第12話 徐と後藤恵子、H飯店本店2

 永福ヨンフゥが「レイニー、お前の興信所は俺のとダブっているんだ。だから、興信所は、今、吉村刑事とお前を尾行していて、吉村刑事とお前がこの店に入ったので混乱していると思うよ」と説明された。


「うわぁ~、知りたいことが全部わかった!こっちもレイニーに説明しないとね。でも、何をって、おバア様がお決めになって」と良子が大奥様の方を向いていった。彼女は王さんに、お話し、と言う。


「後藤巡査、レイニー、全部説明は面倒だ。端折って説明する。『巻き込みたくない』女の子というのは、この家の、大奥様の孫の彼女だ。孫は林田達夫。もう日本にはいない。中国に放逐した。林田達夫は、台湾野郎どもにこの女の子を大金欲しさに売っ飛ばした。だから、彼女が他の4人の人質と一緒に救出されちゃあ、マズかった。それで、先に逃した。そうじゃないと、彼女の身元が知れる。数珠つなぎに林田達夫の存在がわかる。そうなると、高橋良子、張芳芳の名前も出てくる。H飯店の名前も出てくる。張芳芳から張の家も結びつく。そうなると、台湾野郎どもと俺たちの抗争になる。中華街がひっくり返る。そういうことだ」なるほど。これで、ほとんどのパズルのピースが揃った。これなら、私も何かできるだろう。彼らの考え次第だが。あら、でも、まだ、わからないことが。


「王さん、ひとつ私がわからないことがあるんですけど。在日米軍郵便局に集められた日本人女性の人質を台湾のヤツラはどうしようとしていたんですか?」

「え?後藤巡査、キミは知らないで・・・そうか、キミは台湾の連中に情報を売っていたが、台湾の連中はキミに彼らが何をしているか、説明する必要がないからな。これは最初のことじゃあない。台湾の連中は、日本各地から、誘拐してきた女性を集めて、何度も密航させて、香港・広東のマーケットで、中国人に売りさばいていたんだ。今回の取引で、連中は4千万円ほどの売上を見込んでいたんだ」


「・・・売りさばかれた女性は?どうなるんですか?」

「性奴隷みたいなもんだな。自分の楽しみで、彼女らを犯したり、転売したりする。中東なんかに転売したら、値段が上がってもっと儲かる。日本人女性はステイタスだから。大奥様の孫は、それを知りながら自分の彼女を売り払ったんだ。だから、林田家から放逐された。二度と日本に戻ってこないように。家の恥だ」

「・・・私は、性奴隷を集めるお先棒をかつがされていたんですか・・・許せない・・・チクショウ!私も強姦されて自分の人生が狂ったのに、それと似たような境遇の女性を作るお先棒を・・・チクショウ!」


 大奥様が永福ヨンフゥを見た。「徐、何か言いたそうだね?お言い」


「奥様、俺はレイニーに約束したんです。俺に協力する、俺の言う通りにする。それで、レイニーを利用しているヤツラ、レイニーを抱いているヤツラを徹底的に叩き潰して、彼女を自由にすると。もう、他の男に彼女を抱かさせない。俺の妻にします。警察なんか辞めて、俺と結婚して、彼女の両親の台湾料理屋を二人で継ぎたいんです。俺は、レイニーを危ない目には合わせたくない。だが、台湾連中を警察に逮捕させたい。だから、レイニーには、台湾連中に逮捕する理由作りのウソの話を流したい。そのウソの話は、これからみんなで相談しなくちゃいけませんが。それから、副署長、部長刑事、税関職員、米軍の大佐とレイニーの密会の写真は、レイニー自身が誰かに撮らせて持ってます。こういうものを」と永福ヨンフゥが写真を4枚、取り出した。私のタンスから持ち去ったものだ。「彼女の顔をボカして使えると思います」


「レイニー嬢ちゃん、真面目な顔をしてやるじゃないか?昼は真面目な警察の巡査。面白い」と大奥様が言う。こう言われると、まったく、私のやっていたことは、まともなことじゃないとますます思った。

「林田さん、奥様、永福ヨンフゥに言われることは、私は何でもやります。もう、こういう生活から抜け出したい。それと台湾のヤツラを叩き潰したいです。人身売買の女奴隷なんて許せません!なんでもお申し付け下さい」

「ほぉほぉ、いい心がけだ。後でお前ができることを考えようじゃないか。それはそれとして、レイニー、ご両親のお店、地上げにあってるんだろう?レイニーと徐が店を継ごうにも、店がなくなっちゃあしょうがないね。そっちは私がなんとかしよう」

「奥様、あ、ありがとうございます」

「ただね、徐は、あんたの亭主は時々借りるよ。徐の腕が必要なことがあるからね。高校3年生の時にレイニーは大変な目にあったんだよね?噂で聞いてたよ」


「・・・ずっと、知っておられたんですか?」

「お前、中華街のことは私はほとんど知ってるよ。だいたい、お前の名前、レイニー(丞琳)は私が名付け親だよ」

「え?父も母もそんなことは・・・」

「お前んとこは台湾系だからね。あまり、私がって言いたくなかったんだろう。徐とお前のことも知っていたよ。その内、なんとかしようと思っていたが、当人同士で解決したなら、手間が省けた。レイニー、徐のチ◯コは良かったかい?」それを聞いて、永福ヨンフゥが珍しく慌てた。彼が狼狽することもあるんだ。

「・・・ええ、奥様、とっても良かったです。7年ぶりでした。もう、彼以外のは一生要りません」

「ホホホ、安産型だから、いっぱい客家の子を生むといいやね」


「奥様、もうひとつお願いがあります」と永福ヨンフゥが言った。

「面倒だから、いっぺんにいいな。なんだね?」

「入籍や式は後として、今朝、指輪を買ってきました。婚約と結婚と。これをみんなの立ち会いで交換したいと思いまして」と永福ヨンフゥが真っ赤になっていう。永福ヨンフゥでも真っ赤になるのか?彼がポケットから3個の赤のボックスを取り出した。

「お前は準備がいいことだよ。余計な儀式はなしにして、交換おし」


 奥様と王さんが立ち上がって、私たちの腕を取った。王さんが婚約指輪を永福ヨンフゥに渡した。永福ヨンフゥが指輪を私の薬指にはめた。結婚指輪を奥様が、永福ヨンフゥと私に渡した。永福ヨンフゥが私に、私が永福ヨンフゥに指輪をはめた。涙が出てきた。床にしゃがんでしまった。良子が近寄ってきて「さあ、仮祝言で、食べて飲みましょうよ」と言って、私を抱き起こして、席につかせた。隣に永福ヨンフゥ


 ファンファンが「レイニー、羨ましいよ。私なんか、マフィアの家の娘を抱いた不良刑事が彼氏だよ?高校3年生の未成年の時にだよ!レイニーみたいなハッピーエンドにゃならないよ。いいなあ」と言う。


「ファンファンは高校生なの?」と聞くと「吉村刑事が私を抱いた時が高校3年生。犯罪だわ!って、お互い知らないでやっちゃったんだけど。今は、大学1年生だけど、まだ未成年だよ。良子も同じ。その女子大生の体をあなたの同僚の刑事がもてあそぶんだ。私、法学部だからね。いつか、検事になったら、吉村を顎で使ってやるつもりよ」と答えた。良子といいファンファンといい、ちょっと得体の知れないところがある。


「後藤巡査、ファンファンと良子は気をつけな。こいつら、わけわかんねえから。そう言えば、お前は柔道で俺相手に手を抜くだろう?黒帯も申請しねえしな。だけどな、ファンファンと良子は合気道とわけのわからん体術を使う。特に、良子は、台湾野郎2人とアメ公3人をアッという間にのしちまった。もしかすると、お前の亭主よりも強いかもしれないぜ」と言う。え?この美少女が?


「あ~あ、みんな相手がいる。良子だけあぶれてるよぉ~。誰か相手を紹介して!ファン!吉村さんを貸して頂戴!」と吉村刑事の腕を引っ張ろうとして、ファンファンに止められている。


 今まで、暗い舞台裏でゴソゴソと這いずり回っていたのが、急に明るい表舞台に出たような気がした。また、涙が出てきた。


 しかし、このメンバーの組合せ、どこか変だ!



※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

※この物語は性描写や飲酒、喫煙シーンを含みます。

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