第10話 声

「やあやあ!君で5人目か、これで全員揃ったな。そんじゃあ、ひとりずつ自己紹介といこっか。まぁ見たとこ、俺が一番年長だし、まずは俺からだな。俺の名前は安野朔太郎。23歳だ、サクって呼んでくれ。加護は土属性、武器は——まぁ、見た通り斧だ。よろしく頼む」


「じゃあ、次は私から自己紹介するわ」


俺と同じ班には、初日に質問をしていた黒髪ポニーテールの女子がいた。


「私は八坂凛、17歳。加護は火よ、武器はこれね」


彼女は腰に下げた細身の剣を指で叩く。柄と鞘を見ただけでも装飾が豪華で、素人目にも凝ってる造りだとわかる。赤と金のアクセントが入ったタイトなジャケットにスカート風のパンツ、一見普通の服に見えるが、チラチラと服が光るのは鉱石が仕込まれているからだろう。強化繊維と衝撃吸収材を使った特注装備だ。


「八坂……?なぁ、ひょっとしてあんた八坂鉱業と関係があったりするのか?」


サクの質問に少女は斧をチラッと見ながらドヤ顔で答える。


「そうよ。加護に合わせてパイロックス仕様にしたわ。探索者なら早急に加護に合わせるべきね」


確かにサクの斧はただの鉄製で、普通の斧だ。加護を最大限に活かすならそれに応じた鉱石を使用するのが一番良いのだろうけど……。当たりまえだけど値が張る。そんなに簡単に手が出るような額じゃなかったはずだ。サクは両手を挙げて苦笑いする。


「ははっ、まぁ、あんたの言う通りだな。八坂はなんて呼べばいい?」


「好きに呼べばいいわ」


「そっか、じゃあ凛——」


「やっぱり名前はやめて!」


サクは少し傷ついたような呆れたような微妙な顔になったが、すぐに調子を取り戻す。


「オッケー、じゃあ苗字でよばせてもらおう。さて、お次は?」


「では、俺が」


落ち着いた雰囲気の黒髪の青年が手を挙げる。


「俺の名は南方宗一、20歳。加護は水、武器は見ての通り刀だ」


南方の腰には立派な日本刀が下がっている。鞘には南方と名前が彫ってあった。鞘に名前って彫るもんだっけ?


「なあ、鞘に名前が彫ってあるんだけど、刀ってそういうもんなの?」


「ああ、これか。俺の家は南方流剣術をやっていてな、それで南方の伝統で鞘にも名前を刻むんだ」


「へぇ、よくわからないけど、そう聞くとかっこいいなぁ」


「南方は宗一がいいか?それとも宗ちゃんか?」


サクの急な質問にも落ち着いて宗一は答える。


「どっちでもいいよ」


「じゃ、宗ちゃんで決まり!さて、次は」


サクは俺と残った女の子を交互に見て、女の子を指差す。


「んじゃ、レディーファーストでいこう!」


サクに両手で指差された女の子はビクッと身体を震わせる。


「あ、ええと、その。五十嵐巴、18歳、です。えと、加護は風で、武器は弓を使います。あと、ええと、呼び方は私も好きに呼んでもらって構いません」


巴はあまり人前で話し慣れていないらしく、ぎこちない感じだ。


「それって弓道の弓だよね?弓道やってるの?」


サクが尋ねると巴は黙って頷いた。


「じゃあ、遠距離担当は彼女で決まりだな!」


「大きい弓だと、狭いところは使えないわね」


凛の指摘に、巴が「はい、すみません……」と小さく謝る。



「まぁまぁ、巴ちゃんにしか狙えないような、高所にいる魔獣もいるかもしれないし」


「わかってるわよ。ただ、事実を指摘しただけよ」


サクがいるお陰で凛の鋭い突っ込みも少し和らいだようだ。だけど、問題は俺だよなぁ……。自己紹介がこれほど憂鬱に思ったことってあっただろうか……。


「さて、最後は君だな」


サクに言われて、俺は覚悟を決めた。ファムじゃないけど、当たって砕ける前に挫けそうだ……。


「俺は結城一馬、19歳。武器は短剣だ。あと、加護なんだけど……まだ発現してないんだ」


「はぁ!?加護が無いって、どういうこと!?」


「おまえ、まだ加護が無いのか?」


凛とサクが真っ先に反応する。覚悟はしてたけど、やっぱりこういう反応になるよな……。


「ま、まぁ……。魔獣を倒してはいるんだけど、なかなかうまくいかなくて——」


「うまくいくとか、いかないとかの問題じゃないでしょ!私なんて1匹目で発現したけど?」


「ははっ、それは凄いね」


俺はもう苦笑いするしかない。凛の言葉が胸に刺さるけど、反論する気力もない。


「加護無しでおまけに武器は短剣、思いっきり役立たずじゃない」


「まぁまぁ、本人のせいでもないだろう。それに俺たちは既に四元素揃ってるんだし、問題ないだろ?」


「スキルが使えないシーカーと一緒なんて、一般人連れてダンジョンに行くようなものだし」


サクのフォローも虚しく、凛は大袈裟に溜め息をして首を振る。巴は様子見、宗一は、知らん顔。もう、穴があったら入りたい……。そのとき、急に耳鳴りがした。キィィィィィンと何かと共鳴するような音がする。


「……ず…ま」


‥‥‥!?一瞬だが、ファムの声が聞こえたような気がした。俺は周囲をキョロキョロするが当然そこにはファムはいない。ハッとして胸に下げた魔石を見る。だが、魔石に特に変わった反応は無かった。


「どうした?」


サクが不思議そうな顔で俺に聞いてきた。


「いや、今、声が一瞬聞こえた気がして……」

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