「……たしかに」


『あの子が亡くなったのは、偶然だった。だけどきっと、和子かずねは自ら……そう考えていたとしか思えない』


「ミドリさん」


『守れなかったのよ、わたしは。ああ、あんなにそばにいたのに。ずっと一緒だったのに。

障害者だからって、なんだって言うの⁈ 和子はわたしの相棒なのよ? 一番あの子を知っているのは、わたしだったのに――……』


「ミドリさん、落ち着いて。あの、つらいことを思い出させてしまってすみません。お話、きかせてください。全部……ミドリさんの話したいこと、全部。だから自分を責めないで……」


『……取り乱してしまって、ごめんなさい。ありがとう。だけど全部となると、何時間かかるかわからないわよ?』


「何日でも。わたしがききたいだけなので」


『――あなたは本当に優しいのね、わかっていたけれど。ALERTにいたころは、あまりお話する機会もなかったものね。ねえフラミンゴ』


「そうですね。だから今、こうやって取材させていただけて、とっても嬉しいです。あの頃から、というよりひと目見たときから、ミドリさんには惚れ惚れでしたから!」


『そう? ふふ、和子も言ってたわ、そういえば。『ゆかりには、ほれぼれ~』って。ずいぶん昔のことだけれどね』


「すてきなお二人ですね」


『ええ。最高の親友、相棒、大好きよ。最初で最後の、ええ……。

そういえば、他のみんなにもこうやって取材しているの?』


「そうなんです。はるちゃんにも手伝ってもらって、モネさんとローさんと、クルーさんとお会いできました」


『彼らは元気?』


「お変わりなかったですよー。特にローさんは、相変わらず面倒くさそうに応えれてくれました」


『目に浮かぶわ。今でも、ALERTのみんなと似た人を見かけると、ついふり返ってしまうの』


「わかります! さらさらのロングヘアーを見つけたら、あれ、ミドリさんかなって顔見ちゃいます。まあ、本人の美人さには誰も敵いませんけど」


『褒めてもなにも出ないわよ? まったく、上手になったわね』


「本心ですよ。近いうちにはるちゃんと会うんです。ミドリさんは変わらずきれいだったって話します! あ、えっと、ルカさんのことは――」


『話さないで、まだ。もう少しだけ、心の奥にしまっておきたいの』


「わかりました。わたしみたいなのに、ミドリさんの秘密を共有してもらっちゃって恐れ多い感じです」


『……あなたこそ、”わたしみたいな”なんて言わないでちょうだい。あなたが来て、確かにALERTは変わったわ、だけど――』


「わたしは責任をとりたいんです、ミドリさん。責任がほしいから。気を遣わないでください」


『そんなことない、ごめんなさいフラミンゴ。余計なこと言ったわね……』


「あはは、ミドリさんがそんな顔するなんて! なんか嬉しいな」


『もう……そうやって、あなたははぐらかすのが上手なんだから』


「片足立ち以外の特技、新発見ですかね? ……あ、ごめんなさい電話だ」


『出て構わないわよ』


「すみません。じゃ、一旦ボイスレコーダー切りますねー」

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